1976年 10月16日

金田一耕助は吉岡秀隆?それとも石坂浩二?「犬神家の一族」にかけられた呪いとは

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「犬神家の一族」の新作がBSプレミアムで放送


2023年4月22日、29日にBSプレミアムで新作ドラマ『犬神家の一族』が放映される。前後編というから、かなりの大作である。これまでに描かれなかった新たなシークエンスが生まれるだろうと今から放送が楽しみだ。

脚本はアニメ『進撃の巨人』『ジョジョの奇妙な冒険』ドラマ『岸辺露伴は動かない』等々、原作ものを見事な構成力で作り上げてきた小林靖子さん。私はこの人以上にキャラクターの生かし方が上手い人を知らない。その小林さんが以前メディアで語っていたことが不思議と記憶に残っている。それは「吉岡秀隆さんの金田一耕助は庶民的で優しく、いろいろなところに感情を動かして寄り添う人物で、普通に日常生活をする金田一が見えるのでは…」というコメントだ。

これまで吉岡さんの演じてきた人物は、『男はつらいよ』で寅さんの甥っ子・満男にしろ、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの文学青年にしろ、離島の医者を演じる『Dr.コトー診療所』にしろ、現実にいるかのような人物像だった。その庶民的で優しい姿が現代人に癒しを与えているのは確かだろう。勿論、BSプレミアムで見せた横溝正史シリーズの金田一もまた魅力的である。



エンターテインメントと芸術性が融合した角川版「犬神家の一族」


ただ今回の『犬神家の一族』には大きなハードルが存在している。それはエンターテインメントと芸術性が見事に融合した偉大な大ヒット映画、1976年に劇場公開された角川映画版である。小林靖子さんが「市川崑さんの犬神家の一族が大好きで、それが根底にある」と言う通り、47年前に公開された大ヒット映画の印象は強すぎる。前作以上の面白さを作り出すには市川崑監督の作劇・演出を超えなければならない。もうこれは犬神家の呪い、因縁といってもいいだろう。

映画『犬神家の一族』は角川映画の第1作であり、出版社の資本を映画製作に投資し、メディアミックスという新たな手法で斜陽と言われた日本映画界に一石を投じた革命的な作品である。読んでから見るか、見てから読むか… 本を売るために映画を作り、映画館にも観客を呼び込みヒットさせる。しかも角川映画で扱われる音楽はすべてが一流の作曲家やミュージシャンによるものだから、その音楽を耳にするだけで作品の内容を明確に思い出すことができる。

特に大野雄二作曲の犬神家のサウンドトラックは聴く者を悪夢へといざなう名曲だった。本編は言わずと知れた80年代を席巻する角川春樹プロデュース、横溝正史ブームの礎である。

当時、15億円超の興行収入を記録する大ヒットとなったが、僕たちがこの映画に大きく影響されたのは、1978年に放送された『月曜ロードショー』で全国のお茶の間に映画が公開されたからだと思う。その視聴率は40.2%(関東地区・ビデオリサーチ)に及んだというから日本人のほとんどがこの映画を目にしていることになる。

横溝正史特有のおどろおどろしい怨念の世界


映画は、大企業・犬神製糸を裸一貫で築き上げた信州那須市の名士、犬神佐兵衛翁の病床から始まる。屋敷の大広間には佐兵衛の子である松子、竹子、梅子の三姉妹をはじめ遺族が遺言を聞くために集まっている。死を前にし、寝たきりで憔悴しきった佐兵衛は顧問弁護士の古館を力無く指差す。古館はその意を受け取って遺言状を預かっていることを語りだし、その遺言が血縁者全員が揃ったときに公開されることを明かす。

これから遺産を争う不穏な空気が立ち込めるなかで佐兵衛翁は息を引き取る。そして、ここで民族楽器ハンマーダルシマーの旋律が印象的な「愛のバラード」が流れる。琴を彷彿とさせる幽玄妖美な音色。とにかく、オープニングから完全に観客の心は鷲掴みにされてしまう。

