明るく性を説くドラマ「毎度おさわがせします」
TBS系ドラマ『毎度おさわがせします』の放映がスタートしたのは、1985年の1月。自分が小学校5年生の時である。恐らく同世代の人たちはみんなそうだと思うが、第二次性徴期に入りたての少年には、この番組は、今までのドラマにはない強い衝撃を与えるものだった。
親が夜仕事でいないことが多く、比較的自由にテレビが見られる環境にあったので、親と一緒にエッチな場面に遭遇して微妙な空気が流れるようなシチュエーションはなかったのだが、自分には『毎度おさわがせします』は、堂々と見るには恥ずかしく、隠れて見るのはもったいない、そんなドラマだった。
まだまだ家庭での性の話題へのタブーが残っていて、学校での性教育も現代ほど進んでいなかった時代、公園に落ちている皺くちゃのエロ本にキャッキャする程度の性知識の少年たちに、明るく性を説くこのドラマは「エッチなことを考えても悪い事じゃない」という意識を自分たちに “初めて” 教えてくれた存在だったと思う。
主題歌は、C-C-B「Romanticが止まらない」
そんな『毎度おさわがせします』主題歌がご存知「Romanticが止まらない」だ。作詞:松本隆、作曲:筒美京平、編曲:船山基紀という “黄金トリオ” による楽曲と、それを演奏するC-C-Bに、僕は番組以上の衝撃を受けた。そこには当時小学校5年生だった少年が経験する様々な “初めて” が散りばめられていたからだ。
まずは誰もが驚いたであろう、メンバーのカラフルな髪の色。ピンクや紫、緑などに染められた彼らのスタイルは、まるでアニメから飛び出して来たかのような印象だった。一足先にチェッカーズがブレイクした時には、前髪を伸ばした “なんちゃってフミヤ” を見かけることはあったが、奈良の片田舎にはさすがにC-C-Bを真似する猛者はいなかった。
見たことのないカッコよさ! ドラムがヴォーカルをとって歌うスタイル
そして次の “初めて” は、ドラムがヴォーカルをとって歌うスタイルである。インカムをつけて、激しくドラムを叩きながら歌う姿は、それまでに見たことのないカッコよさがあった。そのスタイルが、彼らがルーツでないことを知るのは、自分はもっと後になってからだった。
イーグルス「ホテルカリフォルニア」でドン・ヘンリーが歌う姿の映像を初めて見たときには、逆に「いやコレC-C-Bと一緒やん!」と思ったし、フィル・コリンズや稲垣潤一、はたまた石原裕次郎「嵐を呼ぶ男」まで、思えばドラムヴォーカルも以前からたくさんいたけれど、自分にとっては「やっぱりC-C-Bが最初で一番」なのである。
ドラムといえば、シモンズの電子ドラムに初めて触れたのもこの曲が初めてだった。六角形のパッドから放たれる電子音は、メカニカルなものが大好きな小学生男子にはものすごく惹かれるもので、地味な印象のあったドラムという楽器が、この曲をきっかけに華やかなものに捉えられるようになったといえる。
プレイヤーとしての個性、バンドの魅力を気付かせてくれた存在
ドラムだけではなく、C-C-Bと「Romanticが止まらない」は、自分に “バンド” というものの魅力を “初めて” 気付かせてくれた存在とも言える。それまでにもオメガトライブやトムキャットなどバンド形態でのヒット曲はあったけれど、どれもヴォーカル+バックメンバーの印象が強かった。チェッカーズにしても、楽器のプレイヤーとしてのイメージは、あまり自分にはなかった。
しかしC-C-Bは違った。筒美京平の曲、船山基紀のアレンジ、そしてメンバーの演奏技術も相まって、ドラムス、ベース、リードギター、サイドギター、キーボードそれぞれの楽器のプレイヤーとしての個性、そしてそれが合わさったバンドとしての魅力に溢れていた。
特に渡辺英樹の弾くベースはすごく新鮮だった。それまでベースとギターの違いも、どんな音を奏でるのかもわからなかったが、腰より高めに抱えて左右に揺れながら弾く渡辺英樹のプレイスタイルはすごくカッコが良かった。当時小学生の耳ではわからなかったが、今改めて聴くと、そのベースラインは相当複雑でカッコイイ。そしてその時は知る由も無かったが、チョッパー(スラップ奏法)を初めて目にしたのもC-C-Bが “初めて” だったと後に気づくことになる。
C-C-Bの登場以降、レベッカやハウンドドッグ、BOØWYなどのバンドがヒットチャートに登場し、バンドブームへ向けて日本の音楽業界は大きく動いていく。自分もご多分に漏れず、この「Romanticが止まらない」から4年後、高校生になってバンドを組んで、ベースを始めるようになる。バンドブーム真っ只中のその頃には、自分はBOØWYやブルーハーツの影響でバンドを始めたつもりだったのだが、ひょっとすると「Romanticが止まらない」が教えてくれた数々の “初めて” が、そのきっかけを与えてくれたのかもしれない。
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2021.01.25