6月25日

縦横無尽なリズムの怪人、世界はプリンスに追走するのに必死だった

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photo:WARNER MUSIC JAPAN  

20世紀ポップミュージックの歴史的派生をダンスミュージックの見地から辿ってみると、大別して『縦に刻む』か『横に揺らす』かという二種の比率が鍵になっている。

受身の表現に換言すれば『首にくる』か『腰にくる』か。これらリズムの違いは、いわば嗅覚に似て非なる感覚でフェロモンを嗅ぎ分けられるように、我々聴衆が抽象的でありながらもカラダで感じとれている違いである。無論『横』のリズムの豊かな土壌は黒人文化の中にあった。

ロックンロールは、従来『縦』のリズムに寄った白人音楽家が黒人音楽から術を倣い、二種のリズムを抱き合わせたことで派生したジャンルといえる。

50’sのエルヴィス・プレスリーを系譜中央に位置づけた場合、彼よりも『縦』が強いロックンロールを鳴らしたのがバディ・ホリーやエディ・コクラン。こちらの流れはとりわけ英国の若者たちを刺激し、やがてダンスミュージックの範疇からはみだすジャンル、すなわち “ロールを排除した” ロックの雛形となった。

一方、エルヴィスよりも『横』が強いロックンロールは、黎明期のうちはファッツ・ドミノ、リトル・リチャードら黒人音楽家の間でしか生まれ得なかった。

こちらの流れはやがて白人的嗜好に歩み寄る(引き込まれる)ようにして大産業化し、片やモータウンに象徴されるティーンズポップスの雛形に。そして片や、画一化されたビートで踊らせるその後のクラブミュージック群の雛形となった。

ロックンロール誕生後、騒々しいバンドサウンドを踏襲しつつも白人的嗜好に歩み寄らず “R&Bへ逆輸入” という格好で派生したのが、ファンクである。

リズムのセクシャリティをひたすら追求していくファンクシーンはある種、黒人音楽の最深部であり、白人のロックシーンに対する最たる対抗馬とみていいジャンルだった。ジェームス・ブラウン、スライ・ストーン、ジョージ・クリントンらが牽引していた時代はまだ『横に揺らす』ことに対する民族単位の誇りといったものが聴きとれる。黒人による黒人音楽はいつから、というか誰から、こうも節操がなくなり出したのだろうか。

というところで、ようやく怪人の話に移る。プリンスが有する天才性は第一に、時代々々のテクノロジーと戯れながら、文字通り縦横無尽に音楽を創りあげてきたところにある。それは同時に、歴史的大罪でもあるだろう。

最深部に到達できるファンクの継承者でありつつも伝統に縛られず、時にノイジーなエレキとともに『縦』に疾走する。ロックと交配することになんら躊躇がない。どんなサウンドも自ら奏でられる肉体的自信からか(楽器を使わないという選択肢も含めて)リズムを組み立てる発想が革新的に自由だった。

栄光のアルバム群を聴き返せば、ある時代まで世界がいかにプリンスに追走するのに必死だったか想像が容易い。そして、つい何年か前までポップカルチャーの主戦場に居座っていた彼の恐ろしい若々しさというのも、変わらなかった見た目以上に、その多彩なリズムワークから感じられることである。プリンスが現れなかったら、黒人音楽家がここまで『縦に刻む』ことはなかった気がする。

オールディーズを愛好するぼくみたいな人にしてみれば、アンタのせいで今のR&Bは解釈がめちゃくちゃだ! という気持ちも少々あるのだ。『揺らす』より『刻む』ほうが明快であるから、デスクトップを前に頭で音楽を創る時代には『縦』のものがどんどん流行る。なんでもやれる彼にこそいずれ先祖返りしてもらい、EDMに目もくれずファンクの復権に本腰を入れてもらいたかった。

もっとも、未公表の作品が山のようにあるというから、その中に “続き” が隠されているかも知れない。ぼくらはまだまだ、縦横無尽の怪人に振り回されそうである。

2018.04.21
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カタリベ
1982年生まれ
山口順平
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