今年で70年という節目を迎えたゴジラ映画
祝・ゴジラ生誕70周年!そう、記念すべき第1作目の『ゴジラ』が1954年11月3日に公開されてから、今年(2024年)で70年という節目を迎えたのだ。その存在感と知名度は他の追随を許さぬ、まさに怪獣王の風格があるが、その道のりは決して平坦ではなかった。ここでその70年の足跡を振り返ってみたいと思う。なお、本稿では “日本製” かつ “実写” ゴジラにのみ絞って記すことをご了承いただきたい。
ゴジラ誕生!大ヒットを記録
第1作『ゴジラ』1954年公開 監督:本多猪四郎
それまで特撮というものは主に本編を補佐するための存在であったが、この第1作の『ゴジラ』は初めて特撮が “売り” になった、本邦初の本格的怪獣映画ということで、全てが試行錯誤の中で製作された。そして蓋を開けてみれば動員900万人を超える大ヒットを記録。
本作が公開された1954年には、ビキニ環礁での水爆実験の影響で、漁船である第五福竜丸が被曝するという事件が起こっている。そんな中、水爆実験によって太古の眠りから覚め、放射能の影響で強大となった巨大怪獣ゴジラが都市を蹂躙する物語には、ただのゲテ物では終わらない、真摯なメッセージが込められていた。ゴジラは人々にとって恐怖の存在であると同時に、愚かな人間たちの犠牲者でもあるのだ。そこにこそ悲劇性を帯びたゴジラの独自性がある。以下、その後のゴジラ映画の変遷を記す。
第2作『ゴジラの逆襲』1955年公開 監督:小田基義
大阪を舞台に、ゴジラと新怪獣・アンギラスがまるで闘犬のような獰猛な戦いを展開。偉大すぎる第1作は別格として、本作以降大半のゴジラ映画は敵怪獣とのバトルが “売り” になっていることを考えると、本作こそが元祖怪獣映画といえるかもしれない。
第3作『キングコング対ゴジラ』1962年公開監督:本多猪四郎
キングコングとゴジラの一騎打ちを企業の宣伝に利用する人間たちのドタバタと、本能の命ずるままにぶつかり合う両怪獣の迫力満点の戦いに最後まで目が離せない本作は、1,255万人という空前の観客動員を記録。
第4作『モスラ対ゴジラ』1964年公開監督:本多猪四郎
前作に続き主役級の怪獣同士の顔合わせとなったが、今回は悪役に徹した着ぐるみ怪獣ゴジラと、ピアノ線での操演による巨大蛾怪獣モスラとの戦いが、息もつかせぬ迫力で描かれた。
第5作『三大怪獣 地球最大の決戦』1964年公開監督:本多猪四郎
ゴジラ宿命のライバル・キングギドラが初登場。全身を金色に輝かせたその勇姿は、敵ながらあっぱれな格好良さ。それを迎え撃つのはゴジラ、モスラ、ラドンの地球怪獣連合軍。このあたりから徐々にゴジラは地球を守る怪獣に変貌していく。
第6作『怪獣大戦争』1965年公開監督:本多猪四郎
X星人に操られたキングギドラが再登場。これを迎え撃つゴジラとラドン。本作でゴジラが赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』に登場するイヤミ氏よろしく “シェー” をしたことが一部のヒンシュクを買うことになるが、これを提案したのは他ならぬ特撮の神様こと円谷英二特技監督なのである。
第7作『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』1966年公開監督:福田純
当初はキングコングを主役とする予定だったが、急きょゴジラが代役に立つことに。概ね脚本もキングコング主役版のまま流用されているようで、ヒロインにデレデレしたりゴーゴーダンスを踊ったり、本作でのゴジラは妙にお茶目。
第8作『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』1967年公開監督:福田純
タイトル通りゴジラと息子のミニラが親子共演。本作の見どころはカマキラスやクモンガといった複数の敵怪獣が、いずれも着ぐるみではなくピアノ線による操演怪獣だった点が挙げられる。その仕上がりは芸術の域。
第9作『怪獣総進撃』1968年公開監督:本多猪四郎
