リレー連載:2000年代ドラマ主題歌特集▶ 世界はそれを愛と呼ぶんだぜ / サンボマスター
▶ 電車男
▶ 主演:伊藤淳史
▶ 放送期間:2005年7月7日〜9月15日
▶ 放送局:フジテレビ系
ネット住人たちのリアルな息遣いが感じられた「電車男」
インターネットの国内利用率が8.500万人に達した2005年にフジテレビ系ドラマ『電車男』がスタートした。前年にはmixiのサービスがスタートしていたが、当時SNSという概念は一般的に浸透しておらず、Twitter(現:X)やFacebookの登場は2008年。そんな世相の中、物語を動かしていくのは、インターネット上の巨大掲示板だった。
物語は、ゲームとアニメ、地下アイドルを愛し、年齢(23歳)=彼女いない歴という、アキバ系オタクのイメージをデフォルメしたような主人公・山田剛司(伊藤淳史)の恋の行方を、掲示板で繋がっている顔の見えない仲間たちが応援していくというもの。最初は邪念や憶測があったものの、掲示板を通じて、みんなの心はひとつになっていく。
剛司のハンドルネームは電車男。不器用でコミュ障だから、会社ではパワハラに遭い、家に帰ると女子高生の妹から疎まれる。なにをやってもうまくいかない主人公だが、決して世の中を恨むことも、人のせいにすることもない。気持ちはどこまでも純粋でまっすぐ。だからこそ生きづらさを感じている世の中と、インターネットの世界の対比が鮮明に描かれている。劇中、パソコンの画面に映し出されるネットスラングが入り混じった励ましの言葉からは、ネット住人たちのリアルな息遣いが感じられた。
世の中の真理を歌うロックンロールバンド、サンボマスター
そんなドラマのエンディングテーマが、サンボマスター「世界がそれを愛と呼ぶんだぜ」だった。サンボマスターは、RCサクセションやザ・ブルーハーツと同じように虚飾を排し、愛や希望といった目では見えない世の中の真理を歌うロックンロールバンドだ。2000年に結成され、2003年にオナニーマシーンとのスプリットアルバム『放課後の性春』でメジャーデビュー。この「世界がそれを愛と呼ぶんだぜ」が初のオリコントップ10入りを果たし、ゴールドディスクを獲得。認知度を高めていく。そして今もロックシーンのトップランナーとしてデビュー23年目を迎えている。
サンボマスターといえば、ロックのステレオタイプの美学とは異なり、決してスマートな印象ではない。汗をかき、前のめりで、身体中のエネルギーを振り絞り現状を打破していくようなアティテュードを感じさせてくれるバンドだ。かっこ悪くてもいいんだぜ、というリアリティを剥き出しにしながら、決して諦めることのない力強さを楽曲に潜ませている。そして、苦しくて生きづらい世の中で彷徨う聴き手の耳元で “大丈夫だぜ” と囁くような繊細さも持ち合わせている。そんなバンドの世界観が『電車男』のストーリーと見事に合致しているのだ。
「電車男」のために書き下ろした「世界がそれを愛と呼ぶんだぜ」
そして、そんな印象を最大限まで引き上げた名曲がこのドラマのために書き下ろした「世界がそれを愛と呼ぶんだぜ」だろう。冒頭で「♪朝が来るまで せめて誰かと歌いたいんだ」とか細く囁くように歌いながら、起伏に富んだメロディーに呼び起こされるかのように「♪今までの過去がなかったかのように歌い出すんだ」とシャウトする。それはまさに、ドラマの中で、気弱だった剛司(電車男)がネットの住人たちに励まされながら、それまでの自分に訣別して、恋愛という高いハードルに挑み、成長していく様子とこれ以上にないくらいリンクしている。
『電車男』の毎回のエンディングで、舞台となるオタクの聖地、JR秋葉原駅のホームでサンボマスターの3人が「世界がそれを愛と呼ぶんだぜ」を奏で始める。ボーカル山口隆のネクタイは緩んでいるし、ズボンの裾は地面を擦っている。決してスタイリッシュではなく、むしろカッコ悪いという部類だろう。そんな姿なのに、彼らの演奏はお節介なくらいに背中を押してくれる。そう、エンディングで、「世界がそれを愛と呼ぶんだぜ」は剛司(電車男)の応援歌から、視聴者への応援歌に変わっていくのだ。
そして、全ての現状を振り切るように山口は叫ぶ「♪世界じゃそれを愛と呼ぶんだぜ Love&Peace!」その声には一点の曇りもない。虚飾を排したシンプルなその言葉は、説得力を持って、聴き手の心に染み込んでゆくのだ。
2026.06.14