バブル時代に公開されたバイオレンス映画「その男、凶暴につき」
1989年8月12日、北野武の初めての監督作品『その男、凶暴につき』が公開された。1989年といえばバブル景気に舞い上がってる時代であり、消費税(3%)が日本で初めて導入されるなどした時期ですね。ちなみに、『オレたちひょうきん族』は同年10月に終了していますが…。
そんな日本の景気が良い時期に公開されたこのバイオレンス映画。暗い内容なうえ救いようがないくらい、とにかく暴力シーンが続く。なんというのか… こう、海外映画のようにドンパチ主流ではなく、生身の暴力の嵐… と表現したら良いのか…。金属バットで頭を殴る、顔が赤くなるまで連続ビンタ、知的障害の妹が暴行される等々、生々しい描写が際立つ。
後に撮る『アウトレイジ』での暴力もシーンも強力だが、そこで描かれる暴力と『その男、凶暴につき』のそれは、全く意味が違う。そう、素での北野武の暴力感が描かれているように思えてならない。
芸人と呼ばれる人はどこかぶっ飛んでいる(もちろん褒め言葉です!)人が多いが、その先頭を走る人は本当におっかない。どの暴力シーンを観ても「痛ぇな、これ…」と想像がつく演出は本当に生々しく思えた…。
それにしても、全体的に好景気感あふれる時代に、こういうバイオレンス映画が公開されたのは実に興味深い。天才・北野武は好景気に浮かれバカ騒ぎしてる日本を鋭く観察してたようにも思える。
おぞましさが倍増する音楽、エリック・サティ「グノシエンヌ」
さて、この映画の音楽で印象深いのはエリック・サティの「グノシエンヌ」という曲。
このバイオレンス映画に流れる抒情的な音楽。ホッとするシーンなんかほぼない。歩いてるだけのシーンなのにこの曲が流れてるだけでおぞましさが倍増する。
サティといえば、「ジムノペティ」などで知られるアーティストだ。「グノシエンヌ」をこの映画のメインテーマに選んだ北野武は、そんなサティの音楽のどこにインスピレーションを感じたのであろうか?
このエリック・サティは歴史に残る作曲家だが、調べてみるとその半生もなかなか凄いものがある。有名な話だと、恋人に300通のラブレターを送ったりしたとか、決闘して警察に逮捕されたり、自宅に教会を作ったり… と、天才なのにぶっ飛んだ性格が見え隠れする。
観直してわかるその凄さ “世界のキタノ” の原点
いつの時代でもバイオレンス映画は一般的にはウケにくいとされる。だが当時、ビートたけしは押しも押されもせぬ人気者。しかも北野武名義での初監督。実際、映画は大ヒット。もちろん、この作品『その男、凶暴につき』は今も人気が高い。
その後、北野武監督作品は世界へ進出し、“キタノブルー” という呼称に代表されるような特長的な映像作品を数多く創り高い評価を得ている。観直してみれば、その凄さがわかってもらえるはずだ。
新型コロナウイルスの騒動で、引き続き外出自粛を余儀なくされる中、気分転換にこの映画を改めて観てはいかがだろうか? “世界のキタノ” の原点に触れることで視野が広がるかもしれない。
2020.05.14