人は忘れる.いつでも忘れる.なんでも忘れる.とにかく忘れる.たった数ヶ月前の震災なんてもう大昔の話.或るおかしな俳優の扇情的な事件でなぜか母親まで巻き込んで炎上したのもつかの間,どうせ一ヶ月もすればそんなこともあったかな,と.
特定秘密保護法案を無理矢理通した首相の,どうせ忘れるでしょなんて見事ななめっぷりだってもはや忘れられてしまったし,いわんや福島では未だ連日数トンの汚染水が垂れ流されて黒いタンクが増える一方なんてこともみんなきれいさっぱり忘れてる.
そりゃ,忘れたほうがいいこともある.実らなかった初恋,小さい頃のいじめ,小学校でのカンニング,けんかに病気にけがにストレスなんて忘れたほうが幸せだ.旅の恥はかき捨て,嫌なやつのことは寝て忘れ,まずい料理の味は忘れて結構,これまでの恋愛なんて全部覚えてたらきっと恥ずかしくて誰だって死にたくなる.上手に忘れて時に想いだすのが理想だけど,とかく人は忘れがち.
2011年3月11日,僕は東京にいた.井の頭公園で猿が騒ぎ電車は止まり道は渋滞,都市機能が麻痺した.漸くたどり着いた我が家でその夜は数秒毎に視聴者が倍増する原発情報に凍りつき翌日には東京を離れた.
はや5年.もう忘れかけていたけど,Mute Beat(ミュートビート)のセカンド『Lover's Rock』を取り出すと,すぐにいろいろ蘇ってくる.僕がダブとレゲエに遭遇したのはこのインストをメインとする,日本で初めてミキサーを正式メンバーとしたこのバンドだった.
80年代の東京にいて,音楽が好きです結構聴きますと自称するにーちゃんがミュートとじゃがたらを知らないなんてもぐりじゃんと失笑を買うくらい,そのテのお洒落でちょっと斜に構えた音楽好きの必須アイテムだったけど,僕がミュートなしで生きられなくなるのはもっとずっと後のことだ.
1988年に出た『Lover's Rock』のジャケットは1979年の事故で知られるスリーマイル島の原発.「キエフの空」なんて曲も入っているから,もちろん発売から遡ること2年前のチェルノブイリの事故(1986年)を即座に想わせたろう.ウクライナの首都キエフはチェルノブイリの南130キロ.当時は風上だったというが,それでも空には境界もついたてもない.
2016年の今僕らが聴けばすぐに想い浮かぶのは間違いなくFukushima.そういえば311の直後にも斉藤和義さんの替え歌,歌い手不明の「東電に入ろう(倒電に廃炉)」,そしてRankin & Dub Ainu Bandの「誰にも見えない,匂いもない2011」なんて名曲があった.
ん,「2011」? そうだ,一度聴いたら耳から離れないRankin Taxiのこの曲も元は1988年に,チェルノブイリへのリアクションとして作られた曲だった.それをまたもやセルフカヴァーしなくちゃならないなんて… やっぱり僕らはなんでも忘れてしまうのだ.
2016.09.23
YouTube / darenimomienai2011
YouTube / lolcafe2(当該曲のオリジナルヴァージョンは4:00付近から)
YouTube / アキューン akyuum
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