このコラムで何度も書いているように、僕が音楽的な意味で物心がついたのは1970年代。だからだろうか、Re:minderの “80年代音楽” というコンセプトと自分の感覚がズレていると感じることも少なくない。
それはおそらく、僕が70年代に「スゲェ!」と感じたアーティストの多くが、80年代に入って死亡・解散したか、低迷・衰退したか、そのどちらかになってしまったからだ。
残念ながら、スティーヴィー・ワンダーも例外ではない。ただ、こう書くと意外に思う人がいるかもしれない。
確かに、彼は80年代に入ってからも「エボニー・アンド・アイボリー」や「愛のハーモニー」といった企画物だけでなく、ソロとしても「心の愛」と「パートタイム・ラヴァー」の2曲のNo.1ヒットを生み出しているし、常に露出され続けていた印象はある。
だが、70年代に生み出された「まさに “天才” としか言いようのない」素晴らしい作品の数々と比較すると、どうしても80年代作品の凡庸さを否定はできない。
例えば、アルバム『キー・オブ・ライフ』は、76年から77年にかけてビルボードで計14週も首位を独走し、グラミーの年間最優秀アルバム(Album Of The Year)を獲得した(何と3作連続!)。
No.1シングルとなった「回想」や「愛するデューク」だけでなく、「アナザー・スター」や「可愛いアイシャ」等、名曲揃いだったが、これに匹敵する作品を彼はその後生み出せていないのではないかと思う。しかし、つい最近、スティーヴィーの魅力がそういう所だけではなかったことに、今さらながら気づかされた。
それは、彼の出演した「カープール・カラオケ」を観ればわかる。コーナーが始まると、何と言うことか、彼が運転席に座っているではないか。彼が目が不自由なのは周知の事実だが、それを逆手に取った彼のジョークだ。
そして、番組ホストであるジェームズ・コーデンの夫人に電話をかけたかと思えば、このように歌い出した。
I just called to say James loves you.
I just called to say how much he cares.
それを聴いて感涙しそうになっているジェームズの横で、スティーヴィーはこう続けた。
and he promised me he'll let me be on his show for an hour.(ついでにジェームズは彼の番組に1時間出演させてくれるって約束してくれたよ)
彼が新譜で僕たちを感動させるようなことはなくなったけれど、代わりに過去作品とジョークで今でも僕たちを喜ばせてくれる。こういうのが真のエンターテイナーと言うんだろな、きっと。
I Just Called To Say I Love You / Stevie Wonder
作詞・作曲:Stevie Wonder
プロデュース:Stevie Wonder
発売:1984年8月1日
2017.03.23
YouTube / The Late Late Show with James Corden
YouTube / The Late Late Show with James Corden
YouTube / StevieWonderVEVO
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