電気とミント。レモンの勇気。Angel Night~天使のいる場所~。薔薇とノンフィクション。パラシュート・リミット。
ただタイトルを並べただけなのに、鼻先をふわりとくすぐるものがある。私にとってPSY・Sの音楽は、透明な水に沈んだとてつもなくきれいな七色の玉だ。時折すくい上げて手のひらで転がすだけで幸せな気分になる。
すらりとした長身でいかにも理系然とした松浦雅也と、小柄でチャキチャキしたジャズ畑出身のCHAKA。PSY・S以前に松浦さんは3枚のインストアルバムを作っていて、そのうち1枚はイエス、キングクリムゾンのビル・ブラッフォードとのセッションが収められている。フェアライトを駆使した緻密な音づくりはライブでは再現不能とし、PSY・Sとしてデビュー後も1年間は人前に出ることはなかった。
大阪出身のふたりは音楽のみでつながっていて、プライベートでの会話はほぼなかったという。5thアルバム『ATLAS』リリース時の取材は先に松浦さんのインタビュー、CHAKAが合流して撮影、CHAKAのインタビューという段取りだった。その撮影のとき松浦さんがCHAKAに「今日は気に入ってくれてるインタビューだよ」と言ったのをいまだに覚えている。それまでの明快なポップさから次の段階に進んだ『ATLAS』が不満な人もいるのか、と思ったと同時に、ふたりの間にしかない厳然とした距離感と自分の立場への矜持のようなものを、この何気ない一言にじわりと感じて胸に刻んだ。
どのアルバムを今聴き返してもキラキラと才気に溢れているが、PSY・SはやはりなんといってもCHAKAのボーカルだ。歯切れよくボーイッシュで、聴き手の耳にスコーンと飛びこんでくる抜けの良さと母性的な深みがあり、松浦さんが描く設計図を立体的にさせたら右に出る者はいなかった。ライブも躍動的でいつも楽しかった。
資料によると解散は96年らしい。復活を望む声はもちろん多い。しかし少し前にCHAKAがTwitterで「私はPSY・Sの曲を歌ってもいけないし、PSY・Sについてあまり話してもいけないと言われている」とつぶやいていた。何が立ちはだかっているのかは知らない。忘れ物がぽつんと残されているようなやるせなさが、いつか晴れる日が来ますように。
2016.11.28
YouTube / poo sun
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