2017年2月12日に開催された第59回グラミー賞で、逝去後1年にしてデヴィッド・ボウイはノミネートされた5部門(最優秀レコーディング・パッケージ賞を含む)で全て受賞。何とアデルと並び今回の最多受賞者となった。しかし驚くなかれ、2006年の特別功労賞生涯業績賞を除くと、ボウイのグラミー受賞は実に32年振り。しかもこの時は最優秀短編ミュージック・ビデオ賞。そしてこれがボウイ生前唯一のグラミー(部門)受賞となった。1984年のボウイのヒット曲「ブルー・ジーン」が登場する20分の短編映画『ジャジン・フォー・ブルー・ジーン』が受賞作であった。
前年1983年の「レッツ・ダンス」の大ヒットでボウイを知った僕の様な “新参者” にとって、翌年のアルバム『トゥナイト』からの1stシングル「ブルー・ジーン」はその期待に応えるのに十分なキャッチーさを有し、同時に以前のボウイのアヴァンギャルドな魅力も兼ね備えている様に感じられた。金ピカなメイクで中東風の衣装を身にまとったロックスターと、女の子の前で冴えない男の2人をボウイが一人二役で演じるミュージック・ヴィデオもまたキャッチーだった。しかしこのMVは『ジャジン・フォー・ブルー・ジーン』の一部を使用したものであった。
『ジャジン』の監督は多くのMVの監督としてもお馴染みのジュリアン・テンプル。映画のそもそものアイディアはボウイによるものだったという。そのせいかこの映画は風変わりな結末を迎える。ボウイ扮する金ピカのロックスター、スクリーミング・ロード・バイロンにお目当ての彼女をお持ち帰りされたこれまたボウイ扮する冴えない男、ヴィックが突然テンプル監督に「この結末はないんじゃないか」と文句を言い出すのである。遂には「撮影で徹夜続きでろくなものを食べていない」とまで。いわゆる “第四の壁” が破られたメタフィクションの様相を呈するのだ。
ボウイ扮するバイロンのパフォーマンスはさすがのひと言。『戦メリ』公開翌年ということもありボウイの一人二役もすっかり堂に入った印象だし、バイロンに投影されたボウイの自虐的な視点も粋なのだが、最後のメタフィクション的な演出もグラミー賞受賞の一つの要因になったのではないだろうか。「ブルー・ジーン」は最優秀男性ロック・ヴォーカル・パフォーマンス賞にもノミネートされたが受賞はならなかったのである。
「ブルー・ジーン」はイギリスで6位、アメリカで8位と揃ってベスト10入りを果たした。しかしこれがボウイのソロでは最後のアメリカでのトップ10ソングとなった。純然たる新曲が半分以下の『トゥナイト』はイギリスで1位を獲得したものの評判は決して良くなかった。そして「ブルー・ジーン」も別稿で述べた通り翌年のライヴエイドでも歌われなかった。この曲を最後に’80年代後半、ボウイはスランプに陥るのである。
スクリーミング・ロード・バイロンの中東風の衣装は『DAVID BOWIE is』で観ることが出来る。「ブルー・ジーン」のMVも流れる。’80年代、特に『レッツ・ダンス』以降の展示が軽めな『DAVID BOWIE is』では異例と言っていいだろう。やはり「ブルー・ジーン」は’80年代のボウイを語るには無くてはならない1曲であり、その最後の輝きを有した1曲なのだ。
それにしてもボウイが逝去後ようやく初めて音楽部門で受賞とは、アメリカの賞だから仕方が無いとはいえ、一体グラミー賞はどうなっているのだと、ついこぼしたくなってしまう。
2017.02.21
YouTube / David Bowie
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