ソラ耳的な英語の聴感を活かしたダンス☆マンの面白さ
今から25年前、1998年の初春、筆者は某レコード会社洋楽部にて海外アーティストのプロモーションという仕事に従事していた。そんな折、Aレコード会社のK先輩から1本の電話が入った。
「今度リリースされるダンス☆マンというアーティストのデビュー曲、聴いてみてよ。かなり好きなんじゃないかなぁ」
―― という連絡。これが筆者とダンス☆マンとの邂逅だった。
早速耳にしたデビュー曲は、「背の高いヤツはジャマ」(1998年)。まず気づくのが、カール・カールトンの「バッド・ママ・ジャマ(She’s A Bad Mama Jamma)」だ! ということ。
一般的には日米では小ヒットだったが、レオン・ヘイウッドが関わった中堅シンガーの復活作ということで一部のソウルファン、そしてサーファーディスコの定番曲だったということでディスコファン(要はダンスクラシックスファン)には大人気の作品。
―― そんな「バッド・ママ・ジャマ」のカバーということにまずは度肝を抜かれた。
さらに聴き進んでいくと―― 日本語! しかも直訳ではなく、いわばソラ耳的な英語の聴感を活かした日本文の羅列!―― に思わず笑ってしまった。
この面白さはさすがに文章だと伝わりにくいかとは思うが、例えばサビの「She’s A Bad Mama Jamma〜」が、“背の高いヤツはジャマ〜” となり、全編そんな歌詞のオンパレード。
大爆笑かどうかは別として、小さな笑いは聴く者の心に必ずや届けてくれるのではないだろうか。ちょっと前に、王様がディープ・パープル等ハードロック系洋楽曲の直訳カバーで大きな話題を振りまいていたが、和訳カバーという根っこの共通点以外は、直訳と聴感訳というまったく異質のものだった。
洋楽リスナーにあたたかく受け入れられたダンス☆マン
桑田佳祐が、意味のない英語の羅列で日本語のソラ耳を誘うという手法を駆使していたが、まぁそれとも違うわけで――。
これはもう、ありそうでなかった、やりそうでやらなかった、いわばやった者勝ちの様相を呈しており、アプルーバルの煩わしさを推測するに高いハードルを越えたことを含め、拍手喝采を送ったのは当然だ。
ダンス☆マンとの初邂逅は、驚愕を伴った楽しさを享受させてくれた、それはもうウェルカムなものだった。
当初ダンス☆マンは、主に洋楽リスナー、特にダンスクラシックス支持層から、あたたかく受け入れられていたようだ。それは角松敏生がプロデュースを担ったジャドーズのメンバーという出自を含め、音楽的基盤がソウル系ダンスミュージック / ファンクにあるのが、歌唱と演奏から伝わってきたからというのは間違いない。
そもそもお披露目曲が「バッド・ママ・ジャマ」というのも絶妙で、送り手側はターゲット層を明確に据えていたのだろう。当時ブラックミュージック系音楽専門誌等でライターもやっていた洋楽畑の筆者に、プロデューサーからひと声がかかったのが、何をかいわんやである。
ディスコでお馴染みの選曲、圧巻のシングル攻撃
ダンス☆マンの「背の高いヤツはジャマ」リリース後のシングル攻勢は圧巻だった(以下は元ネタも記載)。
■ ワンBOXのオーナー(1998年)
KC&ザ・サンシャイン・バンド / ザッツ・ザ・ウェイ
■ ダンス部部長南原(1998年)
アース・ウィンド&ファイアー / ブギー・ワンダーランド
■ ヘンなあだ名はイヤ(1999年)
ダン・ハートマン / リライト・マイ・ファイア
■ 接吻のテーマ(2000年)
アース・ウィンド&ファイアー / セプテンバー
■ 漢字読めるけど書けない(2000年)
レイ・パーカーJr.&レイディオ / パーティ・ナウ
■ 勝利V絶対つかもう!(2002年)
クール&ザ・ギャング / セレブレーション
―― 等々、“ダンクラ” ファンにとってはすべて納得の、ディスコでおなじみな選曲が並ぶ。この間、オリジナル楽曲のシングルやアルバムもコンスタントにリリースしており、このジャンルの第一人者たる地位を盤石なものにしている。
モー娘。「LOVEマシーン」もプロデュース
ダンス☆マンは、並行して他アーティストのプロデュース、アレンジも多数行っていて、「LOVEマシーン」「恋のダンスサイト」「ハッピーサマーウェディング」「恋愛レボリューション21」といった一連のモーニング娘。ダンスヒットを筆頭に、ディスコ、ファンク、ソウルミュージックのクリエイターとしての名声があがっていったのは言うまでもない。
2023年4月、エイベックスからリリースされたこれらダンス☆マンの作品群が、一挙各音楽サイトから配信された。汗と涙の結晶たる “ソラ耳系ダンクラ・カバー”(勝手にそう呼んでます!)を、あらためて楽しんで、大いに笑おうじゃありませんか。新たな魅力の発見は、必ずやあるはずだ。
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2023.04.26