敵宇宙人の名がキラアク(すなわち “吉良悪” )星人なのは、当初 “怪獣忠臣蔵” というタイトルで検討されていたことの名残。クライマックスシーンでは(さすがに四十七士ならぬ47怪獣とはいかなかったが)11怪獣とキラアク星人、そしてまたまた登場のキングギドラとの激闘が描かれた。
第10作『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』1969年公開監督:本多猪四郎
怪獣は全て1人の鍵っ子少年の夢の中に登場する存在という異色編。特撮シーンも過去作品の流用が多く低予算は明らかだが、スケール感はともかく、少年目線で描いた良質なファンタジーとして一見の価値あり。
第11作『ゴジラ対ヘドラ』1971年公開監督:坂野義光
当時社会問題となっていた公害から生まれた怪獣・ヘドラとの戦いを描いた大異色作。元を辿ればゴジラもヘドラも人間が生み出した存在と言える皮肉。満身創痍でヘドラに勝利したゴジラが、人間たちをひと睨みして去っていくラストが印象的。
第12作『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』1972年公開監督:福田純
ゴジラ&アンギラス 対 ガイガン&キングギドラによるタッグマッチ。この時期のゴジラは “正義ゴジラ” と呼ばれるが、その呼び名に恥じぬヒーロー怪獣ぶりで、大流血戦の末に勝利をもぎ取る。ガイガンの “かっこいい悪役” ぶりも魅力。
第13作『ゴジラ対メガロ』1973年公開監督:福田純
本作でのゴジラは電子ロボット・ジェットジャガーとコンビを組み、昆虫怪獣メガロと、再登場となるガイガンのコンビと対戦。子ども向けに徹した本作は、ある時期マニアから非常に毛嫌いされていたが、近年になってようやく本作の大らかな魅力が再評価されつつある。
第14作『ゴジラ対メカゴジラ』1974年公開監督:福田純
キングギドラに次ぐ名ライバル、メカゴジラが初登場。ゴジラに化けたメカゴジラと本物のゴジラが対峙する “ゴジラ対ゴジラ” の場面は見どころのひとつ。本作以降、ゴジラは自らの分身とも言える敵と度々戦うことになるが、本作はその嚆矢となった。
第15作『メカゴジラの逆襲』1975年公開監督:本多猪四郎
前作の続編ながら、明朗なアクション物だった前作と異なり、全編を沈鬱なムードが覆う本作をもってゴジラ映画は休止期間に入る。そして第1作目の『ゴジラ』以降、昭和の東宝特撮映画を支え続けた本多猪四郎監督の遺作となった。ラストで、夕陽を浴びて海の彼方に帰っていくゴジラの後ろ姿が胸に迫る。
第16作『ゴジラ』1984年公開監督:橋本幸治
満を持しての復活作は “ゴジラを人類の味方、正義の味方にしたのは、やはり誤りだった” と語っていた東宝の田中友幸プロデューサー念願の、“原点回帰” に徹した硬派な作品。ゴジラファンにとってはその存在自体がイベントと言えた一編。
第17作『ゴジラ vs ビオランテ』1989年公開監督:大森一樹
ゴジラとバラの花と1人の少女の細胞が1つとなって生まれた怪獣・ビオランテとの戦いが、監督:大森一樹、特技監督:川北紘一という新しい感性によって描かれた。超能力少女・三枝未希(演:小高恵美)は、本作以降平成 vsシリーズの通し役として活躍。
第18作『ゴジラ vs キングギドラ』1991年公開監督:大森一樹
タイムパラドックスを描くことにより、ゴジラの誕生秘話にメスを入れ話題となった、大森・川北コンビによる快作。そして本作からは『メカゴジラの逆襲』以来となる伊福部昭が再び音楽を担当、ファンを狂喜させた。
第19作『ゴジラ vs モスラ』1992年公開監督:大河原孝夫
前作に続き、人気怪獣が再登板。ファンタジー性を強調した川北監督の特撮、そして家族の絆などにスポットを当てたストーリーがマニア以外の一般客にも受け入れられヒットを記録。
第20作『ゴジラ vs メカゴジラ』1993年公開監督:大河原孝夫
