記録的な暑さが続く今年(2018年)の夏、各地で盆踊りシーズンまっ盛りだ。
賑やかな盆踊りの光景を見ると、極私的な出来事からふと思い出すバンドがいる。それは80年代に異彩を放ったジャパメタバンド、サブラベルズだ。
高3の夏休み、当時僕がいた大規模な団地で恒例の盆踊り大会が行われ、ひょんなことからバンドで出演することになった。
僕達が騒々しい「ヘビメタバンド」だとは知らずに、実行委員の団地のオバサン(アナーキーの曲名みたいだが)から声が掛かったのだ。持ち時間はわずか10分ほどでも、大勢の人々が来場する大規模なイベントだけに僕達は張りきっていた。気分だけは野外フェス出演だ。
選曲はメンバーで話し合い、比較的知られたラウドネスを2曲演奏することにした。キャッチーな曲なら老若男女に受けそうだし、ギター担当の僕としては目立つメリットもあった。何千部と事前に配られるプログラムには、民謡、ダンス、合唱等々、盆踊りらしいカオスな演目に混じり、僕達のこともご丁寧に演奏予定曲名まで印刷され、気持ちは高まるばかりだった。
だけど何か物足りなかった。メタラーが日和って一般受け狙いをするとかダメじゃねえの? という話になったのだ。
その頃、地元でライヴを観て以来、メンバーがハマっていたのがサブラベルズだった。そこで、一般受けとは真逆のサブラを敢えてブチかます、これぞ真のメタル魂だ! などと勝手に盛り上がってしまったのだ。
こうして僕達は事前の告知を無視し、1曲をサブラベルズにこっそり差し替えたのである。選んだのは「デビルズ・ロンド」。盆踊りの2カ月ほど前にリリースされたメジャーデビュー作『セイリング・オン・ザ・リヴェンジ』(86年)収録の速いヴァージョンだ。
だから今は 取りつかれたように
淫らに 悪魔と手を取り
輪を作って 踊るのさ
よりによって「悪魔の円運動」と副題がついたこんな歌詞の曲を、盆踊りの場で披露してしまったのだった。正直、PA すらまともにない状況で、今考えると音量もしょぼかったと思う。けれども、僕達が放ったサブラベルズを聴いて、盆踊りに集まった人々が浮かべたポカンと呆気にとられた表情が忘れられない。
そんな僕にとって、サブラベルズを初めて知ったのは83年。インディーズ時代のアルバム『サブラベルズ』発売時に、ロッキンFに掲載されたレコード店の小さな広告を見た時だった。おどろおどろしい悪魔が描かれた、ちょっとチープで怪しげなジャケットが脳裏に焼きついた。
インディーズという言葉がまだ新鮮で EP やカセットテープが中心だった時代に、いきなりフルレンス LP だったのにも驚かされた。このアルバムは1000枚限定盤として完売し、のちにプレミアがつくことになる。
ジャパメタムーブメントの隆盛とともに、目黒鹿鳴館でのオールナイトメタルパーティーなどを経て、彼らの名は関東メタルシーンのみならず全国に浸透していく――
悪魔主義的なイメージを表現した毒々しさと、「ルルドの泉」に代表されるドラマチックな要素を内包したサタニックメタル。それを表現するシアトリカルなステージング。まさに日本初といえる個性を放散していた。とりわけフロントマン、高橋喜一ことキイチの独特の歌唱や歌詞、悪魔の化身のような風貌、存在感は唯一無二だった。
当初はお世辞にも上手くなかった彼らも次第にレベルアップし、86年には代表作といえる EP「ドッグ・ファイト」を発売。さらなる盛り上がりの中で、インディーズ最後の大物の触れ込みで遂にメジャーに進出する。
その後はサウンドに整合性が強まり、毒気が少し弱まってしまったが、独特の世界観はブレなかった。メジャーではアルバム2枚他を残し、87年に解散している。世界を見渡してもそう見当たらない独自性を持ってすれば、ヨーロッパのメタルシーンでも成功したのではないかと思えるのだ。
シーンに強烈な印象を与え続けた80年代から30年以上の時を経て、この2018年・夏、サブラベルズがほぼオリジナルメンバーで再結集したというから驚いた。
悪魔は死なない、にしてもまさかの夏の珍事。僕にとっては遠い夏の日の想い出が再び甦るようで、嬉しく思えるのだ。
歌詞引用:
デビルズ・ロンド(悪魔の円運動)/ サブラベルズ
2018.08.16
YouTube / kiyotaka t
Spotify
Information