2月5日

還暦おめでとう大槻ケンヂ!江戸川乱歩の小説とリンクする “筋肉少女帯” が描いた世界

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大槻ケンヂの根幹にある江戸川乱歩の存在


筋肉少女帯は、ボーカルで作詞も担う大槻ケンヂの嗜好や関心が、歌詞・アートワーク・曲タイトルにまで一貫して反映されたロックバンドである。その膨大な引用元や影響源のなかで、根幹にもっとも深く染み込んでいる存在は、日本の探偵小説の始祖であり、幻想文学の大家である “大乱歩” こと江戸川乱歩だろう。ここでは、作品中で引用・参照された乱歩作品を紹介しつつ、それぞれが筋肉少女帯の作品へどうリンクしているのかを紐解いていきたい。

1966年2月6日生まれの大槻が小学生だった1970年代、日本の子どもたちが乱歩に触れる機会は豊富だった。ポプラ社の『少年探偵・江戸川乱歩全集』シリーズの単行本の表紙を飾った怪しげな洋館や仮面の絵は、書店や図書館の児童書コーナーで異様な存在感を示していた。また、テレビでは、1975年10月から『少年探偵団』(日本テレビ系)、1977年1月から『怪人二十面相』(フジテレビ系)といった児童向けドラマが放送されていた。

そして、1977年より “おとなの乱歩” を映像化したコンテンツが始まる。それが『土曜ワイド劇場』(現:テレビ朝日系)で放送されていた『江戸川乱歩の美女シリーズ』だ。天知茂が明智小五郎を演じる同シリーズは、ミステリーでありつつ、エロスやグロテスクを地上波ドラマで許される範囲で表現したものだった。これを一部の子どもたちが、背徳感にゾクゾクしながら観ていたのだ。このような時代背景から、乱歩的世界が意識の奥底に残り続けた子どもは決して少なくなく、大槻もそのひとりだった。

「孤島の鬼」と「月とテブクロ」


1982年に大槻ケンヂと内田雄一郎(ベース)を中心に結成された筋肉少女帯がメディアに注目されるきっかけは、1987年に発売されたインディーズ時代のシングル「高木ブー伝説」だった。そのB面曲のタイトルが、江戸川乱歩の作品名を引用した「から笑う孤島の鬼」である。翌1988年6月、メンバーの入れ替わりを経てメジャーデビューを果たした筋肉少女帯のデビューアルバム『仏陀L』には「から笑う孤島の鬼」のバージョン違いが「孤島の鬼」として収録された。

この「孤島の鬼」という曲は、孤島で実行される人間の尊厳を踏みにじる恐ろしい計画を描いた同名の乱歩作品を直接物語化したものではない。だが、閉ざされた空間で肥大化していく狂気と執着の構図は、筋肉少女帯の歌詞世界で繰り返し描かれる主題とも重なっている。



1989年、当初のプログレ路線を牽引したキーボードの三柴理が脱退し、ヘヴィメタルバンドAROUGEのメンバーだった橘高文彦(ギター)が加入し、初期に在籍していた本城聡章(ギター)が復帰した。大槻、内田、ドラムスの太田明とともにメンバーが固定化され、ハードロックの色合いを強くした最初のアルバムのタイトルは『猫のテブクロ』(1989年)というものだった。

これは、『月と手袋』という乱歩作品を下敷きにしたタイトルだろう。さらに同アルバムには「月とテブクロ」という曲も収録されている。 乱歩の『月と手袋』で描かれる、日常のなかで追い詰められていく人間の心理は、この時期の筋肉少女帯が示した内向的で陰影の濃い作風と重なっている。



理想郷そのものを描いた「パノラマ島奇談」


空前のバンドブームのさなか、筋肉少女帯は人気絶頂期を迎えた。1990年2月、初の日本武道館公演と同時期にリリースされたアルバム『サーカス団パノラマ島へ帰る』は、タイトル曲「パノラマ島へ帰る」とともに、乱歩の『パノラマ島奇談』をオマージュした作品である。

