歌謡曲ばかり聴いていた私がハマったプリンセス プリンセス
80年代にアイドルソングや歌謡曲ばかり聴いていた私にとって、ロックは異世界の音楽だった。歌番組で披露されたヒット曲は聴いたが、それ以外の曲には興味がわかなかった。だから(ロックの定義はさておき)、サザンオールスターズ、アルフィー、チェッカーズ、Tubeといったランキング番組に名を連ねる人気バンドはヒット曲しか知らなかったし、BOØWY、米米CLUB、バービーボーイズ、THE BLUE HEARTSなどは、名前しか知らなかった。
そんな歌謡曲リスナーだった私が、80年代によく聴いたロックバンドが2つだけある。それは、レベッカとプリンセス プリンセス(以下プリプリ)。ヒットシングルやアルバムはもちろん、過去作品にまでさかのぼり、貪るように聴いていた。特にプリプリは、私が社会人になって初めてファンになったバンドで、思い入れも強い。
そのプリプリがブレイクするきっかけを作ったアルバムが、1988年春にリリースされた『HERE WE ARE』。大衆の心を射止めたプリプリの魅力が詰まり、ガールズバンドとしての矜持が感じられる作品だ。
アルバムタイトル「HERE WE ARE」から感じるプリプリの自信
『HERE WE ARE』は、プリプリにとって2枚目のフルアルバム(ミニアルバムを加えると3枚目)。シングルカットされた「MY WILL」、「19 GROWING UP -ode to my buddy-」、「GO AWAY BOY」の3曲が収録され、ロックの中にバラードが配分されたプリプリらしい1枚だ。また、このアルバムからメンバー5名が全ての作曲・作詞を手掛けるようになり、収録曲からは、寂しさ、切なさ、懐かしさ、ユーモアなどの生々しい感情が伝わってくる。タイトルの『HERE WE ARE』も、「ここまで到達した私たちの全てを見てほしい」という自信をファンに発しているようだ。
特に、1曲目に置かれた初期プリプリの代表曲「19 GROWING UP -ode to my buddy-」には、このアルバムに込めたプリプリの思いが凝縮されている。デビューから紆余曲折はあったが、ここから私たちは成長していくという決意の宣言に聴こえるからだ。 この曲をシングルカットしてアルバムと同時発売したことからもそれがわかり、ガールズグループの矜恃を感じる。
その宣言のとおり、ここからプリプリは人気と知名度を獲得していくのだ。
アルバム収録曲から垣間見えるプリプリの魅力
アルバムに収録された楽曲からも、後年に花開くプリプリの魅力が垣間見える。先行シングルの「MY WILL」は、プリプリらしいポジティブソング。サビの部分で”MY WILL”に重ねて歌われる「いつだって やりたい事 追いかける、追い越すまで」と、2番の「今じゃなきゃ 出来ないこと 手当り次第 やり尽くすの」からは、大ヒットした「Diamonds」の歌詞の原型を感じる。
「KEEP ON LOVIN' YOU」、「ROMANCIN’ BLUE」、「恋のペンディング」は、これもプリプリらしいミディアムテンポのロックバラード。翌年のアルバム『LOVERS』に含まれる「DING DONG」や、後年のシングル「SEVEN YEARS AFTER」を彷彿させるメロディーが、聴いていて心地よい。
「SHE」は、歌詞を丁寧に聴かせるバラードで、名曲「M」の系譜にある曲だ。
このように、全体としてはロックテイストを保ちつつ、ハードロック、ミディアムテンポのロック、スローバラードといった性格が異なる曲が絶妙に配分されている。こうしたアルバムのスタイルは作品ごとに洗練されていくが、その原型が、この『HERE WE ARE』に見られるのだ。
プリプリが大衆性を獲得し、果たした役割とは?
今回、私は『HERE WE ARE』を約30年ぶりに聴き直したが、当時の自分が感じたプリプリの原石のような魅力が再び感じられて嬉しかった。と同時に、私のような歌謡曲リスナーが引き込まれた理由の一端がわかった気がした。それは、歌謡曲テイストがロックサウンドの中に違和感なく混ざっていることだ。心に刺さる言葉、哀愁が漂うメロディー、女の子の本音を記した歌詞など、大衆の心を射止める力がプリプリの曲に備わっていたように思う。
折しも90年代前半の音楽シーンは、B’zやZARDをはじめとするビーイング系バンドや小室ファミリーが続々とデビューし、急速に人気を高めてゆく。歌謡曲がJ-POPに変わり、ヒットチャート上位をバンドが占め、アイドルソングは冬の時代を迎えた。そうした時代の変化を考えると、私のような歌謡曲リスナーに、平成のロックサウンドへの移行を促した役割がプリプリにあったと思う。
それにしても、「Diamonds」を初めて聴いた時の衝撃は今も忘れられない。聴いた途端にモータウン調のメロディーと楽しさを全肯定する歌詞が心に刺さり、これは自分自身への応援歌だと確信したのだから。そうした「あの時感じた気持ちは本物」と思わせる力が、プリプリにはあったのだ。
BOØWY 40thアニバーサリー特集「ライブハウス武道館へようこそ」

▶ プリンセス プリンセスのコラム一覧はこちら!
2021.10.26