共有感満載の80年代洋楽ヒット!ビルボード最高位2位の妙味 vol.58
Typical Male / Tina Turner
アメリカを代表する女性エンターテイナー、ティナ・ターナーが自伝『Tina Turner’s My Love Story』を発表した。
私生活を含めた波乱万丈で壮絶な半生は、映画『TINA ティナ』(93年)でも描かれていたりして、よく知られた話ではある。近年では脳卒中の報道。そして、ガン、腎不全といった病気と闘っているとのことで、我々はただただこの生きるレジェンドの回復を祈るのみだ。
ティナの歌手活動は1958年から始まっているので、今年2018年でなんと芸歴60年! ビーチ・ボーイズやビートルズよりも先輩ということになる。60年代から70年代前半にかけてアイク&ティナ・ターナーとしてアメリカを代表するエンターテイナーの座を勝ち取っていたが、アイクとの離婚(76年)前後から低迷期を迎えた。しかし80年代に、60年代を上回る自己キャリア最大のピークを迎え見事な復活を遂げたのだ(vol.46
「マッドマックスに大抜擢!80年代に訪れたティナ・ターナーのギネス級復活劇」参照)。
80年代56番目に誕生したナンバー2ソングが、復活後のティナ・ターナーにとって80年代9曲目のトップ40ヒットとなった「ティピカル・メイル」(86年10~11月3週2位)。
84年から勃発したティナの奇跡的復活劇は、米・ロックンロール / R&Bにリスペクトの意を惜しげなく表する英国プロデューサー、アーティストたちのバックアップ抜きには語ることはできない。80年代に生まれた一連のティナのヒットソングは、英国勢の制作・布陣によるものだった。
しかし「ティピカル・メイル」には、これまでにないアプローチがなされていた。それはB面(今でいうカップリング)の「ドント・ターン・アラウンド」の制作アプローチの変化だ。これまでなされていた英国勢による制作布陣が一転、同曲はティナの本国アメリカ及びカナダ勢が手掛けていたのだ。
―― ソングライトは「カリフォルニアの青い空(It Never Rains In Southern California)」(72年5位)のヒットで知られるアルバート・ハモンドと新進ヒットメイカー、ダイアン・ウォーレン。プロデュースはこの時点でスーパースター級だったブライアン・アダムスとそのブライアンのブレイクになくてはならない存在だったボブ・クリアマウンテン(ローリング・ストーンズやブライアン・アダムスのプロデューサー)。
アルバート&ダイアンのコンビは翌87年「愛はとまらない(Nothing’s Gonna Stop Us Now)」でスターシップに3曲目の全米ナンバーワンをもたらし、一方ブライアン&ボブは、85年から86年にかけて、ティナ&ブライアン「イッツ・オンリー・ラブ」をトップ20に送り込み、すでに大物感を漂わせる存在だった。これは、86年のこの時点ではかなり鉄壁の制作布陣だったわけで、キャピトル・レコードの鼻息の荒さもひしひしと伝わってきたものだ。
しかし「ドント・ターン・アラウンド」はA面ではなく、B面に収まった。しかもアルバムには未収録…。これは不可解としか言いようがないが、英国制作陣による既得権益を守るための大きな抵抗があったのかもしれない。
「ドント・ターン・アラウンド」には後日談が存在する。いくつかのアーティストがこの曲をカバー、そのうちのひとつ英レゲエ・グループ、アスワドのバージョンが全英1位を筆頭に欧州数か国でトップ10ヒットを記録(88年)。さらにスウェーデンのグループ、エイス・オブ・ベイスが94年にカバー、全米4位を筆頭に世界各国にて大ヒットを記録したのだ。
94年あたりからヒットチャート上位から遠ざかっていったティナだけに、エイス・オブ・ベイスの大ヒットは、心中複雑な気持ちで耳にしていたに違いない。
2018.11.28