80年代のはじめ、京都・祇園町に阪神タイガースファンの集う居酒屋があった。
店の看板は黄色と黒のタイガースカラー。点が入れば店中大騒ぎ。連勝中には、大声を上げて外で走り回るような人もいたが、それを咎めるような無粋な人は皆無。むしろ、ファンでなくても応援したくなるようなお客さんのパフォーマンスも多々あり、ファンがファンを拡大する現象が起きていた。
スワローズファンである私もその店に行ったことがある。実は、当時登板機会が多く、何かと忙しかったタイガースの『エース福間』を尊敬していたのだ(中継ぎでありながらMVP級の活躍をしていたので私が勝手にそう呼んでいた)。
私の隣には、バリバリのタイガースファンのSさん。木屋町のカウンターの中で働く相当元気な先輩だ。男前で饒舌、大柄ではないが、勇ましい飲みっぷりで人気の木屋町を代表するエンターテイナーだ。
そのSさんは、私が働く店にいつも深夜1時ごろになるとやってきた。そして、水割りを片手にほかのお客さんも巻き込んでの大騒ぎ。当然のようにスタッフも巻き込まれるので店中が大宴会状態と化す。まさにエンターテイナーのなせる技だ。この時期、バブル時代には、ちょっと間があるが、深夜の木屋町には今では考えられないほど人が多く、誰もが酔客を目指していた。
さて、彼の持ち歌は多彩だったが、歌謡曲や演歌をひとしきり歌ったあと、必ず帰り際に歌っていたのが「川の流れを抱いて眠りたい」。あまり知られていないかもしれないが、最近 “カホコのパパ” として話題になった時任三郎さんのしぶ~いデビュー曲だ。自らが出演するドラマの挿入歌になったバラードで、どう考えてもSさんのキャラとは合わないが、「これで宴会終了」という合図にもなっていたので、スタッフも「やっと終わる」とホッとしたものだった。
その後の時任さんの活躍はご存知の通り。80年代のラストを迎えた頃、日本全体がバブル景気で沸いている中、「黄色と黒は勇気のしるし」を手に、世界で戦うジャパニーズビジネスマンの代表となった。
このとき、タイガースファンのSさんが歓喜したことは間違いない。以降、彼の帰り際の曲は「勇気のしるし」に変わったそうだ。
川の流れを抱いて眠りたい
発売:1981年8月25日
作詞:岡本おさみ
作曲:鈴木キサブロー
勇気のしるし ※三共「リゲイン」CMソング
発売:1989年11月22日
歌唱:牛若丸三郎太(時任三郎)
作詞:黒田秀樹
作曲・編曲:近藤達郎
2017.10.13
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