少年隊幻のデビュー曲「サクセス・ストリート」
1985年12月12日、奇跡の3人組、少年隊がシングル「仮面舞踏会」でデビューした。彼らがスーパーグループであること、また「仮面舞踏会」が永遠の名曲であることは、Re:minderをはじめ様々な記事で解説されているので、今回はあえて「仮面舞踏会」本編ではなく、別の切り口からその魅力に迫ってみたい。
コアなファンの方には周知の事実かもしれないが、少年隊は、実はこの「仮面舞踏会」ではなく「サクセス・ストリート」という楽曲でデビューする予定だった。それを、ジャニー喜多川が “もうひとひねりほしい” と、同じ作家(作詞:ちあき哲也、作曲:筒美京平、編曲:船山基紀)に発注したのが「仮面舞踏会」なのだ。「サクセス・ストリート」は、彼らのファーストアルバム『翔 SHONENTAI』、また2020年発表のベストアルバム『少年隊 35th Anniversary BEST』(通常盤)に収録されている。
そういった経緯をふまえ、あらためて「サクセス・ストリート」を聴いてみると、確かに、これはこれでしっかり作りこまれていることが分かる。まず、歌詞は「見・て・ろ いつか抜けだすさ こんな時代から そして駆け上がる 星の階段(きざはし)を」といったサビ前半の歌詞など、結成から3年以上ものたゆまぬ努力の末に夢をつかもうという野望に満ちている。サビ後半がすべて英語詞なのも、当時予定されていた世界進出をも意識したのだろう。
また、メロディーも、Aメロ、Bメロ、サビと、『フラッシュダンス』や『フットルース』など1980年代前半のポップスならではの躍動感あるエッセンスが随所に盛り込まれているのも筒美京平マジックという感じがするし、イントロの電子的なループ音のアレンジも、80年代半ばから流行り始めたユーロビートの要素がいち早く盛り込まれている(これをより洗練し煌びやかに仕立てたのが、同じ作曲・編曲者による2年後のシングル「ABC」だろうか)。
ただ、海外を視野に入れた楽曲である反面、「仮面舞踏会」の凄さを知ってしまうとどうしてもシングルとしてのヒット成分は少なく感じてしまう。「仮面舞踏会」には、どこまでもほとばしる情熱を絡ませた歌詞、メインとサブの激しいボーカルのぶつかり合いや、大サビ前に別メロを取り込んだ複雑な展開のメロディー、さらに不安定な変拍子と4度ずつ上がったり下がったりを繰り返すイントロなど、制作陣や歌い手から “これでもか! これでもか!” と様々なトリックが詰め込まれているからだ。
しかし、「サクセス・ストリート」にはメインを歌う植草のハイレベルなのに青くささもある歌声を上手く引き出しているし、錦織や東山がサブボーカルに回ることで、その分、難易度の高いダンスパフォーマンスやスタイルの良さがアピールできるように作られている。もしこの曲でデビューしていたら、楽曲のヒットやアイドル性ではなく “とんでもない奴らがデビューしたぞ” と、彼らのスキル自体がいち早く注目されたのかもしれない。また、日本のランキング番組の常連にならなかったとすれば、それこそ世界進出にこだわったかもしれない。とにかく、これはこれで少年隊らしい作品なので、是非どこかで聴いてもらいたい。
約40年のキャリアを投影。発展形、熟練版「仮面舞踏会」とは?
ここからは、実際に発売された「仮面舞踏会」に目を向けてみよう。本作は、“サラリーマンがネクタイを頭に巻いてはしゃげるように” という思惑通り、当時のカラオケ・ヒットとの相関のあった有線放送でも週間1位を3週間にわたって獲得(つまり、週はずれるが、西城秀樹『YOUNG MAN』同様に『ザ・ベストテン』のレコード、有線、ラジオ、はがきリクエストの全部門1位を達成)している。
デビュー曲にして、幅広い世代を虜にしたわけだから、今でも後輩ジャニーズが歴代ヒットメドレーの中に盛り込むのも納得できる。また、『少年隊 35th Anniversary BEST』の完全生産限定盤には「仮面舞踏会Remix 2020」が収録され、こちらは爽やかでノリの良い現代風サウンドに仕上げつつ、テレビ出演時の間奏や「Stripe Blue」など別の歌メロ部分が挿入され、懐かしくも新しい。
さらに、少年隊のメンバーも近年、個別に「仮面舞踏会」をカバーしている。東山紀之は、“Kis-My-Ft2” や “Sexy Zone” のメンバーと共演し、そのブレないカッコよさを示し、錦織一清と植草克秀は、2022年の公演『ふたりのSHOW&TIME』にて、錦織の男気あふれるシャウトと、植草の甘いボーカルの要素がからんで、熟練した「仮面舞踏会」を披露。また、植草はソロの公演でも、男女コーラスとの掛け合いも含んだバンド演奏で、本作のゴージャスな楽曲要素を新たに引き出している。それぞれが約40年のキャリアを投影した「仮面舞踏会」の発展形は見事だが、だからこそ、3人が揃って歌う「仮面舞踏会」もまた無性に観たくなるのだ。
ジャニー喜多川が認めた最高のスーパーグループ
その植草のソロ公演中、「いつかは3人で歌いたい」と幾度となく言葉をかみしめるように話していたのが印象的だった。それは、3人揃った歌唱を望むファンの声に応えたいという願いのようでもあり、約30年ぶりに再結成が叶った後輩グループを思いやった労いのようでもあり、さらには旅立っていった恩師たちへの感謝や決意表明のようでもあった。
植草に限らず、錦織や東山の発言は、いつも自分ではなく周りに気遣ったものであると気づくたび、その思慮深さにこちらも胸が熱くなる。そんな所もまた、ジャニー喜多川が認めた最高のスーパーグループなのだ。
ともあれ、今は三者三様に新たな道を進み始めた3人の活躍を期待しつつ、いつかは叶うであろう共演を夢見ていたい―― そんな “奇跡” をいつまでも待ち望みたくなるほど、「仮面舞踏会」を歌う少年隊は他に代えがたい輝きに満ち溢れている。
Song Data
■ 少年隊 / 仮面舞踏会
■ 作詞:ちあき哲也
■ 作曲:筒美京平
■ 編曲:船山基紀
■リリース日:1985年12月12日
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2022.12.12