ソロデビュー45周年を迎えた増田惠子 1981年3月にピンク・レディーを解散した増田惠子は、同年11月に中島みゆきから提供された「すずめ」でソロデビュー。以後、松任谷由実、竹内まりや、桑田佳祐など、名立たるシンガーソングライターの楽曲を持ち前のハスキーボイスで歌唱し、ピンク・レディーのケイからの転身を遂げる。1989年にはフランスでのデビューも果たすなど、独自の世界を構築。ソロデビュー45周年を迎えた今年は自身初のセットリスト事前公開ライブを成功に導いたほか、竹原ピストルから提供された新曲「貴方は彼方へ」をリリースするなど、いつにも増して精力的な活動を展開している。ロングインタビューの後編はソロ活動を振り返りつつ、新曲や今後のライブに懸ける想いを訊く。
中島みゆきの曲が歌いたいという思いが実現した「すずめ」 ―― ソロデビュー45周年を迎えた今年の2月、ワーナーミュージックより『ゴールデン☆ベスト 増田惠子 シングル&恋するお友達』が発売されました。ケイさんがソロ活動の初期に在籍したワーナー時代の音源から、初CD化される9曲を含む形で収録されています。
増田惠子(以下:増田):セカンドアルバムの『恋するお友達』は今までCD化されていなかったので、嬉しいリリースでした。自分で言うのもなんですが、素敵な楽曲ばかりですので、ぜひ多くの方に聴いていただきたいです。
―― ピンク・レディーとして活動した4年7ヶ月の間にもソロで歌った楽曲はありましたが、ソロ歌手・増田惠子(当時:増田けい子)としてのキャリアは「すずめ」から始まりました。確か、歌番組で共演した桜田淳子さんが、中島みゆきさんから提供された「しあわせ芝居」を歌う姿を見て以来、いつか自分もああいう歌を歌ってみたいと思われていたんですよね?
増田:そうなんです。ソロ歌手として活動を開始するにあたって、当時所属していた事務所の社長さんから “誰に書いてもらいたい?” って訊かれたので、“みゆきさんの曲が歌いたいです”と言ったら、ありがたいことに実現して。ダメでもともとという気持ちでしたから、本当に嬉しかった!
―― 「すずめ」はピンク・レディーの楽曲とはまったく異なる、等身大の女性のリアルな心情を描いた失恋ソング。レコーディングはいかがでしたか。
増田:いただいたデモテープには、みゆきさんの弾き語りが入っていたのですが、インパクトが強すぎて。その世界に入り込んでしまって、自分が歌うときに、どうしてもみゆきさんの真似になってしまうんです。ディレクターさんから “それではケイちゃんの歌じゃないよ” と言われて、何回もやり直しとなりました。確か4日目だったと思うんですけど、“これだけ歌えば、歌詞は全部頭に入っているだろうから、歌詞の意味から離れて、何か違うことを考えながら歌ってみたら” と言われたので、“分かりました” と。それで “今日もまた遅くなるだろうけど、帰ったら何を作って食べようかな” と思いながら歌ったら、すぐにOKをいただけたんです。
―― すずめではなく、頭のなかは鶏肉のことだったりして(笑)。
増田:その日の献立は忘れましたけど(笑)、私としては自分の気持ちを少しは入れたかったので、ディレクターさんにそう伝えたんですね。そうしたら “ケイちゃんは声だけで十分愁いがあって、歌詞の意味が伝わるから、これ以上重たく歌ったら、聴いている人の気持ちも重たくなっちゃう。とりあえず今のテイクと聴き比べてごらん” って。実際、聴いてみたらディレクターさんがおっしゃるとおりでした。憶えている方もいらっしゃると思いますが、私は当時、テレビで「すずめ」を歌うときは、マイクを持たない手をポケットに入れていました。あれは自分が歌の世界へさりげなく行くための、ある種の振り付けだったんです。1曲目から難儀しましたけれども、入り込みすぎない方が伝わるんだということを学べたレコーディングとなりました。
―― 初めて聴いたときは “あのケイちゃんが……” と驚きましたが、「すずめ」は各種ランキングでトップ10入りするヒットとなりました。ケイさんはその後もシンガーソングライターからの提供曲を中心に、大人の女性の心のひだや哀歓を表現していきます。
増田:シングルではユーミンさんや(竹内)まりやさん。ファーストアルバムでは吉田拓郎さん、伊勢正三さん、堀江淳さんにも書いていただきました。皆さん、それぞれ独自の世界をお持ちですので、私としてはその世界を壊さないように、でも真似をせずに自分を前に出していくことを心がけながらのレコーディングでした。
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豪華な作家陣が参加したセカンドアルバム「恋するお友達」 ―― ファーストアルバム『ひとりが好き』(1982年)はLP、カセットともにトップ20入りするヒットを記録しました。シリアスな曲が多かったこともあって、この時期、アンニュイなイメージが定着したような気がします。
