沖雅也 主演の名作ドラマ「俺たちは天使だ！」運が悪けりゃ死ぬだけさ

三揃えのカチッと決まったスーツ姿、沖雅也との遭遇

ただの自慢だが、中１だった私はロケ中の沖雅也に遭遇したことがある。あれは1980年の５月か６月。遠足で神奈川県の三浦海岸に出向いた時のこと。皆んなでお弁当を広げようと歩いていたら、スタッフと一緒に颯爽と彼が海辺に現れたのだ。三揃えのカチッと決まったスーツ姿で汗ひとつかかず身じろぎもせず、彼は目の前にすっくと立っていた。

あのいで立ちはたぶん『太陽にほえろ！』のロケだったと思うのだが、我先にと握手を求めて狂喜するガキどもに、沖雅也はクールに微笑みながら対応してくれた。私たちは口々に彼に向かって叫んだよ。「キャップ〜!!」そう、当時の私たちにとっての沖雅也は断然『俺たちは天使だ！』のキャップだった。目の前のキャップは得意武器のブーメランこそ持っていなかったものの本当にカッコよかった。そして皆んなで大笑いしながら沖雅也に向かって「あの」ポーズを決めまくったのだった。

「俺たちは、天使だ！」

沖雅也、もちろんこちらを見ちゃいなかったけどね。笑。

史上最強ともいえるオープニング、主題歌は「男達のメロディー」

1979年は自分にとってドラマの当たり年だった。だって『ちょっとマイウェイ』や『西遊記』、『探偵物語』がテレビから流れ、『俺たちは天使だ！』（以下『俺天』）まであったのだから！『俺天』とは一言で言えば、コメディータッチの痛快アクションドラマだ。探偵事務所を舞台にさまざまな事件に首を突っ込み、毎度一攫千金を狙っては夢破れるズッコケ探偵たちを役者が個性豊かに演じていた。

放映期間は４月15日〜11月４日の日曜夜８時から。ちょうど堺正章主演ドラマ『西遊記』と『西遊記II』を繋ぐタームでオンエアされ、私も最初は『西遊記』に続けてなんとなくチャンネルを合わせていたくらいだったが、次第にぐいぐい引き込まれた。とにかくオープニングロールと主題歌『男達のメロディー』が最高だった。なんたって、♪運が悪けりゃ死ぬだけさ〜 だもんね。

1990年代後半に携帯電話が登場せし頃、私はこれを即着メロにしたくらい愛していた。もちろん今だって愛している。

この史上最強ともいえるオープニングはドラマの監督を務めた木下亮氏が担当したとのこと。男４人でアメ車で爆走中、どんどん車が壊れていき、靴から火花が散ったりするコミカルなカーアクションだが、ここでハートを鷲掴みにされたのは私だけではないはずだ。主題歌を手がけたのはご存知SHŌGUN。ドラマスタート直後の４月21日にシングルが発売され、50万枚を超えるヒットとなった。

SHŌGUNは1978年に芳野藤丸を中心にスタジオミュージシャンが集まって結成。このバンドに当時の日本テレビ音楽・飯田則子氏が目をつけ、『俺天』の音楽担当として抜擢し、それにあたってメンバーにケーシー・ランキンを加えてバンド名をSHŌGUNと改めたのだという。同年の松田優作主演による日本テレビ系ドラマ『探偵物語』でも主題歌『BAD CITY』を担当しており、この２曲は今だに名曲と並び称される。

赤いシボレーカマロLTを乗り回し、イヴ・サンローランを着こなすダンディーなキャップは沖雅也

『俺天』の麻生探偵事務所員は以下５名。

◼️ キャップ / 麻生雅人：沖雅也
◼️ ユーコ / 藤波悠子：多岐川裕美
◼️ ナビさん / 島岡到：渡辺篤史
◼️ ダーツ / 入江省三：柴田恭兵
◼️ ジュン / 芹沢凖：神田正輝

キャップは赤いシボレーカマロLTを乗り回し、イヴ・サンローランを着こなすダンディーなカッコマン。駆使する武器はブーメラン。ユーコは推理小説好きで事務所のマスコット的存在。ナビさんは車好きが高じて整備工場に勤めており、夢はラリー参戦。そしてユーコに片想い中。ダーツは自他共に認めるナンパなディスコ従業員。名前通りダーツが得意。そしてジュンはテレビ局に勤めながら事務所の経理を担当する小説家志望。

いつもいつも探偵稼業はうまくいかず、お金がないと嘆きながらビンボー食のアジの開きサンド&出がらしのアメリカンコーヒーで食いつないでいる。それにしては、家賃が30万もする青山の高級マンション「茜台ハイツ」に事務所を構えているのが謎なのだけれど。

とにかく５人が素で楽しそうにしている姿が観ている側にも伝わってくる。台詞の多くがアドリブで変更になったとも言われているし、実際この仕事を楽しんでいたんだろうなと思う。息の合った軽やかな丁々発止も、下川辰平や勝野洋、小野寺昭など『太陽にほえろ！』とかぶったその他の出演者も、皆んな愛しくてまぶしい。

CM前に入るアイキャッチは、キャップがブーメランを投げて自分に当たってしまうというアニメだったが、もし今『俺天』が放映されていたら、あのイラストのロゴＴシャツやスマホケースが作られたりしたのかも。出演者５人によるアクリルスタンドが売り出されたら私ならホイホイ買ってしまうだろう。

キャップは自分の本来の姿が一番出ていた役柄

もうひとつ、このドラマのときめく見どころは出演者の恋愛相関図が透けて見えた点だ。クラスの女子の人気度は大概キザなキャップと可愛いジュンの間で割れた。ちょっとおませでクールなクラスメイトはダーツファンだった。

ナビさんはユーコに片想いしていたけれど、ユーコはキャップにLOVEだったし、ダーツと久美子（長谷直美 / 弁護士事務所の助手役）はツンデレな関係のようにも思えたし、ジュンに付きまとう週刊誌のトップ屋、谷村女史（結城美栄子）とのその後も気になる。私は沖雅也と多岐川裕美が本当に結婚すると信じて疑わなかった。ちなみに私の推しはこの５人ではなくて、熱血漢の新人、神保刑事（横谷雄二）だった。ニックネームは「ゴリラ」。ウブで猪突猛進ゆえに皆に小バカにされていたがそんな彼に胸がキュンキュンきてしまったのだった。

沖雅也は生前このキャップ役をとても気に入っており「自分の本来の姿が一番出ていた役柄」だと考えていたという。この役でファン層が広がり、若い世代から多くのファンレターが届いたらしい。遺書にも「自分の遺影には『俺天』の写真を使ってほしい」とあったそうだ。

1983年６月28日、沖雅也自死。享年31歳。

突然の彼の死にまつわるミステリーは子供だった私にはショックだったし何もかもが謎で、ワイドショーが垂れ流した下世話な情報ばかりが思い出される。

だが今、時を経て振り返ってみると複雑かつ繊細だった彼の美学がほんのわずかながらわかるような気もするのだ。『俺たちは天使だ！』を愛した沖雅也。私の記憶にもあの明るく紳士だった二枚目半のキャップ役が刻まれている。もしも彼が存命だったらどんな俳優に成長していただろうか。果たして『俺天』の続編は作られていただろうか。

今年は奇しくも没後40年。人生は「たられば」でしかないが、彼の早逝が悔やまれてならない。

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2023.06.28