いつの時代もそうだが、時代の流れが、ある一つの方向に行き過ぎた(と世間が感じた)時に、それに対する揺り戻しと言うか、サイドチェンジが行われることがある。 例えば、2016年に起こった英国のEU離脱決定や米国大統領選のドナルド・トランプの勝利は、市場原理主義と自由貿易体制に支えられてきた「グローバル資本主義」に対して、世間が修正を求めた結果と言ってもいいんじゃないかと思う。 似たようなことは、ポップミュージックの世界でもたびたび起こっている。1989年に放送開始した『MTVアンプラグド』も、その一つに挙げられるだろう。 今思えば、僕たち世代、あるいはちょっと上の世代の「古い」音楽ファンの多くは、80年代半ば以降の音楽シーンについて、少なからず違和感と言うか、居心地の悪さを感じていた。ポップミュージックの総合エンターテインメント化、そしてサウンドのデジタル化が、あまりにも急速に進んだからだ。 そんな中で始まった『アンプラグド』は、生身の人間による、文字通りアンプラグドでアコースティックなライブを売りにしていたが、僕はこれが、時代の流れに対するある種の反動ではないかと思っていた。そして、この番組の出現が、純粋に「良い音楽を聴きたい」「良い演奏を観たい」僕たちを、再びポップミュージックの世界に引き戻してくれたような、そんな気がしたのだった。 だが、この番組の貢献は、僕たちリスナーに対してだけでなく、ミュージシャン側にも当てはまる。80年代に静かにフェードアウトしつつあった大御所たちに、再びスポットライトを当てることになったからだ。 91年にポール・マッカートニーが出演すると、以降、大物ミュージシャンが次々に番組に出るようになった。翌92年には、エリック・クラプトンの出演回がCD化され、直ちに大ヒット。番組の知名度向上に寄与しただけでなく、彼自身もこの年のグラミー賞で6冠を獲得し、キャリアのピークを迎えることになった。 93年はロッド・スチュワートが盟友ロン・ウッドと共演したのが話題になったし、95年には KISS がこの番組への出演をきっかけにオリジナルメンバーで再始動することになった。この他にも、94年にはジミー・ペイジ&ロバート・プラント(元レッド・ツェッペリン)やイーグルスが素晴らしいパフォーマンスを披露してくれている。 こうして『アンプラグド』は数々のベテランに復活の機会を提供したが、もちろん番組の価値はそれだけではない。 番組史上唯一2回の出演を果たした R.E.M. は、この機会に見事な変貌ぶりを見せたと言われているし、92年にはマライア・キャリーが、その圧倒的な歌唱力が「生声」であることを証明してみせた。93年のニルヴァーナの出演回は、番組史上最高のパフォーマンスだったという評価もある。 このように、古今東西、老若男女を問わず、様々なミュージシャンの素の実力や新たな一面を見せてくれたことこそが、この番組最大の価値だったんだと今更ながら思う。 と言うことで、最後は R.E.M. の1回目の出演時の動画をご覧頂き、この番組の初期の雰囲気を感じてもらえたら幸いである。Song Data ■ R.E.M. / Fall On Me ■ 作詞・作曲:Bill Berry, Peter Buck, Mike Mills, Michael Stipe ■ プロデュース:Don Gehman ■ 発売:1986年8月
2018.05.11
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YouTube / remhq
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