増田:これは後年、思ったことですけど、『ひとりが好き』というタイトルの影響もあったんじゃないかしら。私が言ったわけでもないのに、孤独なイメージがひとり歩きして(笑)。私は音楽に関してはマイナー調で暗めの歌が好きですけど、自分自身は明るい性格なので、私をよく知るファンの方たちはそのギャップも楽しんでいらっしゃると思います。
―― セカンドアルバムの『恋するお友達』(1982年)も、加藤和彦・安井かずみ夫妻、大貫妙子、ユーミン、竹内まりや、来生えつこ・来生たかお姉弟など、やはり豪華な作家陣が参加しています。
増田:ポップで明るめの楽曲もあって、少し幅が広がりましたね。その後は桑田佳祐さん、濱田金吾さん、南こうせつさん、近田春夫さん、澤田知可子さん、宇崎竜童さん、阿木燿子さん、加藤登紀子さんにも素敵な作品を作っていただいて。錚々たる方たちとのご縁に恵まれていることに感謝しています。
竹原ピストルが歌詞とメロディを書いた新曲「貴方は彼方へ」 ―― そのソングライター陣のなかに今回、竹原ピストルさんの名前が加わりました。8月5日から先行配信中で、19日にシングルCDとしてリリースされる新曲「貴方は彼方へ」は作詞がケイさんと竹原さん、作曲が竹原さんとクレジットされています。4年ぶりの新曲となりますが、制作の経緯を伺えますか。
増田:私が書いた、ある手紙をもとに竹原さんが歌詞とメロディを書いてくださったんです。昨年のクリスマスイブにまず歌詞をいただいたのですが、衝撃的なタイトルに驚くと同時に、私の手紙が素晴らしい歌詞になっていることに感動して泣いてしまいました。
―― 悲しい別れを経験した方の喪失感に寄り添う楽曲と言いましょうか。今の日本は高齢社会ですし、自然災害や感染症で突然、肉親や友人を失うこともありますから、どなたの心にも響く歌ではないかと思います。
増田:4月の終わりに竹原さんが弾き語りで歌うデモテープが届いたので、一緒に歌おうとしたんですけれども、最初は泣いて歌えなくて。歌詞が悲しすぎて、当初は重たく感じていたのですが、歌っていくうちに自分の歌声がだんだん力強くなっていくのが分かりました。
―― 竹原ピストルさんとはもともと交流があったのでしょうか。
増田:昨年(2025年)の2月、NHKの『うたコン』で阿久悠先生の特集が放送されたときに初めてご一緒させていただきました。その日、竹原さんは阿久先生が作詞をされた「もしもピアノが弾けたなら」と、オリジナル曲の「逃がしてあげよう」を歌われたのですが、汗をかきながらの熱演に引き込まれましたね。意外だったのは、竹原さんがピンク・レディーのファンだったこと。番組が終わってから楽屋に来られて“ケイさん、サインください!”って。そのあと記念のツーショットも撮りました(笑)。
―― 竹原さんはピンク・レディーがデビューした1976年生まれ。リアルタイムの記憶はなくても魅了されていたんですね。
増田:私のアドバイザーをしてくれている方がそのとき “次の新曲は竹原さんにお願いしよう” と思ったらしくて、私に竹原さんが歌う「アメイジング・グレイス」と「ファイト!」(原曲:中島みゆき)の音源を聴かせてくれたんですね。その歌唱も素晴らしかったので、大好きなアーティストになりました。
デモテープは大きなクリスマスプレゼント ―― そういう流れでしたか。その竹原さんから歌詞が届いたのは昨年のクリスマスイブ。デモテープを渡されたのは今年の4月。若干、時間差があったのですね。
増田:2月に有楽町のアイマショウ( I'M A SHOW)で、ソロデビュー45周年の記念コンサートを開催したのですが、竹原さんがわざわざ観に来てくださったんです。おそらく、私が今どういう歌をどういう声で歌っているのか、どの音の響きがいちばんいいのかを確認されたかったのではないかと思いますが、終演後にお会いしたら、グッズのTシャツをしっかり着用されていて、この時も “サインしてください!” って(笑)。
―― その瞬間はいちファンに戻って(笑)。自分の想いをしたためた手紙が歌詞になって、メロディがついて、楽曲として完成していく。その過程に最初からすべて立ち会ったのは今回が初めてでしょうか。
増田:そうですね。それだけにひとつひとつのことが忘れられません。クリスマスイブに歌詞をいただいたときは大きなクリスマスプレゼントだと思いましたし、それをどうやって皆さんの心に届く楽曲に成長させていくか、今年はそのことをずっと考えていました。
私の人生のすべてが見えるイントロ ―― 編曲はファーストアルバムのアレンジも手がけていた船山基紀さん。軽快なワルツのリズムが印象的な、温もりのあるサウンドです。
増田:船山先生は2年前(2024年10月)、『Sound Inn S』(BS-TBS)でご一緒したときに「愛唱歌」(2014年 / 作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童)のアレンジをしていただいて、リハーサルで初めて聴いたとき、オリジナルとは異なったアプローチのイントロで、まるで私の人生のすべてが見えるようで感動したんです。今回の新曲は大阪でお仕事をしていたときに、アレンジのデモが届いたのですが、イントロを聴いた瞬間、私がフランス語の勉強でパリに滞在していた頃、近くにあったチュイルリー公園に期間限定で設置されていたメリーゴーラウンドがぐるぐる回る映像が浮かびました。歌詞はちょっと悲しげな内容ですけれども、サウンドは大切な人と一緒にメリーゴーラウンドに乗っているようなイメージです。これなら前向きな気持ちで歌えるかもしれないと思いました。
