今からちょうど40年前の夏ーー 1985年7月13日、全世界を巻き込んだ巨大なロックイベントが行われた。そう、アフリカ難民救済を目的としたチャリティコンサート『ライヴ・エイド』である。
ロンドンのウェンブリー・スタジアムで幕を開け、フィラデルフィアのJFKスタジアムでフィナーレを飾ったこの地球規模のコンサートは、イギリスとアメリカから世界84か国に生中継され、日本ではフジテレビが『THE 地球CONCERT LIVE AID』と題して15時間にわたって放送した。
当時のティーンエイジャーは、枚挙に暇がないビッグアーティストの出演に胸をときめかせ、はやる心を躍らせながら、本格的な映像の時代が到来したことを意識せずとも体感する。そう、思い返せば、この1985年の春から夏にかけて、多くの日本人はテレビを通じてセンセーショナルな映像を目撃し続けている。
4月17日、甲子園球場での〈ランディ・バース → 掛布雅之 → 岡田彰布〉のバックスクリーン3連発ホームランに始まり、6月18日には血まみれの殺人現場が中継された豊田商事会長刺殺事件。翌週の24日に行われた松田聖子の結婚式はもちろん生中継。おニャン子クラブの大ブレイクを7月に挟みつつ、8月12日の朝にはグリコ・森永事件の犯行グループからの「終結宣言」。そして、奇しくもその日の夜に起きた日本航空123便の墜落事故…。
その後も、8月15日には中曽根康弘が首相として戦後初の靖国神社公式参拝。夏の甲子園でKKコンビ(桑田真澄・清原和博)のPL学園が優勝したのが8月20日。ちょっと涼しくなってきた9月11日にロス疑惑の三浦和義が逮捕されてマスメディアは乱痴気騒ぎーー いやあ、もう、濃すぎる。ちょっと振り返るだけでもこの濃度である。そんな1985年夏の『ライヴ・エイド』。
音楽ファンにとっては、それこそセンセーショナルでワクワクするライブ映像が満載だった。中でも、多くの若者にとって深く印象に残ったのはザ・カーズの映像ではないだろうか。といっても、それは彼らのライブ・パフォーマンスではない。
その映像こそ、カーズが前年の1984年にリリースしたラブソング「ドライブ」をBGMに使った『エチオピアの飢餓』(Ethiopian Famine Film)と呼ばれる、CBCテレビ制作のドキュメンタリー・フィルムだ。
大勢の飢えた人々、立つことすらままならない痩せ細った子供たち、蝿を追い払うことすらできない衰弱した幼児、うつろな目で遠くを見つめる母親…。
もちろん、イベントの趣旨からしても極めて秀逸な映像であることは間違いない。何より、こんな映像はテレビで見たことがなかった。衝撃的だった。深夜のブラウン管に食らいついて心を痛ませると同時に、若者たちは自分ごとのように深く考えさせられた。
しかしながら、ロックバンドの美しいラブバラードにここまで別の意味を持たせてしまう “映像” に、恐ろしさを感じたティーンエイジャーも多かったのではないか。しかも、全世界中継でこの映像を紹介したのはデヴィッド・ボウイだったのだ。その “意味” は与り知らぬところでどんどん膨らんでいく。
Who's gonna hold you down
When you shake?
Who's gonna come around
When you break?
誰が抱きしめてくれる?
きみが震えているときに
誰がそばにいてくれる?
きみが折れそうなときに
CBCのドキュメンタリー・フィルムを先に観てしまうと、カーズのオリジナル・ミュージックビデオをフラットに観ることは難しいかもしれない。1985年、誰もが簡単に映像をつくれる時代がすぐそこまで来ていた。
そして2025年、忘れないでほしい。“エチオピアの飢餓” が今どうなっているのかを調べてみることが、当時のティーンエイジャーだったあなたの必須科目である。Think Global, Act Local.
Updated article:2025/07/14、2019/07/13
Previous article:2016/07/13
2025.07.14
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