連ドラの1話で“ヒロインが死ぬ” というネタバレ
「ねえ、柊二。この世は綺麗だったよ。高さ100センチから見る世界は綺麗だったよ。あなたと会って、ラスト何か月かで、私の人生は星屑をまいたように輝いたんだ」
―― これは、2000年1月16日、TBSの日曜劇場で始まった連続ドラマ『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』(以下:Beautiful Life)の1話のラストで、常盤貴子演ずるヒロイン・杏子が語ったモノローグである。これから始まる1クール(3ヶ月)の連ドラの1話で、それもラブストーリーで―― “ヒロインが死ぬ” というネタバレをしたのは前代未聞。ちなみに、同話の視聴率は31.8%だった。
『Beautiful Life』の脚本はラブストーリーの名手、北川悦吏子サンである。オンエアの時点で、ドラマ『あすなろ白書』(1993年 / フジテレビ系)、『愛していると言ってくれ』(1995年 / TBS系)、『ロングバケーション』(1996年 / フジ系)等々、ラブストーリーの大ヒット作をいくつも手掛けており、満を持してのTBSの看板枠、日曜劇場への初登板だった。
ちなみに、B'zが歌う主題歌「今夜月の見える丘に」(作詞:稲葉浩志 / 作曲:松本孝弘)も、熱烈なB'zファンである北川悦吏子サンのリクエストだったとか。ただ、最初に上がってきた曲は、暗くて重すぎると北川先生のイメージに合わなかったらしく、その思いをお二人に手紙をしたためたところ、改めて上がってきたのが同曲だった。劇中の2人をイメージさせる歌詞で、アグレッシブな曲調も北川先生のポジティブな思いと合致。同曲はリリースされるや、ドラマ効果もあり、最終的にミリオンセラーとなった。
手をつないだら 行ってみよう
燃えるような月の輝く丘に
迎えにゆくから そこにいてよ
かけらでもいい
君の気持ち知るまで 今夜僕は寝ないよ
満を持してのキムタクの相手役に起用された常盤貴子
共に北川ドラマの常連だった木村拓哉と常盤貴子がW主演。キムタクは本作が独身時代最後(同年12月に結婚)の作品であり、当時、雑誌『an・an』(アンアン)の抱かれたい男ランキングでも1994年から7年連続1位の最中。最もイケメンに磨きがかかっていたころである。一方の常盤貴子サンは『愛していると言ってくれ』(1995年 / TBS系)で一躍ブレイク。その後『真昼の月』(1996年 / TBS系)など、順調にキャリアを重ね、満を持してのキムタクの相手役への起用だった。
物語は、今をときめく青山の人気美容室で働くスタイリスト・沖島柊二(木村拓哉)と、難病で17歳から車椅子生活を余儀なくされている図書館司書の町田杏子(常盤貴子)とのラブストーリー。同ドラマ以降、キムタクは主演ドラマで様々な職業を演じるが、ソレはかつて日本映画のプログラムピクチャー(毎週のように新作映画が封切られていた)時代に、かの石原裕次郎が主演映画で建築家やパイロット、ラジオDJなど、その時々の最先端の職業を演じたのを彷彿とさせた。
ちなみに、同ドラマの前年、フジテレビでカリスマ美容師対決を扱ったテレビ番組『シザーズリーグ』が放送されたが、かくいう僕は小山薫堂サンに誘われ、同番組に構成作家として参加していた身。毎回、間近で同番組の収録を見て、ナレーションを書いていたので(おかげで女性の髪形に詳しくなった)、カリスマ美容師を巡るあの時代の空気感を肌で覚えている。間違いなく若い人たちの憧れの職業であり、その意味ではキムタクドラマの中でも、屈指に時代の空気感を反映した作品と言えよう。
1話の冒頭、柊二は相棒―― ヤマハTW200にまたがり、青山通りを疾走する。一方、杏子も反対車線から赤のオペル ヴィータを軽快に走らせ、外苑のいちょう並木の通りに入る。少し遅れて柊二も同じ通りに―― その時だった。信号待ちで、杏子が外の天気を確かめようと腕を出した瞬間、後方から来た柊二がぶつかりそうになる。
柊二「おばさん!」
杏子「……おばさんって誰よ」
―― 最悪の出会いをした2人。まぁ、少女漫画の冒頭によくあるパターンだ。その後、再会した2人が衝突を繰り返しつつ、次第に距離を詰めるというアレ。
案の定、同ドラマも2人の行き先は偶然、同じ図書館だった。駐車場で再会する2人。その時、クルマから降りる杏子が車椅子に乗り換える姿を見て、柊二の視線が止まる。慣れた様子で車椅子に収まり、柊二に笑顔で “セカンド・マイカー” と言って、走り去る杏子。その後ろ姿を目で追いつつ、柊二の表情に特に変化はなく、バイクから降りると、杏子と並んで普段通りに歩き出した。
そう、この一連のシークエンスに2人の性格が表れている。杏子はハンディキャップという殻にとじこもることなく、自然体の明るさが伝わってくる。一方の柊二は、杏子が車椅子と知っても、そこで態度を変えることなく、裏表なく1人の女性として接しようとする。そんな次第で、ここから2人は度々衝突しつつも――案の定、惹かれ合う。そうそう、時々この2人に間に入り、さりげなく両者をアシストするのが、水野美紀サン演じる、杏子の同僚のサチ。彼女のキャラがまたよかった。
吹き替えではなくカットシーンに挑んだ木村拓哉