―― オケ録りにも立ち会われたのでしょうか。
増田:はい。仮歌も歌わせていただきました。 “そうした方がミュージシャンたちの気持ちが入るから” と、船山先生がおっしゃって。そのオケ録りで、びっくりすることがあったんです。
―― なんでしょう? 気になります。
増田:船山先生はヤマハでポプコン(ポピュラーソングコンテスト)応募曲のアレンジを担当されていた頃、浜松市民会館で開催された東海地区大会にクッキーというユニット名で出場した私たちのことをご覧になっていたんですって。
―― そうなんですか! ピンク・レディーとしてデビューする前のケイさんとミイさんの歌う姿を?
増田:そうなの。“そういうことは2年前にお会いしたときに教えていただきたかったです” と言ったんですけど(笑)、先生は私たちが白いワンピースを着て「恋のレッスン」を歌っているところを見て衝撃を受けたらしくて、“この子たちはいけるんじゃないかと思っていた” と。残念ながら入賞できず、全国大会には進めませんでしたが、当時高校2年生だったので、52年前からご縁があったわけです。
―― こう言ってはなんですが、長く生きていると、いろんなご縁が繋がったりしますよね。
増田:本当に。若いときはそういう想いに至りませんけど、齢を重ねると “出会いというのは目に見えない点線で神様が昔から繋いでくれていたのでは” と感じることが増えてきます。人生って素敵だなと思うし、そういうご縁は大切にしたいですね。
―― オケ録りは船山先生の盟友であるギタリストの増崎孝司さん、2011年の『ピンク・レディー Concert Tour 2011 “INNOVATION”』に参加したベーシストの川崎哲平さん、そして石亀協子ストリングスの皆さんによって行なわれたとか。
増田:そうです。皆さんの素晴らしい演奏でオケができたら、いよいよ歌入れになりますけど、私には迷いがあったんですね。オケを聴いた段階で、明るく笑顔で歌おうと思ってはいたものの、どれだけ自分の気持ちを込めたらいいか、決めかねていて。そのことを船山先生にお話ししたら、“これはケイちゃんのために書かれた歌なんだから、本人の気持ちが入らなければ、ケイちゃんの歌にならないと思うよ”と言ってくださって、その言葉で霧が晴れました。ですから歌入れでは気持ちで歌うことを心がけつつ、笑顔で、悲しくならないように表現することにしたんです。
―― 私は「貴方は彼方へ」を初めて聴いたとき、笑みを湛えながら歌うケイさんの姿が浮かびました。と同時に未来への希望も感じました。
増田:ありがとうございます。大切な人を失った悲しみや苦しみは、その方でなければ分からないことですが、“その喪失感は私も一緒です” という想いを込めつつ、口角を上げて明るく歌いました。すごく力強い歌になったと思いますので、皆さんの心に少しでも寄り添って、聴いてくださった方が上を向いて笑顔で歩いていこうという気持ちになれたら嬉しいです。
―― 空の上に旅立った方たちも、残された家族や友人がずっと泣いているよりは、元気でいてくれた方が嬉しいですよね、きっと。
増田:今回も制作を通じて、関わってくださった方からたくさんの宝物をいただきました。増田惠子がこの先の人生を懸けて歌っていく大切な楽曲になりましたので、多くの方に「貴方は彼方へ」が届くよう、歌っていくつもりです。
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ビルボードライブはピンク・レディー50周年の節目 ―― その新曲を引っさげ、ビルボードライブ大阪(8月29日)とビルボードライブ横浜(9月2日)で『増田惠子 I Love Singing!! 2026 ピンク・レディー50th & ソロ45th Anniversary〜バースデイライブ〜』が開催されます。先ほど話題に出た2月のコンサートではキャリア初のセットリスト事前公開が評判を呼びました。今回はどういうステージになりますか。
増田:前編でも少しお話ししましたけれども、今年はピンク・レディー50周年の節目ですからね。これまでのビルボードライブではセットリストの3分の1くらいでしたけど、今回は増やします。シングルA面だけでなく、カップリング曲や、アメリカでリリースしたアルバム(邦題:ピンク・レディー・イン・USA)に収録されたディスコチューンもお届けする予定ですので、楽しみにしていてください。大阪も横浜も2部制ですが、ファーストステージとセカンドステージで重なるのは4曲だけですから、両方ご覧になる方にも楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
―― アニバーサリーにふさわしい内容ですね!
