私が通う大学は小田急線沿線にあった。通学途中、玉川学園前を急行で通り過ぎる度、私は夢想する。ふっくらとした優しい顔立ち。キリッとした眉と美しいまつ毛。神秘的な光を宿した大きな瞳。そして、彼女の涙が美しいのは目元にあった泣きぼくろのせいだろうか。1980年代にあった出来事をカタリベとして綴る度に思うんです。また薬師丸ひろ子さんについて書いてしまったと。三村ツッコミでいうところの「ファンかよッ!」である。
特に『野性の証明』(1978年)から始まり、『Wの悲劇』(1984年)で終わった角川映画の7年間は私にとってはまるで夢のような時間であった。「アイドルの追っかけなんかバカじゃネーの?」などと平気でうそぶいていたのに、気が付くと彼女とスクリーンで会うのを楽しみにしている自分がいる。映画館で買ったパンフレットは全部宝物になった。そして次回作を待つ間、ファンクラブ会報とも言うべきバラエティ誌を読みふける。そのすべての時間が彼女に“再び会うまでの遠い約束”なのだ。
今回はその彼女の主演作の中でも一番のお気に入りの映画『メイン・テーマ』(1984年)について触れておきたい。これは薬師丸さんが成人してすぐに劇場公開されたもので、十代最後の姿がフィルムに焼き付けられている。それまでの作品ではヤクザの女組長であったり、超能力少女やお嬢様女子大生といった一風変わった役どころが多かったが、この作品ではごくフツーの幼稚園の先生を演じている。二十歳を迎えたばかりの等身大の薬師丸ひろ子のお披露目である。要するに私は作り物ではない、まるで素のような彼女の姿にすっかりやられてしまったのだ。そして、さらに松本隆さんが作詞した主題歌がとどめを刺す。
愛ってよくわからないけど
傷つく感じが 素敵
笑っちゃう 涙の止め方も知らない
20年も生きてきたのにね
そう、それはまるで彼女そのものを表現し尽くしていた。
メイン・テーマ
作詞:松本隆
作曲:南佳孝
編曲:大村雅朗
発売:1984年(昭和59年)5月16日
2016.03.17
YouTube / KadokawaPicturesJP
YouTube / 六連星K3
Information