そんなある日、柊二は雑誌に載せるカットモデル探しに行き詰まり、杏子(この時点ではモジャモジャパーマ)をモデルに起用するコトを思いつく。最初は嫌がった杏子も、柊二の “オレがアンタのバリアフリーになるよ” という直球の誘いに快諾。そして当日―― 美容室『HOT LIP』にやってきた杏子は、柊二の華麗なるハサミ裁きでみるみるスタイリッシュなヘアに生まれ変わる――。
この時、カットしているのは吹き替えではなく、キムタク自身なんですね。カリスマ美容師の川畑タケルさんが同ドラマの監修に入り、キムタクを指導したそうだけど―― そこは何でも器用にこなせるキムタク。素人目にも様になっている。ちなみに、髪の毛の束を手に取り、毛先に縦方向にハサミを入れる手法を“スライシングカット”と言います。毛先に遊びが入り、エアリーに仕上がるそうで(ホンマかいな!)。
閑話休題。しばし時間が経ち、うつむいている杏子の耳元で柊二がささやく。“できたよ” ――顔を上げる彼女。鏡に写った自分の姿に一瞬驚き、そして笑顔に変わる。
柊二「どう?」
杏子「思ったこと、言っていい?」
柊二「何、こえーなぁ(笑)」
杏子「……キレイ」
近くの代々木公園に出向いての雑誌撮影も無事に終わり、2人は公園にかかる歩道橋の上にたたずむ。夕陽に照らされ、空がオレンジ色に染まっている。感動する杏子。
杏子「ここ、景色いいね」
―― その時、柊二が屈んで、顔を杏子の横に持ってくる。
杏子「ん?」
柊二「いや、どんな風に見えてるのかなーって」
杏子「あ~」
―― ここで、同ドラマのキーとなるワードが飛び出す。
柊二「車椅子だとさ、いつも目の高さ100センチくらいでしょ。そうすると見えてくる世界、違うんだろうな」
杏子「ヘンな人」
―― 笑い合う2人。
このあと柊二は、モデルのお礼に杏子を食事に誘う。この時、表参道のゆるい下り坂を2人が車椅子のタンデムで、笑顔で颯爽と駆け下りるシーンがあるんだけど、コレがカッコいいこと! まるでフランス映画の1シーンのようでもある。同ドラマは青山や原宿が頻繁に登場するけど、東京の最先端の街を舞台に描かれるラブストーリーのキラキラ感よ。
ところが一転、2人は行く先々の店で断られる。どの店も車椅子で入れる仕様になっていないからだ。今ならもう少し融通が利きそうだけど、2000年当時はそこまでバリアフリーの意識が高くなかったんですね。バリアフリーというワードが同ドラマで普及したと言われる所以である。
結局、2人は道端の屋台のラーメン屋に落ち着く。だけど、下手なイタリアンやフレンチより、こっちのほうが絵になるのが面白い。考えたら、キムタクが主演のドラマって、よく大衆食堂でヒロインと食事するシーンが出てくるけど、逆に、店のリアリティもあってカッコよく見えるんですね。その法則は同ドラマでも生きていたと。
北川悦吏子が名優・木村拓哉に求める芝居とは
とはいえ―― 幸せな時間もここまで。後日、発売された雑誌を見て、杏子は静かに傷つく。そこには、思わぬサイズで大きく掲載された車椅子姿の笑顔の杏子と「車椅子の私も、カリスマ美容師に」のコピー。そして「私だってきれいになれる。ハンディキャップも美しくなれる」とリード文が続く。ソレは彼女が最も嫌う扱いだった。同じころ、柊二も雑誌を開いて表情が曇る。彼も気持ちは同じだった。すぐに謝ろうと図書館に向かうも、杏子はいない。そこにサチが声をかける。
サチ「ねぇ、杏子のこと、利用したの?」
―― 杏子の自宅に電話が入る。柊二からだった。番号はサチから聞いたという。
柊二「ごめんオレ、ああいう風に扱われると思ってなかったからさ…」
杏子「そうかな」
柊二「……どういう意味?」
杏子「どっかで思ってたんじゃない。きっと私だったら(大きく)雑誌に載るだろうって。普通じゃない、車椅子だ。インパクトあると思ったんじゃない」
―― 普通のドラマなら、普通の役者なら―― ここで、反論するだろう。“いや、そうじゃない” って。でも、北川悦吏子サンが求める芝居はそのレベルじゃない。ここで、名優・木村拓哉が生きてくる。
杏子「ねぇ、なんとか言ってよ」
柊二「……そうかもしれない」
杏子「……」
柊二「街に、モデル探しに出てもピンと来なくて……。その時、アンタのこと思いついて…あぁ、これだって思って。確かに、車椅子関係ないかって言われると自信ないし、インパクトがあると思ったし……」
なんと、柊二は否定しなかった。非情にも電話は切られるが、正直に本心を告げてくれた柊二に、杏子の心も微妙に揺れる。
電話が切られる前、柊二は会って直接話したいと、先日のラーメン屋を告げていた。杏子が来るあてはなかったが、屋台の前で待ち続ける柊二。そのうち空模様が怪しくなり、とうとう雨が降り出す。一方、ベッドに入るも、なかなか寝付けない杏子。ふと、窓の外の雨音に気付く。
外―― 雨の中にたたずむ柊二。ずぶ濡れだ。屋台のおじさんからもらった傘を手に持つが、開いてない。その時―― 目線の先に赤いクルマと、今しがた降りたばかりの車椅子の女性が映る。杏子だ。車椅子で傘が差せないので、雨に濡れている。慌てて駆け寄る柊二。傘を開くが、サイズが小さすぎて意味をなさない。それでも2人は笑顔である。この時、バックに流れる杏子のモノローグが―― 本コラムの冒頭で紹介した台詞である。
「ねえ、柊二。この世は綺麗だったよ。高さ100センチから見る世界は綺麗だったよ。あなたと会って、ラスト何か月かで、私の人生は星屑をまいたように輝いたんだ」
オマージュ元は「ある愛の詩」最終回の視聴率は41.3%!
