2023年 3月22日

シティポップは流行じゃなくスタンダード!《海で聴きたい》10曲を選んでみた

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シティポップでイメージされるOcean Sideのオムニバス


シティポップという音楽のジャンルがもてはやされるようになって早や数年。アメリカやイギリスの洋楽の真似から始まり、自分たちの洗練されたポップスを模索しながら作ってきた日本人たちによる音楽が、時を経て、インターネットを通じて拡散された。それまで聴いたことがなかった新しい音楽として、日本だけではなくアジアで、ひいては世界で聴かれるようになっている。

シティポップでイメージされる場所は、街とリゾート、リゾートの場所としての海。このオムニバスも、Urban SideとOcean Sideとあり、街と海の対比をとっている。

Ocean Side。外洋。外洋が見える鵠沼海岸とか伊豆とか、そういった自然の残るリゾートの雰囲気を醸し出す曲がセレクトされている。海の家が立ち並び、芋の子を洗うような混雑した海岸といった雰囲気ではない。

ちなみに、「海で聴きたい曲」と、「海がテーマの曲」は、違う。「海に行くときに聴きたい曲」とも微妙に違う。

波の音を聴きにきた海で、ヘッドフォン越しの波の音を邪魔しない曲たち。このオムニバスにはそんな「海で聴きたい曲」が18曲揃っている。シティポップもののオムニバスはこれまでにも多数リリースされているが、この選曲はなかなかユニークではなかろうか。

Ocean Sideに収録されている18曲の中から、10曲をピックアップしてみた。

プールサイド / 南 佳孝


作詞:来生えつ子 / 作曲:南佳孝 / 編曲:坂本龍一
from album『SOUTH OF THE BORDER』(1978)

わたしが思うシティポップの定義のひとつに、「どこかに色気を内包していること」がある。この曲は内包どころか色気が溢れているが、その溢れ方はどこか気品に満ちている。女性が着ている水着は紺色のワンピース。こんなきれいなお姉さんになりたい、そんなことを紺色の制服を着た中高生の頃、思っていた。

雨のウェンズデイ / 大滝詠一


作詞:松本隆 / 作曲:大瀧詠一
from album『A LONG VACATION』(1981)

大滝詠一さんのヴォーカルといえば朗々としたクルーナー唱法が頭に浮かぶが、この作品では、抑えめなヴォーカルと楽器の音との馴染み方がとても自然で気持ちいい。各楽器の音の良さをあらためて感じる。

「海が見たいわって言い出したのはきみのほうさ」ここの歌い方がとても好きだ。ずっと海辺でエンドレスで聴いていたい。



Summer Blue / ブレッド&バター


作詞:小林和子 / 作曲:岩沢二弓 / 編曲:細野晴臣
from album『Late Late Summer』(1979)

休日、わたしはときどきふらっと茅ヶ崎を訪れる。カラっと晴れた青空の日もあれば、どんよりとした曇りの日もある。この曲はどちらかというと曇り空。どんな日であっても彼らのサウンドのどこかに海を感じる理由は、茅ヶ崎出身という、その出自だけではないだろう。彼らの声の奥に見える海の青さは、わたしたちが永遠に求める希望なのかもしれない。

Last Summer Whisper / 杏里


作詞:角松敏生 / 作曲:角松敏生 / 編曲:瀬尾一三
from album『Heaven Beach』(1983)

角松敏生さんって、どうして女子への提供バラード曲でこんなせつなくて腑に落ちる曲が書けるんだろう。こんなに詞にも曲にも憂いがこもった曲なのに、杏里さんの歌声とサウンドにはとても天国感がある。喩えるなら、凪いだ海に浮かぶ船で、母親の羊水に浮かぶ胎児のように、ゆらゆらと揺蕩っている、そんな天国感だ。



Gardenia / 加藤和彦


作詞:安井かずみ / 作曲:加藤和彦 / 編曲:加藤和彦
from album『ガーディニア』(1978)

「加藤和彦さんは探求心の強い方で、音楽にとどまらず、ファッション、料理、演劇、映画にまで広がり、やがては豊富な人脈を駆使して英米のヒットチャートの最新情報を入手するなどして、それを糧に日本の音楽シーンの一歩も二歩も先を行った先進的な音楽を作りました」
(『牧村憲一 発言集成 1976-2021』 N4BOOKS、牧村憲一 2022年)

引用が少し長くなったが、この「Gardenia」もブラジリアンサウンドに寄せた、Ocean Sideのなかでずば抜けておしゃれな一曲。1970年代後半、ボサノバ的な歌謡曲がたくさん出回ったがそれとは別もの。ガーディニアの花は和名ではクチナシと呼ばれている。美しい香りをまとったポップスだ。

セイシェルの夕陽 / 松田聖子


作詞:松本隆 / 作曲:大村雅朗 / 編曲:大村雅朗
from album『ユートピア』(1983)

