10月21日

トゥルリラーとは風の音? 松田聖子の究極癒しソング「野ばらのエチュード」 

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松田聖子「野ばらのエチュード」、オーダーはビバルディ「四季」のような曲


通算11枚目、松本隆が作詞を担当してからは6枚目となる松田聖子のシングル「野ばらのエチュード」は、1982年10月21日にリリースされた。季節感が顕著だった松田聖子の初期作品において、秋の情景が描かれた楽曲。松本にとっては、大瀧詠一が作曲した前年の「風立ちぬ」に続く、2年目の秋曲ということになる。

前後に連なるラインナップの中では少々地味ではあったものの、第33回NHK『紅白歌合戦』で歌唱された曲でもある。さらに特筆すべきは、レコード大賞や歌謡大賞では部門賞にとどまった松田聖子が、本曲で第11回『FNS歌謡祭』のグランプリを受賞していることも記憶にとどめておきたい。ちなみにこの年のレコード大賞は細川たかし「北酒場」、歌謡大賞は岩崎宏美「聖母たちのララバイ」であった。

「白いパラソル」以来5作ぶりに松田聖子のシングル作品を作曲した財津和夫によれば、プロデューサーの若松宗雄氏から、ビバルディの「四季」のような曲をと依頼されたのだという。呉田軽穂こと松任谷由実の秀逸な3作(「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」「小麦色のマーメイド」)が続いた後のシングルだけに、さぞかし逡巡したことであろう。結果、エレガントかつ可愛らしいアイドルソングが誕生した。大村雅朗のアレンジも5作ぶりになる。

松本隆の感性とセンスが光る、風の音を表現した「トゥルリラー」


松田聖子本人が出演したグリコ「ポッキー」のCMソングに起用され、サビの部分が繰り返しテレビから流れてお茶の間で親しまれた。やはりなんといっても一番印象深いのは「トゥルリラー」の歌詞である。本来ならば何かしらの言葉が充てられるべきところに、あえて風の音を表現したと思われるスキャット的な詞を織り込んだところに、詩人・松本隆の感性とセンスが光っている。

その閃きこそが「野ばらのエチュード」の肝になっていることは間違いない。「四季」を意識しながら作曲した財津も感心したことであろう。続く「風に吹かれて」の一節がボブ・ディランへのオマージュであったかどうかはまた別の話。それよりもタイトルに付けられた「野ばら」に、シューベルトやヴェルナーの影響があるのかも。松本が後にシューベルトの歌曲を訳詞する伏線と考えるのは深読みが過ぎるだろうか。

なお、CMに使われた音源はシングルとは別ヴァージョンで、このあと12月5日にリリースされた企画アルバム『金色のリボン』に収録された。アレンジは同じく大村雅朗によるもので、全体的にクラシカル感が増している。より素のメロディが強調されたこのヴァージョンを聴くと、曲の良さががさらに沁みてくる。数ある松田聖子のナンバーでも、「野ばらのエチュード」が持つ強烈な癒しの効果は群を抜いていると思える。

大人になって聴くほど感じられる「野ばらのエチュード」の魅力


率直に言ってしまうと、松田聖子のシングル曲としては、自分の中でずっと思い入れの薄い作品であったことは否めない。しかし初めて聴いた時からかなりの時を経て、ある日ふと耳にした時、「こんなにもいい曲だったのか!」と再認識させられた。

歌詞の通り、当時20歳だった松田聖子が、少女から大人の女性へと変わってゆく心象風景が等身大で描かれている。ある意味、純粋なアイドル路線からの脱却になった作品とも言えそうだ。直後にリリースされ、本曲も収録されたアルバム『Candy』も、まさしくそんなイメージ。事実、次なるシングル「秘密の花園」では大人っぼさがグッと増して、次のステージへと進んだ印象がある。

個人的には、他のシングル曲に比べるとこれまでの再生回数が少なかった「野ばらのエチュード」だが、今後は事ある毎に聴いて、一段と追い上げてきそう。そういえば当時、キンキンこと愛川欽也が「トゥルリラ」を気に入って、番組で本人に呼びかける際に連発していたことが想い出される。きっと聴く側が大人になるほど、魅力を感じられる曲なのだろう。

「トゥルリラ」はその世界へ導かれる呪文のようなもの。80年代に青春期を過ごした僕らは、松田聖子と松本隆にずっと魔法をかけられ続けているのかもしれない。そしてきっとこれからも。

特集 松本隆 × 松田聖子



2021.07.26
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カタリベ
1965年生まれ
鈴木啓之
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