余談だが、北川悦吏子サンは無類の映画好きで、自身の作品の多くはオマージュ元の映画があるとされる。連ドラデビュー作の『素顔のままで』(1992年 / フジテレビ系)は、生まれも育ちも対照的な2人の女性の友情を描いた映画『フォーエバー・フレンズ』がそうだと思われるし、『愛していると言ってくれ』(1995年 / TBS系)も男女の立ち位置こそ逆だが、映画『愛は静けさの中に』がオマージュ元だろう。そして『ロングバケーション』(1996年 / フジテレビ系)も、元カレに振られ、ひょんなことからその友人と同居生活を始めるプロットは、ニール・サイモン脚本のハリウッド映画『グッバイガール』にインスパイアされたものだろう。
もちろん、それらはパクリとは違う。俗にエンタメにおけるクリエイティブとは、0から1を生み出すものではなく、1を2や3にアップデートすることを意味する。つまり―― 過去の名作をどれだけ知っているかと同義語。優れた旧作を掘り起こし、現代風にアップデートする作業は、エンタメの世界では立派なクリエイティブである。但し、オマージュ元をさりげなく明かすのが正しい作法とも。その意味では、先の3作品とも、北川先生は敢えてソレとわかるシーンを入れている。
そして―― この『Beautiful Life』も同様に、オマージュ元と推察される映画がある。あまりに有名な作品だが、1970年の映画『ある愛の詩』(監督:アーサー・ヒラー)がそう。アリ・マッグローとライアン・オニールのピュアな演技が光る傑作で、かの有名なフランシス・レイのテーマ曲を知らぬ者はいないだろう。
物語は、裕福な家庭で生まれ育ったハーバード大学の学生オリバーが、庶民の美しい娘ジェニーと知り合い、やがて2人は恋に落ちる。しかし、オリバーの父親は、身分違いの恋を許さず、2人の仲を認めない。やがてオリバーとジェニーは2人だけで結婚式を挙げる。だが、間もなくジェニーが白血病にかかっていることが判明する。そして――
実は同映画でジェニーの死は、映画の冒頭、2人の思い出の地であるニューヨークのセントラルパーク・スケート場の観客席に、1人たたずむオリバーのモノローグで早々に明かされる。“25歳で死んだ女のことをどう言おう。美しく聡明、モーツァルトとバッハを愛し、ビートルズと私を愛した女――” そう、観客は、やがて来る2人の結末を知りながら、同映画を見始める。だから、バッドエンドとは違う。その証拠に、ジェニーの死後、オリバーは遅れてかけつけた父親にこう告げる。“愛とは決して後悔しないこと――” 。
ドラマ『Beautiful Life』も、僕らは1話目から結末を知らされていた。だから最終回に驚きはない。ただ、ソコで語られる柊二のモノローグに癒されただけである。“もし、死後の世界があるとすれば、それは誰かの心の中かもしれない。君は、僕の心の中で永遠に失われないから。ねぇ、杏子。僕は、君をちゃんと愛せていたの?” ―― 同ドラマの1話のネタバレが最終回の結末に影響しなかったことは、同回の視聴率41.3%(!)が証明する。
ちなみに、同ドラマのオマージュ元とされる映画『ある愛の詩』で、オリバーとジェニーが初めて出逢ったのは、ジェニーが通うラドクリフ大学の図書館でオリバーが本を借りようとして、同館でアルバイトをしていた彼女と対面した時だった。そう、図書館――。
北川先生は、ちゃんとオマージュ元を明かしていたのである。
▶ テレビに関連するコラム一覧はこちら!
2026.02.08