石田衣良原作、長瀬智也主演「池袋ウエストゲートパーク」
「悪いことすんなって言ってんじゃないの。ダサいことすんなって言ってんの。わかる?」
―― これは、伝説のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』の “キング” こと、窪塚洋介サン演ずる、池袋のカラーギャング集団、G-Boysを率いるタカシの言葉である。
そう、池袋ウエストゲートパーク―― 略して “IWGP” 。何のことはない。池袋西口公園のコト。まぁ、そのアルファベット4文字は、長らく新日本プロレスが創設した王座「インターナショナル・レスリング・グランプリ」の略称だったが―― 同ドラマの放映以降、7:3(しちさん)で、かの伝説のドラマを指す人が増えた感がある。
ドラマが放映されたのは、世紀末も押し迫った2000年の4月クールである。枠はTBSの金曜9時。その枠―― 1980年代は『男女7人』シリーズ、1990年代前半は『パパとなっちゃん』や『ダブルキッチン』など、かつてはライトコメディが多く作られたが、1990年代後半になると、KinKi Kids(現:DOMOTO)の『若葉のころ』や草彅剛の『先生知らないの?』など、ジャニーズ主演ドラマが台頭。長瀬智也主演の本作も、その流れの中にあった。
主題歌は、黒夢の清春が同バンドの活動停止中に結成した「SADS」の 4枚目のシングル「忘却の空」。ダークな歌詞と疾走感のある旋律が、これから始まるドラマの世界観とシンクロして、サビでシャウトする清春の声が、劇中の若者たちの心の叫びに聴こえた。
だからVELVETの空の下
歌う声は聞こえてる
デタラメのDOWNERかわしてる
僕の声が聞こえてる
から回るVELVETの空で
きっと声は聞こえてる
鮮やかで悲しいこの空で
僕の声が聞こえているから
ドラマの原作は、作家・石田衣良のデビュー作にして、『オール讀物』推理小説新人賞を受賞した同名短編小説である。同作を含む連作短編集が1998年に文藝春秋社から刊行され、現在に至るまで21巻を数えるロングシリーズになっている。ヒリヒリした池袋にたむろする若者たちの生態がリアルに、そしてエキサイティングに綴られ、今も根強いファンが多い。ドラマは初期のいくつかの短編をベースに、オリジナルのエピソードを加味し、一部のキャラクターを改変して、何よりコメディに大振りした。その大胆なアレンジ(脚色)に、原作者曰く “メディアが違うからトーンは違うが、大切な部分は共通している” ――おっと、心の広い人でよかった(笑)。
宮藤官九郎、本格的連ドラデビュー作
もっとも、僕の持論としては、原作モノをドラマや映画にする際、まんま映像化しても意味がないと思ってる。そもそも小説や漫画は、原作者が “このストーリーは小説や漫画でアウトプットするのが最も面白い” と思ってカタチにした 完全版(最終形)なので、それは超えられないはず。だから映像化するなら、映像作品として付加価値を施し、新たに面白くしないと意味がない。
その点―― 彼の脚色は見事だった。連ドラとして、より間口の広いお客に見てもらうべく、記号としてのロケーション(池袋)や時代観(世紀末)のエッジを立てつつ、登場人物のキャラクターや細かなエピソードはコメディに全振り。各話に伏線を張り、原作の持つ骨太な世界観を連ドラの縦軸に据え、ある種のミステリーとして、全11話を見事にパッケージング化した。
彼――そう、クドカンこと宮藤官九郎である。クドカン自身、本作が本格的連ドラデビュー作。深夜ドラマ時代から付き合いのある磯山晶プロデューサーから “試しに1話だけ書いてみない?” と声をかけられ、そのリアリティある会話劇が評価され、即、全話執筆に抜擢されたという。実際、“話しながら書いた” と本人が語る通り、2000年当時の若者口語をそのままぶち込み、テンポ感あるセリフの応酬に、時おりシュール系のギャグが挿入される文体は新鮮だった。
音楽と同期したダイナミックなシーンを創出した堤幸彦監督
そして―― そんなオモロい脚本を、爆発的な感性で視覚化したのが、演出チーフの堤幸彦監督だ。疾走感のあるカメラワーク、夜の池袋をネオンと影で切り取るスタイリッシュさ、ほぼオールロケのリアルな街の匂い――いわゆる “タメグチの映像” と呼ばれる、1カメの人間視点を多用するコトで、役者たちの自然な息遣いを生かし、音楽と同期したダイナミックなシーンを創出した。
そう、クドカンの遊び心と堤監督の映像美学――2人の天才が奇跡のタイミングで人生が交差して、仕事を共にした結果、ソコに化学反応が起きて、一介の街の群像劇が “時代を象徴するポップカルチャー” へと昇華したのである。2人の掛け算が、IWGPを伝説にしたのだ。
後に日本の連ドラに欠かせないトップ俳優へと成長する若き俳優陣
