TM NETWORKのポップで温もり溢れる楽曲 人は大人になると、なぜ空を見上げなくなるのだろう。それでも、ふと立ち止まり夜空を見上げたとき、満天の星の美しさにハッと息を呑む瞬間がある。そんなときに、決まって頭の中で流れ出す曲—— 。
遠い空を見つめていた
君と出会った日をたどって
時がたつのも忘れ
いつのまにか星が降りしきる
それは、こんな歌詞で始まるTM NETWORKの「Here, There & Everywhere(冬の神話)」だ。TM NETWORKにとって名実ともにブレイクを果たした4枚目のアルバム『Self Control』のラストを飾る1曲である。
TM NETWORKといえば「Get Wild」や「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」など、クールで斬新なデジタルサウンドを思い浮かべる人が多いだろう。しかし彼らには、この「Here, There & Everywhere(冬の神話)」や、同じアルバムに収録されている「Fool On The Planet(青く揺れる惑星に立って)」のように、ポップで温もり溢れる楽曲も多い。そのバランスこそ、TM NETWORK最大の魅力ではないだろうか。
モチーフはギリシア神話のアルテミスとオリオン さて、「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」と聞けば、まず思い浮かぶのはビートルズの同名異曲(1966年 / アルバム『リボルバー』収録)かもしれない。どちらもラブソングという共通点はあるものの、ビートルズが “当たり前の日常に潜む愛” を描いたとするならば、TM NETWORKは、SF的感性を盛り込みながら “ギリシア神話を用いた恋の物語” として描いている。
それは、ギリシア神話のアルテミスとオリオンの物語。狩猟と月の女神・アルテミスと、美しい青年オリオン。2人は互いに惹かれあいながらも、アルテミスの兄・アポロンの策略によって引き裂かれる。アルテミスは誤って、愛するオリオンを矢で射抜いてしまうのだ。悲しみに暮れた彼女は、いつでも傍にいられるようにと願い、オリオンを天に上げ星座にしてもらう。それは会えなくなっても、星空を見上げれば愛する人がそこにいるという悲しくもせつない物語だった。
ビートルズ「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」との共通性 ここで、ビートルズの「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」の歌詞を見てみよう。
Each one believing that love never dies
Watching her eyes
and hoping I'm always there
I will be there and everywhere
Here, there and everywhere
ビートルズは “当たり前の日常に潜む愛” を静かに歌っているわけだが、訳すとこんな感じだろうかーー
愛は決して死なないと互いに信じながら
彼女の瞳を見つめ
いつも自分が傍にいられるようにと願う
僕はそこにいる そしてどこにでもいる
ここにも そこにも どこにだって
VIDEO
心がキュンとするせつなさがよみがえってくる「Here, there, everywhere」 このビートルズの歌詞を、アルテミスとオリオンの神話と重ねながら読むと、不思議と通じるものを感じはしないだろうか?そう、愛する人は星となって空に昇ったが、彼はここにも、そこにも、どこにだっている。そして小室哲哉はTM NETWORKの「Here, there, everywhere」で、ビートルズの世界にある “愛はいつだってそこにある” というメッセージを、ギリシア神話を用いて見事に再構築させた。
そして、どちらの曲も最後は同じ言葉「♪ Here, there(and)everywhere」で締めくくられる。“当たり前の日常に潜む愛” と “ギリシア神話を用いた恋の物語” は、“永遠の愛” を描くという部分で見事に呼応する。筆者の解釈にすぎないが、そう考えるとTM NETWORKの「Here, There & Everywhere(冬の神話)」の歌詞の美しさがさらに際立ってくる。
VIDEO 小室哲哉といえばそのサウンド面に光が当たりがちだが、ひとたび歌詞に目をやれば、豊かな知性と抜群のセンスを備えた、作詞家・小室哲哉としての才能が光る。この曲はそんな1曲と言えるのではないだろうか。
どこにいても気持ちはそばにいるよ
アルテミスが放つ矢の行方を君は
今どこで見るのか
Here, there, everywhere
まだ聴いたことがない人は、凍てつくような冬の寒い夜、星空を眺めながらこの曲を聴いてみてほしい。ロマンチックで、少年少女の頃のように心がキュンとするせつなさがよみがえってくるだろう。そんな感情を軽やかなポップチューンとして描いた「Here, There & Everywhere(冬の神話)」は、TM NETWORKの心温まる名曲だ。
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2026.02.05