地方から東京に出てきて、刺激だらけの日常のなかで夢を膨らませ、田舎にいたころより100倍ほどもハイなテンションで「現実」を突き抜けようと思っても、なんというか、軸足が定まらず気持ちだけ空回りして前に進まない。そんな70年代の終わりに友だちから薦められて聴いた『Illumination』というアルバムをきっかけに、浜田省吾にハマった。
「グッドナイト・トーキョー」とか「散歩道」とか、大好きだった。描かれた世界観にも惹かれたが -こんな表現がふさわしいかどうかはわからないけれども- 誠実で男らしく、頼りがいがあって、どことなくアウトサイダーなざらつきも感じさせる歌声が何より気に入った。広島出身。そんなプロフィールにも共鳴したのかもしれない。地方から東京に出てきた、ぼくと同じ田舎モン(失礼)。
そして、ディスコだとかカフェバーだとかリゾートだとか、時代がチャラチャラし始めた80年代の世相にどこか抗うようにぼくは、しっかり地面に足を踏ん張って生真面目に歌を放つ浜田省吾を好んで聴くようになった。
とりわけ、1980年に発売された『HOME BOUND』は衝撃的だった。レコードに針を落とし、6畳のアパートの部屋でひとりで聴いた。まだ、そんなふうに音楽を聴く時代だったのだ。なんとなく流して聴いてしまうんじゃなく、言葉のひとつひとつ、音の一粒一粒をしっかりと心に刻みつけるように音楽を聴く時代だった(と思う。ぼくだけなのか?)。
1曲目の「終りなき疾走」を聴き終わったとき、自分の見ている風景のピントがキュッとクリアになった気がした。清々しい高揚感が体にみなぎった。
当時のぼく、21歳。苦悩や葛藤を振り切って走りだしたかのような浜田省吾の歌を聴いて、田舎モンなりの自分の価値観で20代を走り抜けようと思ったのだった。
2016.07.16
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