「ありがとう」といえば、いきものがかりや小坂忠、大江千里と名曲が数あれど、挙げたいのは水前寺清子(チータ)の「ありがとうの歌」である。民放ドラマ史上最高視聴率56.3%を記録したという、1970年代を席巻した昭和を代表するTBSのホームドラマ「ありがとう」の主題歌だ。
石井ふく子プロデュース、脚本には平岩弓枝、チータや石坂浩二、山岡久乃が出演し、全4シリーズを数えた。第1シリーズ開始は1970年。私はまだ幼稚園にも上がっておらず、1984年時の再放送の後追い派である。
あれは高校2年の秋。我が家にはまだビデオがなかった。毎日の再放送が見たくて、ほぼ毎日高校を早退していた。校舎は職員室から校門が丸見えの作りで、いつも帰り際に「こらー!親王塚!! 待て!」と担任に怒鳴られたものだ。「ありがとう」見たさに学校をフケる。なんだそれ。心に茨を生やし出した暗い女子高校生だった私に、「屈託のない日常の永遠の繰り返し」のようなドラマ世界が、まぶしく見えたのかもしれない。
高らかなホーンで痛快に始まるイントロから、パンチのきいた元気なボーカルがはじけ、惜しみなく青春を歌い上げる全開の青春歌謡。スカッと爽やか! 恋をしよう! 私達は若い! 的な。だが、歌は初っ端からすべての希望をぶったぎる。恋をしたら即あきらめよう、そして泣こうとチータは歌う。
作詞者は大矢弘子氏。享楽的な80年代を自堕落に過ごしていた女子高生は不思議に思うのだった。お気楽なホームドラマの枠に括りきれないこのペシミズムはいったい。さらに歌は、傷ついて独りで泣こうと続く。そんな諦念感!
いやいや、この諦めでスタートする爽やかさは、来たるべきグランジブームの先駆けだったのかもしれない(違)。けれど、現代の草食系の若者達の心情にどこか通じているかもね、などとむりやりこじつけつつ、今もたまに再放送をチェックしながら、永遠のフェイバリットソングを憧れのような気持ちで口づさみつつ、湧き上がる幸福を噛みしめている。
2016.01.27
YouTube / 勇魚廣2
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