90年代デビューアーティスト ヒット曲列伝vol.10 ■ 大事MANブラザーズバンド「それが大事」
作詞:立川俊之
作曲:立川俊之
編曲:大事MANブラザーズバンド&渡辺禎史
発売:1991年8月25日
売上枚数:160.3万枚
1990年~1999年の10年間にデビューし、ヒットを生み出したアーティストの楽曲を当時の時代背景や、ムーブメントとなった事象を深堀しながら紹介していく連載の第10弾。今回は、大事MANブラザーズバンド「それが大事」を紹介します。
「邦ちゃんのやまだかつてないテレビ」のテーマソングでヒット
「それが大事」は、リリース当時、テレビ朝日系列のニュース番組『スポーツフロンティア』のエンディングテーマというタイアップが付きリリースされましたが、あまり話題になることはなく、その後、フジテレビ系バラエティ番組『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』のテーマソングに起用され、人気が爆発。160万枚のミリオンヒットを記録します。
1989年に『夜のヒットスタジオDELUXE』に代わり放送開始となった『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』(通称『やまかつ』)は、開始当初、プロ野球中継が行われない期間に放送されるつなぎという位置づけでスタートしました。
局としてそこまで期待をかけていた番組ではなかったのですが、『オレたちひょうきん族』の出演で培われた山田邦子の、芸人としての確かな経験と実績を活かすために、レギュラー出演者は山田邦子が気負わない、森口博子や森末慎二、高橋英樹、高岡早紀など、それまでバラエティ番組への出演経験が少なかったメンバーを多く起用。
“コントも演技も歌もがんばる邦ちゃん” というイメージを押し出し、スマートなスタイルを意識した “新しい時代のエンターテイメント” を確立していきました。
そのスタイルが時代の風潮と見事にハマり、最高視聴率20.4%を獲得する人気番組となります。
シンプルなメッセージを、よどみのない美しいメロディで歌う「それが大事」も番組カラーに見事にマッチ。テレビバラエティの新しい波に乗った、ヒットだったのです。

何でもできた。だから「それが大事」もできた
「それが大事」リリース前までの、大事MANブラザーズバンドは、メンバー構成が男女混成であることや、フロントマン立川俊之の類まれな音楽センスから繰り広げられる、ジャンルレスな楽曲へのアプローチで “埼玉のサザンオールスターズ” と呼ばれていました。
エルヴィス・コステロや、アメリカのコーラスグループ、エモーションズを意識した曲でライブを盛り上げ、それが話題となりメジャーデビューが決定。
タレントの森尾由美のことを歌った(このテーマだけでかなりのインパクトなのですが)デビュー曲「MO-RIO」は、イントロから情熱的なスパニッシュサウンドを魅せ、セカンドシングル「何だっつんだSummer」もジプシー・キングスを彷彿とさせる、フラメンコとロックのクロスオーバーと、J-POPと他の音楽ジャンルの融合をどんどん仕掛けていきますが、セールスには全く結びつかない。
才能があるが故、なんでもできちゃう “器用貧乏“ になってしまっているかも… と悩んでいる最中、レコード会社から「次の曲がダメなら解雇」と言われ、自分の気持ちを鼓舞する意味も含め、
「どんな人が聴いてもわかるような『みんなのうた』で流れるような曲を書かなきゃいけないのかな」
―― という想いで完成させたのが「それが大事」でした。
ヒットソングを生み出したあとの苦しさと、その先
「それが大事」のヒットは、バンドのフロントマン立川俊之を長い間、苦しめることになります。どこへ行っても、この曲ばかりを求められる。多彩な音楽センスを持っていたミュージシャンにとって、それが大きな葛藤となっていったのです。
そしてそれが一気に爆発する出来事が起こります。それは、2015年に出演したバラエティ番組『しくじり先生 俺みたいになるな!!』。立川俊之は、“もうどうなってもいい!” という想いで、その時の心境を番組でこう語りました。
「私には、もう歌で伝えたいことなど何もない。大事なことなんて、何もないです」
しかしこの発言で、番組は大盛り上がり。過去最高の神回と、SNSでも大きな反響があり、テレビ朝日系音楽番組『musicるTV』の企画でアンサーソングをリリースするまでに発展します。立川俊之本人は、後に、
「この番組(しくじり先生)に出演して本当によかった。自分の業を見失っていたことに気付き、この曲をずっと歌い続けている自分が誇らしく思えるようになった」
―― と話しています。

負けてもいい 投げ出してもいい 信じ抜けないこともあるだろう
立川俊之は、デビュー25周年を迎えた2016年に、音楽番組『musicるTV』の企画で「それが大事」のアンサーソング「神様は手を抜かない」をリリースします。その曲の歌い出しは、
負けてもいい
投げ出してもいい
信じ抜けないこともあるだろう
この曲の歌詞に関して、立川は、
「「それが大事」の歌詞とは正反対のフレーズからはじまりますが、それは否定では無く、逆説的に帰結する部分は一緒」
―― と語ります。そして、こう続けます。
「俺たちが若い頃、何が素晴らしかったかというと、何の根拠が無くても進めたことなんですよ。なんとかなる!っていうのが何よりも強かった。それは今でも大事にしているかな」
駄目になりそうな時を乗り越えたミュージシャンが、ずっと忘れなかったことは、最初からこの曲に刻まれていたのです。
そして、リリースから30年以上経ってたどり着いたのは、知らないものを恐れていたら、出した答えは自分だったこと。
今も、この曲を歌い続けていることは、本当に素晴らしい。
それこそが、一番大事。
▶ 大事MANブラザーズバンドに関連するコラム一覧はこちら!
2023.10.03