何ものにおいても、故郷というものがある。原体験と言っていいそれは、その人のその後を決めてしまうような何かだ。
僕の音楽におけるそれは、クイーンだ。
小学校高学年だった当時、キムタク主演の月9ドラマ『プライド』にクイーンの曲が多く使われており、クイーンはちょっとしたブームだった。
そのドラマで使われたクイーンの曲をまとめた『ジュエルズ』というベスト盤が、私の初めて買った CD になった。この CD が売れに売れたらしく、クイーン再評価の気運が高まりそれが大きなうねりとなって、クイーン+ポール・ロジャースという形での「復活」を促した。僕の行った初めてのライヴは、さいたまスーパーアリーナでの彼らのものだった。
なぜクイーンに惹かれたのか振り返ってみると、ちょうどその時期が私の人生の中で始めての(そしてそれから幾度となく繰り返される)「挫折」の時期であったことが大きいように思う。どうしようもなく途方に暮れて、地元の河川敷で聴いた「RADIO GA GA」。どんなことを歌っているのか気になり対訳を見た。
ラジオ、最近調子はどう?
まだ君のことが好きな奴もいるよ
MTV 時代になり、廃れ始めたラジオへの哀愁こもった応援ソングが、僕自身へのものに思われたのだった。良質のメロディが、それを助けたのだろう。使い古されたような言葉だが、まさに元気を与えてくれたのだ。
クイーンというバンド自身、この曲を発表した時期には真剣に「解散」ということを考えていたようだ。しかし、翌年のライヴエイドでの、この曲を含んだ圧倒的なパフォーマンスによって、彼らは奇跡の復活を遂げた。
そのパフォーマンスを初めて DVD で観た時、「音楽の神様」のようなものが降り立った瞬間を目の当たりにしたような気がした。それは、世界で最も祝福された20分であった。
大切なのは、スタジアムを埋め尽くす観客が「クイーン目当て」で来たわけではないという点だ。しかし、スタジアムにいる全員がフレディとともに手を叩き、突き上げている。「音楽の力」というものを信じさせてくれるような美しさが、そこにはあるようだ。
そして僕は、何か事あるごとにこの映像を見返すようにしている。解散の寸前にあったバンドが精一杯演奏し、それが観客に伝わり大きなうねりとなる瞬間は涙を流すほど感動的であり、勇気付けられるからだ。
下手にひねくれておらず純粋に楽しく元気付けられるクイーンの楽曲は、僕にとっていつも帰るべき「故郷」の響きを持っている。
※2016年6月10日 に掲載された記事をアップデート
2018.07.14
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