先日、あるギャラリーのアフターパーティーでヒップな黒人女性が僕の隣のヒョウ柄シートに座った。
屈託なく話しかけてくる美女。
圧倒的なオーラと存在感に包まれていたが、押し付けがましくなく洗練されているのだ。それもそのはずで彼女は人気グループのボーカリスト、ジャンルで言えばアシッドジャズの世界では第一人者だった。彼女はアメリカ人だったが活動しているのはロンドンだと言う。
ある女性ボーカルとイメージが重なる… 80年代から現在まで同じく第一線で活躍する黒人女性ボーカリスト、シャーデー・アデュ。
シャーデー、まだ中学生だった僕にとっては何万光年もかけ離れた世界に住むミステリアスな神話の世界の住人にさえ思えた。天性のアルトな歌声と美貌、人気グループの衣装をデザインする程のセンス。i-Dマガジンの表紙。そんな彼女のイメージを決定づける映画があった。
その映画の題名は『ビギナーズ(Absolute Beginners)』、原作、コリン・マッキネス。デヴィッド・ボウイを始め、当時のUKスター総出演みたいな映画だった。監督は、あのジュリアン・テンプル。
UK好きの同級生達を誘ったがもれなく断られた。地方の映画館ではレイトショーが精一杯の配給だったのだ。これから夏になろうという時期だったが、上映時間の問題なのか僕の問題なのか、誘いには誰も乗らなかった。一人、深夜の地方映画館で『ビギナーズ』を観た。
ミュージカル仕立てでPVを連続で観てる様な感覚を覚えた。そう言えば『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』もミュージカル調だった。そんな中でもハイライトシーンと言えるのはシャーデーの「キラー・ブロウ」。
気品と色気が同居するルックス。決して叫ばず、溜めず、ビブラートも効かす事なくただ淡々と歌うシャーデー・アデュ。普通に歌っているだけなのにアルトで印象に残る声。別に目新しい事をやっている訳でもないのになんでこんなにも心揺さぶらるのだろう? その答えは彼女の出自や経歴にある。
特筆すべきはセントラル・セント・マーティンズを卒業後、女性デザイナーとして成り立つ程のセンス。シャーデーというバンド全般がシャーデー・アデュという女性のフィルターを通してトータルプロデュースされている所に新しさを感じ、心揺さぶられたのだ。彼女こそがビギナーズであり、何もかも新しかった。
冒頭のアフターパーティーに話を戻す。
彼女の名前はエンディア、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズのボーカリスト。
1986年、地方の誰もいない映画館のレイトショー。映画の中で繰り広げられた世界と現実の世界との違いに肩を落として家に帰った日から約30年、あの日スクリーンで観た様な光景が今、エンディアによって目の前に…
2017.12.16
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