増田:提案したのは私ですが、ちょっと自分の首を絞めたかも(笑)。バンドのメンバーにも負担をかけてしまいますが、皆さんが喜んでくださるステージにしますので、ぜひ一緒に踊ってください。
―― ビルボードライブ横浜の開催日(9月2日)はケイさんの誕生日当日です。
増田:そうなんですよね。1曲目から泣いちゃいそう(笑)。
―― 2月のコンサートは、第1部でオリジナル曲とカバー曲を交互に歌唱、第2部では洋楽のカバーとフランスデビュー曲、そしてピンク・レディーコーナーで構成する、盛りだくさんのセットリストが注目されました。それもケイさんのアイデアだったのでしょうか。
増田:スタッフさんとのミーティングで、以前から頭の中にあったものを口にしたことがきっかけでした。先ほどもお話ししたとおり、私はこれまで素晴らしい楽曲をたくさんいただいてきたので、中島みゆきさんが提供してくださった「すずめ」のあとに、みゆきさんの歌をカバーして、その次はユーミンさんが書かれた「ためらい」のあとに、ユーミンさんの歌のカバーを……というのはどうかしらと。そうしたらアドバイザーの方が “これはケイさんにしかできないことですから、ぜひやりましょう” と。
―― 日本を代表するシンガーソングライターの楽曲をこれだけ歌ってきた方はいませんからね。
増田:ありがたいことにアルバムにも素敵な楽曲がたくさんありますから、“だったら、あの歌も歌いたい” “この歌はどうかしら” と言ったら、“それはやりすぎです。次回にとっておきましょう”と(笑)。
前を向いて笑顔で歩いていこうという気持ちになれる「貴方は彼方へ」 ―― では2月のコンサートは第1章で、来年以降もお楽しみは続くということですね。アグレッシブな取り組みが続いていますが、これからもいろいろなことに挑戦していきたいとお考えですか。
増田:新たに何かを始めるというよりも、心の赴くままにという感じかなぁ。でも皆さんが期待していることには可能な限り応えていきたいと思っています。そういえばね、最近、ボイストレーナーの先生を替えたんです。というのも、新曲の「貴方は彼方へ」が私にとっては非常に重みのある、難しい歌だったので “このままじゃダメだな” と。前の先生には30年ほどお世話になっていたんですけど、新曲と対峙するために、オペラをイタリアでずっと歌っていた先生と、ポップス系の先生、お二人のレッスンを受けることにして、5月から通っています。
―― 新しいことにも挑戦されているじゃないですか!
増田:そうでないと、新曲を歌う重責に押しつぶされそうだったの。新しい先生からは “普段アンニュイな喋り方をしていると、どんどん声が出なくなりますよ” と注意されました。日頃から声帯を鍛えておかないと、歌うときだけ高い声は出ないらしいので、最近は意識して高めの声で喋るようにしています。ほかにも “ケイさん、あなたは夢を与える方なのだから、もっと若々しく、ハキハキと喋ってください” とも言われてね。内心、人に “若々しく” って言うかしら?って思いながらも(笑)、新たな出会いによる学びを楽しんでいます。
―― 最後に、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
増田:まずはとにかくみんな元気でいてほしいです。そのうえで4年ぶりの新曲、私のすべてを懸けてお届けするので、応援していただけたら嬉しいですね。もし悲しいことがあっても、「貴方は彼方へ」を聴けば、前を向いて笑顔で歩いていこうという気持ちになれると思いますので。
―― ありがとうございました!これからの活動も楽しみにしています。
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2026.08.26