あるいは… このアルバムではジェイムズ・イングラム(James Ingram)とパティ・オースティン(Patti Austin)がシンガーとしてフィーチャーされています。パティは『オフ・ザ・ウォール』内の「それが恋だから」( It's the Falling in Love)や『ギヴ・ミー・ザ・ナイト』内の「ムーディーズ・ムード」でも歌っていて、クインシーが応援していることがよく分かるし、イングラムはこのアルバムが歌手としてのデビューです。クインシーは若い才能ある彼らをアピールする場として、このアルバムを用意したのかもしれません。
「愛のコリーダ」、日本で売れ過ぎ
さて、このアルバムからは、「Ai No Corrida」(愛のコリーダ)という曲がヒットしました。全米28位、とアメリカではたいしたことないのですが、日本ではオリコンの洋楽チャートでなんと12週連続1位。日本語カバーもつくられて、1981年暮の『第32回NHK紅白歌合戦』では余興として歌われるなど、お祭り的なヒットでした。いちばんの要因はもちろん、サビで「♪あいのコリーダ」と、あまりにも分かりやすく歌っているからでしょう。そしてそれは、映画のタイトル、大島渚監督の問題作『愛のコリーダ』(1976年)と同じでした。
この曲、実はカバーで、オリジナルはチャス・ジャンケルという人が、1980年にリリースしているのですが、大島渚の映画の主題歌でもなんでもないんです。この人が、なぜか『愛のコリーダ』という映画のタイトルを、しかも日本語タイトルを(英語タイトルは「In the Realm of the Senses」です)もってきて、曲のサビの歌詞および曲タイトルにしたのです。理由は、… よく分かりません。この映画に刺激を受けたのでしょうか? 日本語タイトルの響きが気に入ったのでしょうか?
でも、今は違います。「Ai No Corrida」のメロディはやはりあまりいいとは思いませんが、サウンドは素晴らしい。アレンジも繊細かつ多彩でいいのですが、このアルバムだけでなく、マイケルにせよ、ベンソンにせよ、クインシーがプロデュースするサウンドって、変な形容だけど、すごく “なめらか” に聴こえます。個々の楽器が際立たず、全体で1つの、色とりどりの織物のような音楽というか。ま、そこが以前は、ロック好きの私なんかには、引っ掛かりがない、キレイ過ぎてつまらない、と感じていたところでもあるのですが。でも、なめらかなのは、いろんな楽器の音同士が、細かいところまでピタッと噛み合っているからこそでしょう。彼が使うミュージシャンはもちろんトップクラスの人たちですが、そういう人たちを集めても、普通のプロデューサーでは、なかなかこういう音にはならないと思います。