最初は怒髪天だった。
2014年1月12日、結成30周年を祝しての初武道館ライブは見切れ席までぎっしり埋まり、ボーカルの増子直純は感激のあまり終始男泣きに泣いていた。
そして終盤「俺たちは武道館やったぞ! 次は誰だ? フラカンか? コレクターズか? ピーズか? やれよ! 俺に恩返しさせろ!」。
思いがけない一言にざわつく関係者席。
え? え? なに今の? 終演後見に来ていたフラカンの鈴木圭介に「やるの?」と訊くと「いやいや、うちはいいです。とんでもない」。
確かに挙げられたどのバンドも、ふだんの動員を考えると武道館はうかつに手を出せる会場ではなかった。
しかし。2015年12月19日にフラワーカンパニーズが、2017年3月1日にコレクターズが、6月9日にThe ピーズが、それぞれ大成功させたのだ。どのバンドもメンバーの年齢は40代後半から50代。代表曲はあってもヒット曲はない。それでも30年(フラカンは25年)かけてたどりついた武道館のステージのその晴れがましさは、やはりそこが特別な場所であることを教えてくれた。
私の初武道館は1978年3月のKISSだった。2回目の来日公演で、1曲目が「デトロイトロックシティ」じゃなくて哀しかった。それから数えきれないくらい行っているが、道すがら頭の中で鳴りだす曲がある。
爆風スランプ(旧表記)の「嗚呼!武道館」。有名な「大きな玉ねぎの下」ではなく、「嗚呼!武道館」のほうだ。
84年8月にデビューした爆風スランプは、演奏のうまいコミックバンドとして人気を少しずつ獲得してきた。テクニックで知られるファンクバンドの爆風銃と、度肝を抜くパフォーマンスとシンプルな歌詞が哲学的ですらあるスーパースランプ。その2バンドがどちらもデビュー前に空中分解し、2対2で結成された。
デビュー当時のステージは一言で言うとアングラ。私が見に行った85年4月26日の新宿厚生年金会館でさえパッパラー河合は客席に渡した戸板の上でギターを弾き、サンプラザ中野は靴をくわえていた。そんなバンドが武道館でやるという。しかもそのための曲まで作ってリリースするという。私が知る限り、前代未聞だった。
1985年10月10日に12インチシングルでリリースされた「嗚呼!武道館」は8分もの長尺で、メンバーとの出会いから馬鹿にされ続けた苦難の道を語りあげ、最後にざまあみろとばかりに喜びを爆発させる。もう1曲の「Yeah!BUDOKAN」もやりたい放題だ。ブッドーカーン! ブッドーカーン!
1985年12月13日、満員の武道館でアンコールの最後に歌われたのは、空席があったときの言い訳のために作ったという「大きな玉ねぎの下で」。この後、アングラ色を薄めてセルアウトしていく彼らに相応しい光景だった。武道館がステイタスだった時代など遠い昔かもしれない。それでもおじさんバンドの間で回った “武道館バトン” は意味があるものだった。
フラカンのグレートマエカワはきらきら光るクリスマスツリーを着た。コレクターズの加藤ひさしは自宅(都内とはいえ少し遠い)からモッズの魂・ベスパに乗って来た。ピーズは最後に3人で手をつないでくるくる回った。
武道館マジックは確実にある。
あのステージに夢を見る人たちがこれからも絶えませんように。
2017.07.03
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