蒲田の「レディタウン」、銀座の「白いばら」に続き、北千住と赤羽の「ハリウッド」も2018年12月に閉店。東京中、というより日本中のグランドキャバレーの灯が消えようとしている。
ハリウッド閉店と聞いて思い出したのが、キャバレーを舞台にした昼ドラ『ぬかるみの女』。1980年1月から9月まで放送され、翌年には続編もつくられた。ヒロインは、2018年5月に亡くなった星由里子さん。訃報を知らせるワイドショーやニュースは、映画・若大将シリーズで澄ちゃんを演じる星さんを映していたが、私には星由里子といえば『ぬかるみの女』だ。
タイトルの「ぬかるみ」とは、水商売のこと。戦後間もない1950年代の大阪を舞台に、水商売の世界でのし上がっていく女性が描かれる。脚本は、『細うで繁盛記』『どてらい男』『あかんたれ』など、数々の高視聴率ドラマを生み出した関西の重鎮、花登筺。『ぬかるみの女』も、花登らしく泥くさい、ど根性もの一代記だった。
ネオンが映る ぬかるみを
避けて通れる おんななら
甘い誘いも 見抜けます
そんな自信が あったのに
うっかりはまる 嘘の罠
女ひとり 女ひとり
いつまで続く
主題歌の歌詞を書いたのも、花登。歌うのは、まだ21歳だった石川さゆり。暴君な夫に愛想を尽かし、3人の子供を連れて家出。泣く泣くキャバレーのダンサー(ドラマの中では、ホステスをこう呼んでいた)となったヒロイン文子(店での源氏名は準子)の心情を切々と歌い上げる。
世間の冷たい仕打ち、先輩ホステスやアパートの大家のいやがらせなど、歌詞の通り、さまざまな困難が文子を襲う。とはいえ文子、なかなか強かにも見えた。水商売の “常識” に疑問を投げかけ、それらを覆すような接客法を次々に発案。ダメダンサーたちのモチベーションを引き出し、売れっ子ダンサーとなって店を変革していく。かなりのやり手。
当時一緒にドラマを観ていた母が、星由里子についても、いろいろ教えてくれた。この時代、スターの意外な過去は、たいてい母の何気ないおしゃべりから知ったものだ。
前夫は、あの大惨事を起こしたホテルニュージャパン社長、横井秀樹の長男だったこと。その長男とはすぐに離婚し、花登と不倫の末に、妻の座についたこと。数々の困難を乗り越え、大物脚本家夫人となって、夫が書いた脚本でヒロインを演じる星さんが、しっかり者でこれまでの常識にとらわれない文子と重なった。
『ぬかるみの女』のエピソードで忘れられないのが、文子の純白ドレス。一張羅の衣装で白を選び、周囲の先輩ダンサーたちにあきれられる。何着ものドレスを買える売れっ子ならまだしも、新人のくせに、「汚れが目立つ白のドレスを着るなんてあり得ない!」ってことらしい。だが文子、「このドレスのように私も純白よ!」とばかりに、毎日洗濯して純白をキープ。
当時はふーんと観ていたのだが、洗濯機も乾燥機もないのに、どうやってキレイにしていたのだろう。謎は深まる。
そして、『ぬかるみの女』が放送されていたとき、私は12~13歳。録画デッキもないのに、なぜこんなに昼ドラを観ていたのだろう。その謎も深まる。
2018.12.11
YouTube / chw jan
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