通っている大学は小田急線沿線にあった。通学途中、玉川学園前を急行で通り過ぎる度、僕は夢想する――。
ふっくらとした優しい顔立ち。
キリッとした眉と美しいまつ毛。
神秘的な光を宿した大きな瞳。
そして、彼女の涙が美しいのは目元にあった泣きぼくろのせいだろうか。
80年代にあった出来事をカタリベとして綴る度に思うんです。また薬師丸ひろ子サンについて書いてしまったと… 三村ツッコミでいうところの「ファンかよッ!」である。『野性の証明』(78年)から始まり、『Wの悲劇』(84年)で終わった “ひろ子姫” との角川映画の7年間は、まるで夢のような時間であった。
「アイドルの追っかけなんかバカじゃネーの?」
大人ぶってそんな風に嘯いていたくせに、気が付くと彼女とスクリーンで会うのを僕は秘かに楽しみにしていた。映画館で買ったパンフレットはすべて宝物になり、次回作を待つ間はファンクラブ会報とも言うべきバラエティ誌を読みふける日々が続く。そのすべての時間が彼女に “再び会うまでの遠い約束” なのだ。今回は、そんなひろ子姫の主演作の中でも僕が最も気に入っている映画について触れておきたい。
80年代日本映画ベスト1とも言われる名作『家族ゲーム』で、一気に若手のトップに躍り出た森田芳光監督の瑞々しい感性が随所にみられる青春映画、それが『メイン・テーマ』(1984年)だ。この作品におけるプロデューサー・角川春樹氏の目論見は、看板であるアイドル女優・薬師丸ひろ子の成長をファンの脳裡に強く焼き付ける事と、彼女の新しい一面(リアル)をさらに引き出すことだった。
森田監督にしてもこの頃、松田優作、沢田研二、超一流の大物スターとのコラボレーションを果たしたばかり、「映画はマジックだ」とばかりにノリにノッテいた時期の演出作品と言える。人気上昇中の原田知世を主演に据えた『愛情物語』との2本立てで、配収18億5000万円の大ヒットを記録した。
さて、話をひろ子姫に戻そう。今作は彼女が成人して間もなく劇場公開されたもの。ここで重要なのは、十代最後の薬師丸ひろ子の姿がフィルムに焼き付けられている点である。それまでの作品ではヤクザの女組長であったり、超能力少女や世間知らずのお嬢様女子大生、悪霊に追われる戦国の姫様といった一風変わった役どころが多かったが、姫はこの作品ではごくフツーの幼稚園の先生を演じることになった――。
かつて幼稚園で面倒を見ていた子供の父親(財津和夫)に恋をしてしまう姿は、もし薬師丸ひろ子が女優でなかったらというパラレルワールドをリアルに感じさせてくれるものだった。彼女は映画パンフレットの中で次のようなコメントを残している。
「6月9日になった日の深夜、何となくジンときた瞬間がありましたね。でもそれはきっと女の子なら誰でもが持ってしまう時間だと思います。女優としての薬師丸ひろ子としてよりも、普通の女の子・薬師丸博子としての気持ちだったと思います。<中略>
森田監督は若い女の子の気持ちを掴むのがとても上手で、自分でもハッとするような気持ちを引き出し、それをスクリーンに映し出してくれたと思います」
こうして僕は、何より作り物ではない… まるで素のように見える彼女の姿にすっかりやられてしまったのである。映画は、まさに等身大の薬師丸ひろ子のお披露目だった。
そして、最後に姫のクリスタルボイスと軽妙洒脱なリリックがとどめを刺す。
愛ってよくわからないけど
傷つく感じが 素敵
笑っちゃう 涙の止め方も知らない
20年も生きてきたのにね
そう、それはハタチを迎えた薬師丸ひろ子を見事なまでに表現し尽くしていた。
Song Data
■メイン・テーマ
■作詞:松本隆
■作曲:南佳孝
■編曲:大村雅朗
■発売:1984年5月16日
※2016年3月17日に掲載された記事をアップデート
2019.05.16
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