知る人ぞ知る松田聖子さんのアルバム曲、という存在から、近年すっかり有名になった作品。聖子さんも作詞の松本隆さんも作曲の大村雅朗さんもセイシェルに行ったことがなかったのに、美しい夕焼けが見える風景を聴く人に感じさせる、その技量には恐れ入る。この曲の雰囲気だけであれば、西に沈む夕陽が見える場所であれば疑似体験できる。西伊豆の松崎とか、パンダがいっぱいいる和歌山県の白浜あたりが思い浮かんだ。

入江にて / 郷ひろみ


作詞:竜真知子 / 作曲:林哲司 / 編曲:萩田光雄
from album『SUPER DRIVE』(1979)

先入観なく聴いて欲しい1曲。聴いているうちに、このヴォーカルはまぎれもなくヒロミ・ゴーであることに気づく人も多いだろうが、サウンドの適度な重さと弦アレンジの美しさが効いているからか、歌謡曲という印象は皆無。澄んだ青空を反射する青い海に映える、爽快なポップス作品。最近では西寺郷太さんもカバーしている。



Midnight Pretenders / 亜蘭知子


作詞:亜蘭知子 / 作曲:織田哲郎 / 編曲:西村麻聡
from album『浮遊空間』(1983)

オリジナルは1983年、ブラックコンテンポラリー風サウンドに、艶やかなヴォーカルでいささか夜っぽい。2022年にカナダ出身のバンド、ザ・ウィークエンドが「アウト・オブ・タイム」でこの曲をサンプリングしながらも、あまり夜の匂いがしないのとは対照的。ヴォーカルがいかに楽曲のなかで重要であるかのひとつのサンプル。オリジナルは都会の夜のイメージがあり、海の匂いはあまり感じないところが、このオムニバスのなかでもひとつのアクセントになっている。穏やかな砂浜で時々ザバっと襲って来る白波のようだ。



裸足のままで / 須藤薫


作詞:田口俊 / 作曲:杉真理 / 編曲:松任谷正隆
from single『裸足のままで / 遥かなる肖像』(1983)

須藤薫さんの声には、ふくよかさの中に、どこか爽快でキラキラした、はじけるような海を感じる。コーラスワークと管弦の効いたサウンドと、彼女の声が連れてってくれるのは、海が見える風景。もっと彼女の曲を聴きたかったし、これからの人たちにも聴いて欲しいヴォーカリストのひとりだ。

グッドバイ・サマーブリーズ / 竹内まりや


作詞:竜真知子 / 作曲:林哲司 / 編曲:Al Capps
from album『BEGINNING』(1978)

竹内まりやさんがデビューアルバムで見せる、リゾートでの恋にさようならを告げる女子大生の等身大の姿が見える。

シティポップというジャンルにおける “竹内まりや” というアイコンはとかく「プラスティック・ラブ」で語られがちだが、実はあの曲は当時のまりやさんの中ではいささか異色だった。RCAレーベルからリリースした1978年〜1981年のまりやさんのナンバーこそが、本来のシティポップに近いのではないかとわたしは思っている。



―― なにをもってシティポップと定義づけるかは聴く方の判断にゆだねるが、わたしのなかでは、海や空を感じる風景、どこか爽やかな色気があり、穏やかさのある音楽、だと思っている。

人間が普遍的に求めているものが、シティポップといわれる音楽には詰まっている。流行ではなく、今後はスタンダードとして聴かれていくものになっていってほしい。


■ シティポップ・ストーリー CITY POP STORY ~ Ocean Side 収録曲
1. 夏に恋する女たち / 大貫妙子
from album『SIGNIFIE』(1983)
2. プールサイド / 南佳孝
from album『SOUTH OF THE BORDER』(1978)
3. 雨のウェンズデイ / 大滝詠一
from album『A LONG VACATION』(1981)
4. Summer Blue / ブレッド&バター
from album『Late Late Summer』(1979)
5. Last Summer Whispe / 杏里
from album『Heaven Beach』(1983)
6. YOU'RE MY BABY / 佐藤博
from album『awakening』(1982)
7. Gardenia / 加藤和彦
from album『Gardenia』(1978)
8. LADY PINK PANTHER / 鈴木茂
from album『LAGOON』(1976)
9. Sea Side Story / 伊勢正三
from album『スモークドガラス越しの景色』(1981)
10. セイシェルの夕陽 / 松田聖子
from album『ユートピア』(1983)
11. Still I'm In Love With You / 角松敏生
from album『SEA BREEZE 2016』(2016)
12. 夏のクラクション / 稲垣潤一
from album『J.I.』(1983)
13. Lusia / 黒住憲五
from album『Again』(1982)
14. 入江にて / 郷ひろみ
from album『SUPER DRIVE』(1979)
15. Icebox & Movie / 二名敦子
from album『WINDY ISLAND』(1985)
16. Midnight Pretenders / 亜蘭知子
from album『浮遊空間』(1983)
17. 裸足のままで / 須藤薫
from single『裸足のままで / 遥かなる肖像』(1983)
18. グッドバイ・サマーブリーズ / 竹内まりや
from album『BEGINNING』(1978)

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