『パノラマ島奇談』はまさに、筋肉少女帯が繰り返し描いてきた、逃避としての理想郷そのものを描いている。前年のヒット曲『日本印度化計画』にも『パノラマ島奇談』に通じるものがあるが、この時期の筋肉少女帯は、大槻ケンヂのストーリーテラーとしての側面が強く打ち出されていた。



ちなみに、『パノラマ島奇談』と『孤島の鬼』をミックスし、他作品の要素も織り交ぜて構成されたのが、石井輝男監督による映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年)である。カルト映画の最北端に位置するこの作品は、『サーカス団パノラマ島へ帰る』がリリースされた頃より、東京の名画座で密かな盛り上がりを見せ始め、アンダーグラウンドな人気作品となっていった。

大乱歩へのメッセージ「世界の果て〜江戸川乱歩に〜」


バンドブームが去り、解散、活動休止に至るバンドも目立ったが、筋肉少女帯は積極的な活動を続けた。1992年5月発売のアルバム『エリーゼのために』には「世界の果て〜江戸川乱歩に〜」という大乱歩へのメッセージのような曲が収録されている。



そして、1993年4月のアルバム『UFOと恋人』に収録の「パレードの日、影男を秘かに消せ!」では、間奏に「♪拝啓 親愛なる江戸川乱歩様」で始まる、乱歩作品世界への書簡的なセリフが入る。 複数の顔を使い分けて生きる影男は、筋肉少女帯が描いてきた “仮面を被った自己” と強く共鳴する存在だ。



『UFOと恋人』の翌年、大乱歩の生誕100周年を迎えた1994年は、地下で熱を帯びて蓄えられてきた乱歩人気が、地表へと滲出した。出版社が作品の文庫本を増刷し、複数の雑誌が乱歩特集を展開。さらに『乱歩 −妖しき女たち−』(TBS系)というドラマも放送された。また、同年の『押繪と旅する男』以降、ほぼ毎年のように、乱歩作品を原作とした映画が制作されるようになった。この現象には筋肉少女帯の影響もゼロではなかっただろう。

​​自虐的楽曲「パノラマ島失敗談」


1999年に活動凍結を宣言した筋肉少女帯だが、2006年に全盛期のメンバーにより再結成。そして2010年代になると、乱歩への再アプローチが始まる。

2014年10月リリースのアルバム『THE SHOW MUST GO ON』のジャケットは、ポプラ社版『蜘蛛男』の表紙絵を使用し、収録曲「月に一度の天使(前編)」の歌詞でも江戸川乱歩に言及している。 変装と擬態によって複数の顔を持つ蜘蛛男像は、『影男』と同様に筋肉少女帯が長年描いてきた主題と重なっている。

2016年10月には再結成後のベストアルバム『再結成10周年パーフェクトベスト+2』をリリース。ここには、「♪江戸川乱歩のパクリだぜ」という歌詞を含む自虐的楽曲「パノラマ島失敗談」も収録されている。



乱歩を体現したもう1つのバンド、人間椅子との交差


ところで、筋肉少女帯と時を同じくして、江戸川乱歩にアプローチしたロックバンドがもう1組存在した。人間椅子である。1990年にメジャーデビューを果たしたこのバンドは、江戸川乱歩をはじめとする文学作品から着想した歌詞を、ブリティッシュ風ハードロックに乗せるスタイルを特徴としていた。バンド名の “人間椅子” 自体が乱歩作品のタイトルであり、アルバムタイトルにも『踊る一寸法師』『怪人二十面相』など、乱歩関連の語が多用されている。

時を経て、2012年には筋肉少女帯と人間椅子のコラボが実現し、5月に合同ライブが開催された。さらに2015年には、両バンドが合体したユニット “筋肉少女帯人間椅子" が結成され、シングルをリリースしている。ただし、ここでは乱歩に直接アプローチせず、「地獄のアロハ」というタイトルで “ハワイアン暗黒メタル” とでも呼ぶべき楽曲が作られた。

 現(うつ)し世は夢、夜の夢こそまこと

これは、江戸川乱歩が好んで記した有名な言葉である。筋肉少女帯は2026年で結成から44年を迎え、2月6日に誕生日を迎えた大槻ケンヂは60歳になった。この長い長い時間も、すべては幻なのだろうか?

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2026.02.06
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