横溝正史特有のおどろおどろしい怨念の世界へと引きずり込まれ、後は猟奇殺人の世界へとまっしぐらだ。三種の家宝を表す、斧、琴、菊が殺人のキーワードとなり、遺産相続に関わる血縁者が次々と凄惨な姿で殺されていく。



石坂浩二演じる名探偵、金田一耕助


金田一耕助=石坂浩二。その時見た名探偵の姿は、驚きに満ちていた。TBSドラマ『ありがとう』シリーズ(’70~’74年)で人気を博し、大河ドラマ『元禄太平記』(’75年)で主演を勤め、正統派の二枚目俳優だった石坂さんが、ボサボサ頭に和装のよれよれ袴にチューリップハットという変わった出で立ちで登場。

頭に指を突き立て興奮して髪を掻きむしるとフケがボロボロと落ちてくる。宿屋の娘に恋心を抱かれても全く反応しない朴念仁、土曜ワイド劇場の明智小五郎のようにロマンスに落ちることはない。真実を紐解くこと以外に興味を示さず推理にただ邁進する男。

テレビ界の大スターが二枚目半を演じきって、その意外性が視覚化されたとき、多くの映画ファンがキャスティングの妙に納得させられたはずである。勿論、映画公開時に流されたスポットCMも印象深く、名探偵・金田一耕助の飄飄とした風来坊というイメージはこのとき完全に固定してしまった。



以後、角川映画では西田敏行が金田一を演じた『悪魔が来りて笛を吹く』が大ヒットしたし、テレビドラマで金田一を演じてきた古谷一行の『金田一耕助の冒険』のほか、和製ヒッピーとも言うべき姿の『悪霊島』の鹿賀丈史と、様々な名優たちが金田一耕助をそれぞれ魅力的に演じてはいるが、石坂=金田一のインパクトを塗り替えることはなかった。

東宝が次もやってほしいと『悪魔の手毬唄』(’77年)『獄門島』(’77年)『女王蜂』(’78年)『病院坂の首纐りの家』(’79年)とシリーズ化し、石坂さんが金田一役者として映画に出続けていたことも影響しているかもしれない。

光と影の美しさ、市川崑監督の映像マジック


勿論、石坂さんと二人三脚で金田一シリーズを大ヒットに導いた市川崑監督の映像マジックも凄まじかった。その構図と光と影の美しさは、芝居のしぐさやセリフをいとも簡単に越えていく。畳み掛けるように映し出されるエフェクト効果もスタイリッシュ、『犬神家の一族』の画で見せる映画哲学は、そのすべてが芸術的だ。

不気味な白いラバーマスクを被った戦争帰りの男。頭と胴体が湖水に沈み、両の足が空に向かい逆さまにV字に突き立つ異常な死体。その怪奇的なヴィジュアルは強烈な印象を放っていたし、人妻と若者がまぐわう寝取りのシーンなどは白と黒のコントラストで潰され、普通の濡れ場よりも心の襞に絡み付いてくる。さらに回想で女たちがリンチを繰り広げるシーンは映像が歪んで、まるで悪い夢でも見ているかのようだった。

さらに言えば、石坂=金田一は鳥か天使のようにふわっと殺人事件にやってきて、仕事を終えるとすっとその場から去っていく。人の醜い争いごとをじっくりと観察し、傍観者のようにストーリーの外でじっと見ている。犯人とは対峙はするが、強過ぎる感情に囚われることなく冷静に推理を進めすべてを詳らかにしていく。

着た切り雀の風来坊的な装いも相まって、その姿はまったく常人とは思えないくらい自由に見える。そして、とにかくよく走る。私は映画を観る度、その姿につい見入ってしまう。彼が走る姿は歴代金田一の中で最も美しい。市川崑監督はこう言った。「石坂君、金田一耕助は神様なんだよ」

さて、令和の金田一、吉岡秀隆は『犬神家の一族』で、どんな名探偵になるのだろうか。吉岡版を楽しんだら、昭和の石坂版を改めて再確認しようと思う。

金田一さん、事件です! 石坂=金田一は、ふわっと時代を超えてやって来る。

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2023.04.22
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カタリベ
1966年生まれ
鎌倉屋 武士
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