代表曲とファン人気の曲の違い… 光GENJIの場合
歌手の代表曲と、ファンが選ぶ好きな曲とは、多くの場合一致しない。ましてや有名すぎる曲がある歌手、レコード大賞を獲ったりしている歌手なんかであれば、その傾向はなおさら大きい気がしている。
光GENJIもその一員で、代表曲といえば「STAR LIGHT」「ガラスの十代」あたりがあがってくるし、一番はというと、レコード大賞を受賞していて、さらにシングルでは光GENJIの最大のヒット曲でもある「パラダイス銀河」になるのだろう。しかし残念なことに、この曲に対するファンの評価はそこまで大きくはない気がしている。
その根拠はというと、かつてのファン投票だ。『光GENJI All Songs Request』というベストアルバムがあり、これはオフィシャルHPとiモードでのファンからのリクエスト投票をもとに収録曲を決定したベスト盤だ。iモードという言葉に時代を感じた方もいるだろうが、そのとおり2002年発売のアルバムであり、おおよそ20年近く前のデータではあるものの、この時点ですでに解散から時間が経っていること(光GENJIは1995年に正式解散)や、周りの光GENJIファンの方の評価を見ている限り、そこまで今との相違は大きくなさそうだ。
気になるその順位には、「ガラスの十代」が3位にランクイン(ちなみに1位は「2.5.7」という、作詞・作曲を諸星和己が手掛けた楽曲)。一方、デビュー曲の「STAR LIGHT」は25位、そしてなんと「パラダイス銀河」は33位と振るわなかった。
今挙げた「STAR LIGHT」「ガラスの十代」「パラダイス銀河」はそれぞれ1、2、3枚目のシングルで、どれも作詞・作曲を手掛けているのは飛鳥涼(「STAR LIGHT」の作曲はチャゲ&飛鳥)だ。同じ人が作っている上、光GENJIとして最大のヒット曲であり、レコード大賞という栄誉も手にしているはずの「パラダイス銀河」が「ガラスの十代」ほど後の評価が伴っていないようなのだ。その歯がゆさをもって今回は「パラダイス銀河」を改めて聞いていくことで、この楽曲の本当の価値について考えてみたい。
「パラダイス銀河」楽曲の考察
疾走感のあるイントロの後に始まるのは、「♪ ようこそここへ 遊ぼうよパラダイス」という明るく開放的な歌詞。
まずは、そのあとのAメロに注目してみたい。
空をほしがる子供達
さみしそうだねその瞳 ついておいで
しぼんだままの 風船じゃ
海の広さを計れない まして夢は飛ばせない
ざっと見ても、「ほしがる」「さみしそう」「しぼんだまま」「計れない」「飛ばせない」という、マイナスなワードが散りばめられている。メロディーラインとしても同じ音の繰り返しが多く、動きが少ない。ところが Bメロに入ると「♪ スーツケースの中に 愛の言葉を掛けて 入れて行こう」という希望の香りのする展開になり、サビの「♪ ごきげんいかが はしゃごうよパラダイス」に繋がっていく。
この1番の展開が、2番になると大きく生きてくる。2番のAメロがこちらだ。
嘘じゃないよ 息を止めて 額にほら
風がぬける シーツは騒ぎ出す
ベッドはもう 汽車になって 銀河行きの
ベルが鳴れば 夢は止まらない 何処までも
さきほどの立ち止まったようなAメロから一転、シーツがはためき、ベッドは前進し、銀河までも飛び立っていくという情景。それに伴ってメロディーラインも低音から高音に向かって上昇していくようなものに変わる。どんどんと視界がひらけてくるような印象を受けるAメロは、1番のそれと明らかに変化をつけているように感じられる。
まるで1番が思春期の立ち止まり、そして2番では想像力に満ち満ちた躍動感を表しているようだ。
実はこの構成は「パラダイス銀河」それ自体に限ったことではない。1曲目「STAR LIGHT」、2曲目「ガラスの十代」こそが「パラダイス銀河」でいうこの“1番のAメロ” にあたるのではないだろうか。
「STAR LIGHT」も「ガラスの十代」もマイナー調のアップテンポな楽曲で、その中には「大人だからとか 子供だからとか 言葉の魔術で愛を片付けられるのは もうごめんさ」や、「こわれそうなものばかり 集めてしまうよ」などの、思春期ならではの苦悩が溢れている。「STAR LIGHT」であたえた少し脆い少年のイメージ像が、「ガラスの十代」ではより大きな抑圧と苦悩を醸成している。その抑圧からの開放、我慢からの爆発、苦悩からのカタルシスとしての存在が「パラダイス銀河」だったともいえないだろうか。
「パラダイス銀河」は、大人には見えない夢の島、もといパラダイス銀河という無限の広がりを見つける少年少女の楽曲であると私は考えている。彼らが抑圧され、鬱屈とした不器用さを良い意味で昇華するとき、自らの中に新たな想像力・創造力が爆発するのだ(ウ~、ワオ!!)。それを表現するために制作されたのがこの楽曲であり、ここに至るまでの3曲であったのではないか。
「ガラスの十代」は間違いなく名曲であるが、それは「パラダイス銀河」という解放・爆発あってのことで、この楽曲の存在こそが、いかに思春期の抑圧や若さゆえにせめぎ合う苦悩というものが美しく儚いものであるかを、より引き立てたのではないだろうか。「パラダイス銀河」を通して、飛鳥涼はこの少年の物語にひとつの完結を示したような気もしてくる。この「ガラスの十代」からの流れでこの楽曲を見ることこそが、「パラダイス銀河」という楽曲の本当の評価につながるのではないだろうか。
飛鳥涼の計算の上で作られた「パラダイス銀河」
そんな飛鳥涼が、2019年にジャニー喜多川氏が亡くなった際、ブログを更新した。そこには、飛鳥たちが光GENJIを手がけるに至った経緯が書かれていた。ジャニー喜多川氏が光GENJIのための楽曲の依頼に飛鳥涼のもとを訪ね、説得した時、飛鳥は戸惑いながらもこう答えたという。
「光栄です。ひとつだけ、お願いがあります。僕(ぼくたち)にとっても冒険です。そのようなインパクトを持った新人なら、楽曲の良さとは関係の無い売れ方をするかもしれません。そうなると、デビューシングルが頭でっかちに売れたかとなっては、楽曲の力は度外視されることになります。1曲目よりも2曲目。そして2曲目よりも、さらに3曲目と、彼たちを大きくすることができるよう、3曲目までは、やらせていただけないでしょうか?」
まさに1曲目「STAR LIGHT」で不安定な若さを印象づけ、2曲目「ガラスの十代」でその思春期ならではの苦悩を大きく膨らませ、はちきれそうになった自我を3曲目「パラダイス銀河」で爆発させた。
このエピソードは、3曲のストーリーが計画的であったことを表しているのではないだろうか。
光GENJIの起こした社会的なブームはしばしば「アイドル史上最大瞬間風速」とも表現される。残念ながら私は当時の彼らの全盛期をリアルタイムで感じることはできなかった。しかし「STAR LIGHT」、「ガラスの十代」、そして「パラダイス銀河」と続けて聴けば… そこに起こった旋風と爆発を、多少なりとも感じられるような気がするのだ。
※2021年3月9日に掲載された記事をアップデート
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2023.03.09