人類の敵だった昭和メカゴジラと異なり、本作でのメカゴジラは人類が造った対ゴジラ兵器として登場。ラドンとベビーゴジラも絡んだ絢爛たるストーリーは最後まで飽きさせない。本作でも新曲を含む伊福部昭の音楽が全編を彩り、作品を盛り上げた。
第21作『ゴジラ vs スペースゴジラ』1994年公開監督:山下賢章
宇宙に散ったゴジラ細胞がブラックホール内で結晶生物と合体して誕生したスペースゴジラとの戦い。1957年の東宝映画『地球防衛軍』で怪遊星人の操るロボットだったモゲラが、本作では対ゴジラ兵器として登場。そこにリトルゴジラが絡んだり、ヒロイン三枝未希のほのかな恋が描かれたりと、盛りだくさんな一編。
第22作『ゴジラ vs デストロイア』1995年公開監督:大河原孝夫
“ゴジラ死す” という衝撃的なキャッチコピーの本作。1作目でゴジラを葬った兵器・オキシジェン・デストロイヤーと繋がったそのストーリーで、シリーズは一旦の幕を降ろす。
第23作『ゴジラ2000ミレニアム』2000年公開監督:大河原孝夫
1998年に公開されたハリウッド版の『GODZILLA』を経て、エイリアンとの戦いが描かれた本作からは再び日本製のゴジラ映画、いわゆる “ミレニアムシリーズ” がスタート。
第24作『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』2000年公開監督:手塚昌明
1956年公開の怪獣映画『空の大怪獣 ラドン』でラドンの餌だったヤゴの怪獣・メガヌロンが再登場、本作では超翔竜・メガギラスに成長してゴジラと死闘を繰り広げた。
第25作『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』2001年公開監督:金子修介
金子修介監督はじめ、平成ガメラ3部作のスタッフが参画した本作は、破壊神ゴジラがバラゴン、モスラ、キングギドラの護国三聖獣と戦う娯楽巨編。
第26作『ゴジラ×メカゴジラ』2002年公開監督:手塚昌明
再び対ゴジラ兵器としてメカゴジラ(機龍)が登場。対特殊生物自衛隊(特生自衛隊)の女性隊員・家城茜(演:釈由美子)を主人公に据え、ゴジラとの死闘を描いた。
第27作『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』2003年公開監督:手塚昌明
前作に続き機龍が登場。さらに『モスラ』(1961年)とも世界観の繋がった展開でオールドファンをも喜ばせた上、死骸ではあったが『決戦!南海の大怪獣』(1970年)のカメーバが奇跡の復活。
第28作『ゴジラFINAL WARS』2004年公開監督:北村龍平
『あずみ』などの北村龍平監督によるアクション満載の怪獣総登場編にしてミレニアムシリーズ最終作。アンギラス、エビラ、キングシーサーなども久々の再登場。平成版の『怪獣総進撃』ともいえる娯楽大作。
第29作『シン・ゴジラ』2016年公開総監督:庵野秀明 / 監督:樋口真嗣
庵野秀明総監督による本作は、実際に今の世の中にゴジラが現れた時、日本という国はどう対処するのかを、リアリティーのある描写で、時にユーモアを交えつつも緊迫感あふれる展開で描き、特撮ファン以外をも巻き込んで大ヒットを記録。
第30作『ゴジラ−1.0』2023年公開監督:山崎貴
終戦直後という時代設定で意表をついた山崎貴監督による本作は、米アカデミー賞の視覚技術賞受賞という快挙を成し遂げ話題となった。
以上、駆け足で70年を振り返ってきた訳だが、ゴジラは時代の要請に応え、時に核の恐怖の象徴、時に正義の味方、時に悪役、時に父親(?)と、様々な役を見事に演じ分けてきた。
そんなゴジラという俳優は、死なないし、老けないし、作品や役柄に文句をつけない。東宝は実に素晴らしい “名優” を擁したものだと思う。
これからもゴジラは、自らの哀しい出自を時に押し隠しつつ、私たちを永遠に楽しませてくれるだろう。
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2024.11.03