類い希なる中川勝彦の美しさ
中川勝彦といえば、中川翔子の父、そしてなんといっても、誰もが口にするのがそのルックスの “美しさ” だ。これまで何本も中川勝彦のコラムを書いてきたが、その都度、彼を表す形容詞として類い希なる美しさについて書かないわけにはいかなかった。
80年代当時 “中川勝彦は神様が作ったのではないか” と真剣に思うほど、そのルックスに魅了され、度肝を抜かれた。未だに彼ほど美しい人を見たことがない。…と言い始めればキリがない。今回はルックスではなく彼の残した音楽について書こうとしているというのに、どうしても避けては通れない、罪深き、かっちゃんの美しさよ(笑)。“たまにはさー、音楽の話もしてよ” という声が空の上から聞こえてきそうなので、今回は彼が世に送り出した素晴らしい楽曲について書いていきたいと思う。
豪華メンバーが揃った作品の魅力
1984年2月22日、「してみたい」でデビューした中川勝彦は、今年40周年を迎えた。それに併せてサブスクが解禁となりファンから歓喜の声が上がった。アルバムを振り返ると、デビューアルバム『してみたい』、セカンドアルバム『DOUBLE FEATURE』、サードアルバム『ペントハウスの夏』まで、なんと1年3ヶ月というすごいスピードだ。
『してみたい』は、ムーンライダーズの白井良明がプロデュースとアレンジを担当。中川の独特な甘く繊細な歌声と、洗練されたサウンドが混ざりあっていく。ほかにもかしぶち哲郎や原田真二、作詞では銀色夏生も参加。
デビューアルバムとしてはあまりに豪華なメンバーが揃っており、当時のスタッフの力の入れようが見て取れる。ラストの曲として収められた「雨の動物園」はいまだにファンから絶大な支持を集めており、中川翔子もカバーした名バラードだ。
いきなりのロックバンド結成へ
セカンドアルバム『DOUBLE FEATURE』、サードアルバム『ペントハウスの夏』と作品が出来上がるにつれ、中川の歌声は変幻自在に変わっていく。同じアルバムの中の曲でも “こうも歌い方が違うの!?” というくらい表現を変える人も珍しい。まるで猫の目のようにコロコロと変わる歌声に、面食らった人も多かったのではないだろうか。4枚目のアルバム『FROM PUBERTY』ではデビューシングル「してみたい」を作曲した林哲司をプロデュースに迎え、タッグを組む。
今聴き返すと、これは中川勝彦流シティポップ! 洗練された音の世界に、才能豊かな中川勝彦の魅力が詰まっている。くるくると表情を変えるとはいうものの、この作品までの4枚のアルバムで中川勝彦の1つの方向性が見えてきた… ように思えたのだが、次のステップでリリースされたのが、なんとゴリゴリのロック!
ギタリスト・Charプロデュースの『MAJI-MAGIC』。Charとバンドを組んじゃうびっくりの展開。“えぇっ~かっちゃん、そっちに行くの!?” と、それまで応援してきたファンは腰が抜けるほど驚いたに違いない。しかも、ライトなロックではなく、あまりにディープな世界だったから、もう正直、みんなが中川勝彦の変化についていくのに必死だったような気がする。
普通であれば “これが私の音楽です!” と明確な世界観を作り披露するアーティストが多いはずだが、中川勝彦の音楽性や歌声は幅広く、掴みようがなかった。1曲ごとに表情が変わって見える稀有なアーティストといっていい。だからこそ、魅力的なのだが、一方でかっちゃんの音楽をどう説明したらいいのか、まだ当時子供だった私たちはうまい言葉を見つけられなかった。いつも、いたずらっ子な彼に翻弄されていたようにも思う。
ワーナー時代のベスト盤がリリースに
5枚目のアルバム『MAJI-MAGIC』リリース後にワーナー・パイオニアを離れ、1988年からはNECアベニューへ移籍し『ラヴァー・ピープル』をリリース。これまたとんでもなく斬新というか、良い意味で問題作とでも言おうか… “まだこんな引き出しもあるのか” と驚かされた。そして、1989年にリリースされたアルバム『HUMAN RHYTHM』が残念なことに彼の遺作となってしまった。
振り返れば1984年〜1989年の活動期間は5年。たったの5年なのだ。私たちリスナーに、次々とさまざまなアプローチを見せ、1曲ごと、1作ごとに驚かせた中川勝彦。それはもしかすると、中川勝彦という1人のアーティストが、1人の人間・中川勝彦の中に眠るたくさんの魅力や引き出しを、短い時間の中、全力疾走で私たちに見せてくれようとしていたのかもしれない。
そう思うのは少しセンチメンタルがすぎるのだろうか。5年間を、32年という人生を、駆け抜けた… という言葉が正しいのかは分からない。けれど、その短い間にたくさんの宝物を私たちに残してくれたかっちゃんに心から感謝している。彼が作り出した多彩な音楽が、私たちに音楽の素晴らしさを教えてくれたのだから。
2024年10月30日には40周年を記念した『ゴールデン☆ベスト』がリリースされる。ワーナー時代の曲が最新リマスターベストとなって今に甦ることが嬉しくてたまらない。新作が聴けなくなった寂しさを抱え続けるファンにとって、ベスト盤のリリースは心から楽しみな出来事だ。そして最後になるが、愛娘・中川翔子も、父のカバーはもちろんのこと、長編VR映画『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』の主題歌を担当することになり大活躍中の今だ。
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2024.10.27