4月12日

ブランキー・ジェット・シティのロックンロール ー 時代が変わる瞬間の真実

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ブランキー・ジェット・シティのデビューアルバム「Red Guitar and The Truth」がリリースされた日
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photo:UNIVERSAL MUSIC JAPAN  

僕が生まれたころ、西新宿は吹きっさらしの荒野だった。かつてはここに淀橋浄水場があり、この跡地に続々と高層ビルが立ち並ぶ計画があった。新宿副都心計画だ。その第一棟目として、当時高さ日本一の京王プラザホテルが竣工した1971年、僕は3歳だった。

新宿に隣接した住宅街に生まれた僕は、幼い頃親父に、「これからこのあたりに高いビルがどんどん建っていくんだぞ」と教えられた。住友ビル、KDDビル、三井ビル…。親父は建設中のビルの名前を僕にひとつひとつ覚えさせた。その時の親父の表情は本当に嬉しそうだった。僕がオトナになる頃の東京は、今よりもっともっとよくなって、素敵な未来になると、親父は信じて疑わなかったんだと思う。

いや、すべての日本人がそう信じていたのではないだろうか。そして、その思いは80年代末まで続いていたんだと思う。

91年3月、前年に竣工した都庁第一本庁舎の落成式が執り行われた。しかし、その時、坂の上にある僕の実家から見える巨大なクリスマスツリーのような都庁のネオンは、かつて高層ビル群を見た時に感じた輝かしい未来の象徴ではなくなっていた。

バブルが崩壊し、時代は加速度をつけて世紀末に向かおうとしていた。80年代を謳歌した人々がそれまで感じることのなかった危機感の中、都庁が落成した翌月の91年4月12日、ブランキー・ジェット・シティ(以下 BJC)のファーストアルバム『Red Guitar and The Truth』がリリースされた。

80年代バンドブームの集大成として、多様な音楽の価値観を見せつけてくれた深夜番組『三宅裕司のいかすバンド天国』から登場した BJC は、当時渋谷のセンター街でバタフライナイフを忍ばせていたチーマーたちとも似たハードなアメカジスタイル、腕には鮮やかなタトゥーが施されていた。

ロックンロールは見栄の美学と言わんばかりのルックス。スリーピースのスタイルが醸し出す言葉とサウンドは、素肌にカミソリの刃をあてたようなヒリヒリする危機感があった。彼らの音楽を受け入れるということは、時代が変わる瞬間の真実を受け入れなくてはならない覚悟でもあった。

世紀末に時代の寵児になるべく登場した BJC だったが、彼らが吐き出す言葉、サウンドは、反逆というキーワードでは括ることのできない内省的なものだ。

このファーストアルバムに収録されている「あてのない世界」では


 そして君は鉄の扉を開けて
 非常階段を降りて行く
 流れているのは子供の時に
 よく聞かされた FIVE YEARS で
 見つからないのが
 このダンスが終わった
 後の行き先


と歌っている。FIVE YEARS とは、デヴィッド・ボウイが1972年にリリースした『ジギー・スターダスト』の1曲目に収録されている「5年間(FIVE YEARS)」のことだろう。ボウイはこの曲の中で、俺たちの残された時間は5年間しかないと繰り返している。地球滅亡を示唆し、過去と未来の通過点である今を刹那的に描いている。そして BJC もまた、自分たちに残された限りある時間をどのように生きるべきか模索していた。


 ここは何処? 君は誰?
 俺は今 唄うだけ
 何が愛? 何が嘘?
 俺は今 唄うだけ
 悲しくて美しい 灰色の世界


悲観的に感じるこのような歌詞(「不良少年のうた」)も、バブルが弾け見栄と虚構がなくなった世界で自らの真実を追い求めなくてはならない僕らに微かに光る希望があることを感じさせてくれた。

1989年昭和天皇が崩御された時、僕は生まれて初めて時代が変わる様子を目の当たりにした。深夜テレビをつけっぱなしにして、皇居が映る静止画をぼんやり眺めていた。それでも80年代の熱狂と興奮は、まだ続くのだろうと心のどこかで思っていた。しかし、それが間違いだと気づかせてくれたのが BJC の存在だ。

BJC の描く世紀末の世界には、かつて幼い頃に見た高層ビル群のような輝かしい未来の象徴なんてどこにもない。だからこそ、新たな時代の変わり目を目前にした今、彼らの奏でる音楽が、目には見えない本当の真実を教えてくれている。



歌詞引用:
あてのない世界 / ブランキー・ジェット・シティ
不良少年のうた / ブランキー・ジェット・シティ



※2018年4月12日に掲載された記事をアップデート

2019.04.12
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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