更に奇跡は続く。今見ると、同ドラマに起用されたハタチ前後の若き俳優陣の未来のオールスターキャストっぷりよ! 参考までに、初回時点の各々の年齢も併記するが―― 既にスターだった主演の長瀬智也(21歳)とヒロインの加藤あい(17歳)を除けば―― “まだ何者でもない” 彼らが、本作をキッカケに光が当たり、後に日本の連ドラに欠かせないトップ俳優へと成長するのが感慨深い。先の2人に続いて―― 窪塚洋介(20歳)、山下智久(15歳)、佐藤隆太(20歳)、妻夫木聡(19歳)、坂口憲二(24歳)、高橋一生(19歳)、小雪(23歳)、そして少々年齢は行っているが、阿部サダヲ(29歳)――。
ドラマの基本フォーマットは、池袋西口公園や周辺のストリートで繰り広げられる、無軌道な若者たちの群像劇である。ナンパ、カツアゲ、タイマン、援助交際、オヤジ狩り、カラオケ、ゲーセン―― そんな代わり映えしない日常が繰り返されるある日、彼らの仲間の女子高生リカ(酒井若菜)が “ストラングラー”(絞殺魔)に殺された事件をキッカケに、彼らの日常のタガが外れ、あらぬ方向へと池袋が動き出す――。
長瀬智也の野性味あふれるカッコよさ
長瀬智也サン演ずる主人公マコトは、池袋西口公園近くの果物屋「真島フルーツ」の一人息子だ。工業高校出身で、母親(森下愛子)の店を手伝いながらも、トラブルシューターとして街の揉め事を解決する。性格は熱く、ケンカも強いが、群れを嫌って、G-Boysには入らない。口癖は “あーめんどくせえ!” 。それなのに、頼まれると断れない義理堅い一面も。女にモテるが、あるトラウマから大事なトコロでいつもやらかしてしまう。この真っ直ぐな男を演じる長瀬サンの無造作なストリートファッションと、だるそうにしながらも眼光鋭い、野性味あふれるカッコよさよ!
一方、もう一人の主人公と言うべき存在が、そんなマコトと幼馴染みの親友で、池袋イチのカラーギャング集団、G-Boysを率いる―― 冒頭でも記した―― 窪塚洋介サン演ずる “キング” ことタカシである。あの独特な喋り方で、仲間を率いるカリスマ性たるや。ケンカの腕は池袋最強だが、普段は声を荒げず、微笑みを絶やさない。しかし、その性格は惨忍で、サディスティックな嗜好は周囲を恐怖に陥れる。その一方、マコトには全幅の信頼を寄せ、彼の頼みなら快く引き受ける気のいい一面も。そんな “キング” を演じた窪塚サンのトリッキーな演技のハマり度が、同ドラマ最大の見どころの1つであり、もはやIWGPのアイコンとも―― 。
そして、マコトを囲む愛すべき仲間たち―― ヒカル(加藤あい)はマコトが大好きだけど、純粋すぎるゆえに傷つきやすい。かと思えば、謎の二面性を持ち、これが終盤にかけての大きな伏線になる。シュン(山下智久)は絵心のある専門学校生で、内気で口数が少ない。ちなみにマコトらに見つかった万引きした本はエヴァの貞本義行の画集だった。マサ(佐藤隆太)は四流大学の学生でマコトの相棒だが、からきしモテない。やっと出来た彼女も女子高生で、ガングロギャルたちから恐喝される。サル(妻夫木聡)は暴力団 “羽沢組系氷高組” の構成員。マコトの中学の同級生だが、当時はいじめられっ子だった――等々。皆、愛すべき連中だが、どこか屈折してる。
ゾクゾクするほど面白かった、世紀末の時代の池袋という街
さて、最終回――「ブクロの一番長い日」と題して、池袋のカラーギャングの覇権をかけて、G-BoysとBlack Angelsが対峙する。かつての仲間同士が二手に分かれ、無為な争いをする構図に、マコトは耐えられない。彼は抗争現場に乗り込み、にらみ合う両者の間に立ち、“キング”に1つの提案をする―― おっと、この先はネタバレになるのでやめておきましょう。サブスク時代の今、旧作だからと言ってネタバレは無粋というもの。
1つだけ確かなコトがある。あの世紀末の時代―― 池袋という街が、東京で最も猥雑で、エキサイティングで、ゾクゾクするほど面白かったのは確かだ。僕は、ドラマは時代の鏡たるべきで、その時々の街のトレンドを物語に組み込み、フィクションの形でお茶の間に届けるべきだと思う。近年、やれコンプラやポリコレとか言って、テレビはそれを怠ってないだろうか。 “若者のテレビ離れ” と言われて久しいが、本当は “テレビの若者離れ” じゃないだろうか――。
かつて、1974年に放映されたドラマ『傷だらけの天使』は、代々木の雑居ビル(エンジェルビル)の屋上のペントハウスに住む主人公・木暮修(萩原健一)と相棒・乾亨(水谷豊)の破天荒な生き様を通して―― 新宿の街並みをリアルに映した。間違いなく、あのころの新宿は猥雑で、エキサイティングで、ゾクゾクするほど面白かった。個人的には、『池袋ウエストゲートパーク』は、平成の『傷天』だと思う。両者に共通するのは、この街で生きるという、ある種の “土着愛”。最後に、最終回でマコトが天を見上げて叫んだこの言葉で、コラムを〆たいと思う。
――「ブクロ、サイコー!」
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2026.05.16