夏うたを2026年の視点で再編集 vol.11
夏が来た! / 渡辺美里
夏を彩る名曲が数多く存在する渡辺美里
昨年(2025年)デビュー40周年を迎えた渡辺美里。今年7月15日にはニューアルバム『Birthday』をリリースし、11月には1986年から20年にわたって続いた西武球場ライブを受け継ぐ西武ドーム公演『明治チョコレート効果 プレゼンツ 渡辺美里 スタジアム伝説~復活~ Sweet 60』も決定した。40周年イヤーを締めくくるようなスペシャルな企画が続き、ファンにとって喜びは尽きない。
また、先月放送されたNHK『SONGS』では久々に小室哲哉との共演が久々に実現し、夏の定番曲「サマータイム ブルース」も披露された。放送後はSNSでも大きな反響を呼び、“これまでフルコーラスで聴いたことがなかったけれど、こんなにいい曲だったんだね” という若い世代の声も少なくなかった。
サブスクが定着した今、音楽は時代という壁を軽々と飛び越えていく。名曲とは、懐かしさだけで語られるものではない。世代を超え、今を生きる人の心にも届き続けるからこそ、本当の名曲なのだと改めて感じさせられた。 渡辺美里にはその「サマータイム ブルース」をはじめ、夏を彩る名曲が数多く存在する。その中でも、タイトルからして真っすぐに夏を感じさせる1曲が「夏が来た!」だ。
夏の始まりを告げた名曲「夏が来た!」
この「夏が来た!」は1991年にリリースされた渡辺美里20枚目のシングル。作曲は大江千里、作詞は渡辺美里自身が手がけている。大江は小室哲哉や岡村靖幸と並び、渡辺美里の音楽を語るうえで欠かせない存在だ。数々の代表曲を共に生み出し、いつしかプラチナコンビと呼ばれるようになっていった。この曲は「サマータイム ブルース」に続き、自身が出演した明治生命(現:明治安田生命)のCMソングとしても親しまれている。
サウンドは、ボン・ジョヴィのライブに刺激を受けた渡辺美里が、“こんなロックナンバーを歌ってみたい” と大江千里に伝え、その思いに応える形で生まれたと言われている。爽快感あふれるサウンドは、夏空の下を駆け抜けるような疾走感に満ち、主人公の恋心を鮮やかに彩っている。
きらめく波のように繰り返されるフレーズ
歌詞は、好きな人から届いた1枚の暑中見舞いの絵はがきから始まる。
「夏祭りには 帰ってこいよ」
暑中見舞いの 絵はがきには
たった二行の きみの言葉
私の心を 決めさせた♪
人の心はたった2行で動く。恋に落ちる瞬間に、多くの言葉は必要ない。そしてこの曲の中で何度も、きらめく波のように繰り返されるフレーズがある。それは——
本当の夏が来た
もちろん夏には本当も嘘もない。では、“本当の夏" とは何だろう。それは好きな人ができたことで、今までの夏とはまったく違う景色が広がり始めた瞬間のことではないか。恋をしたことで、街も空も風も、何気ない日常までもが輝き始める。その喜びを渡辺美里は「♪生きているまぶしさ」「♪この街は輝いて」という言葉で鮮やかに描いていく。恋とは、相手を好きになることだけではない。自分を取り巻く世界そのものを変えてしまう力を持っている。この曲が歌っているのは、そんな人生が色づく瞬間なのだろう。
「サマータイム ブルース」との共通点
そして、もう1つ興味深いことに気づく。前年(1990年)にリリースされた「サマータイム ブルース」との共通点だ。「サマータイム ブルース」では——
おろしたてのあの日の スニーカー
白すぎて恥ずかしかった
と、恋の初々しさが "白" という色で表現されている。一方、「夏が来た!」では——
真っ白なTシャツ きみがいる
と、その "白さ" は恋する相手を印象づける色へと移っていく。“白” は何ものにも染まっていないピュアさの象徴であり、これから自分色へと染まっていく自身の可能性も感じさせる。また、「サマータイム ブルース」の「♪裸足のままで たどりつけるはずね」に呼応するように、「夏が来た!」でも「♪はだしで ぶどうをほおばると 忘れかけてた 夢ふくらむよ」と、“裸足”というモチーフが繰り返されている。
そう、「サマータイム ブルース」で恋が終わり、新しい世界へと駈け出した主人公。その先に待っていた新たな季節が「夏が来た!」で描かれているようにも感じられる。もちろん、それが意図されたものなのか、それとも偶然なのか、その答えは分からない。けれど、この2曲を続けて聴くと、まるで前編と後編のように、あるいは恋の終わりと新たな始まりを描いた、ひとつの物語のようにも思えてくる。
単なるラブソングでは終わらない「夏が来た!」
「夏が来た!」を特別な1曲にしているのは、歌詞やサウンドだけではない。何よりも、この曲に命を吹き込んでいるのは渡辺美里の歌声だ。ひたむきさと力強さ、そして迷いながらも前へ進もうとする意思。そのすべてが歌声に宿り、この曲を単なるラブソングでは終わらせていない。
歌われているのは、恋をした日の高鳴る胸の鼓動。友だちだった相手が特別な存在へと変わっていく、そのかけがえのない瞬間だ。しかし、この曲が心を打つのは恋の喜びだけではない。その先に広がる人生への希望までをも感じさせてくれるからだ。
だからこそ、「夏が来た!」は時代を超えて聴き継がれている。恋をしている人には今のときめきを、かつて恋をした人には初々しかったあの日々を思い起こさせてくれる。そして夏が巡るたび、この曲は誰もが心の奥にしまっていたピュアな輝きと、明日へ踏み出す希望を鮮やかによみがえらせてくれるのだ。
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2026.07.25