ショーン・コネリー、当たり役は「007」初代ジェームズ・ボンド
2020年10月30日、名優ショーン・コネリーが90歳で逝去した。とてつもない寂しさを覚えた映画ファンは少なくないだろう。子供の頃から、この人の映画を見てきた自分も、ひとつの時代の終わりを痛感しないわけにはいかなかった。
とはいえ、見始めた頃から大好きだった…… とは言えないのが80s世代の難儀なところ。本稿ではそれに対する懺悔を含めつつ、偉大な名優の80年代の足跡を振り返ってみようと思う。
サー・ショーン・コネリーの “当たり役” といえば、なんといっても『007』シリーズの初代ジェームズ・ボンドだ。イギリス情報部MI6に所属する敏腕スパイ。紳士だが無茶もする、規格外の野性味を持つ、そんなボンド像を、サーは鮮烈に体現して1960年代に人気スターとなった。
80年代に思春期を迎えた世代にとって、ボンド=ロジャー・ムーア?
しかし、80年代に思春期を迎えた世代にとって、それは昔話に過ぎない。当時の『007』シリーズは3代目ボンド俳優ロジャー・ムーアが牽引し、ド派手なアクションを連打して、コネリー時代を上回る世界的なヒットを飛ばしていた。
小学6年のときにシリーズ第10作『007 私を愛したスパイ』で初めてシリーズに触れた自分には、ボンド=ロジャー・ムーアのイメージがこびりついた。
で、「ボンドって、かっこいいなあ」…… と思いつつ、テレビで放映される昔の『007』シリーズを見るのだが、ムーアがデフォルトになっていた子どもの目には、コネリー版はどうにも違和感がある。
スマートなムーアに比べて、コネリーは、なんというか、汚らしい…… と思ったのは、モジャモジャの胸毛に衝撃を受けたせいかもしれない。そういう個性を野性味と受け止められるほど、大人ではなかった。
「それでも元ボンドかよ!?」映画「メテオ」の役どころ
中学1年の冬、シリーズ11作目の『007 ムーンレイカー』が公開された頃だったと思うが、初めてコネリーの主演映画を劇場で観た。
『メテオ』というタイトルのその映画は、地球に巨大隕石が降ってくるというパニックスペクタクル。スゴそうな空気を察して映画館に足を運んだのだが、観進めるうちに「この映画、面白くないよね?」…… という疑問が沸き起こってきた。
スペクタクルの見せ場といえば、デカい隕石がドカンと大都市に降ってくる一瞬ほど。科学者役に扮したコネリーはというと、地下のシェルターで右往左往しているだけ。「それでも元ボンドかよ!?」…… と思わずにはいられなかった。
何より悲しかったのは、コネリーの髪が薄くなっていたことだ。コネリーさん、当時40歳。確かに頭髪の危機が訪れてもおかしくない年齢だ。とはいえ、中坊にはかっこいいムービースターを観たいという欲求があるのだ。胸毛を移植しろ!
脇役で出演した作品で漂う大物感
しかし中3のときに映画館で見たSFサスペンス『アウトランド』で、僭越としか言いようがないが、コネリーを見直した。
木星の衛星で起こった鉄鉱作業員の不審な事故死を調査する保安官役。これがシブくて、かっこいい。終始、ベースボールキャップを被っているので、髪の毛が目立たなかった…… というのも一因かもしれない。
その後『007』シリーズとは関係のない、同じイアン・フレミング原作の『ネバー・セイ・ネバー・アゲイン』で、かつらを付けてボンド役を演じたのは正直、残念な感じがした。
むしろテリー・ギリアム監督の『バンデッドQ』や、『ハイランダー 悪魔の戦士』などの脇役で出演した作品の方が、大物感が漂い記憶に残る。さらに、この頃からロックに興味を覚え始めた自分には前者がジョージ・ハリスン、後者はクィーンが楽曲提供…… という点に興味が先走り、それに引っ張られるように、コネリーに対する俺株も上がり出す。
「アンタッチャブル」でアカデミー助演男優賞を受賞
大学生のときに史劇ミステリー『薔薇の名前』を見たが、このときすでにサーには名優の風格が漂っていた。もはや髪の薄さも気にならない。そして初老の警官を演じた『アンタッチャブル』でアカデミー助演男優賞を受賞。名実ともに、コネリーは名優となったのだ。
振り返ると、80年代のコネリーは、スターと俳優のイメージの間で格闘を続けていたのだろう。どこまでもつきまとう007のイメージに逆らい、演技派の道を模索して、さまざまな映画に挑戦。試行錯誤の果てに、アカデミー賞へとたどり着いた、そんな感がある。思春期の自分は知らず知らずのうちに、ひとりの役者の深化の道程を目の当たりにしていた。
『007』シリーズをすべて見た今となっては、歴代のボンド俳優にはそれぞれに良さがあり、それぞれに味かあることを理解している。コネリーが演じたボンドはユーモラスでセクシーでワイルドで、歴代ボンド俳優の中でも、とにかくキャラクターが濃い。それもまた、かっこいい…… などと、すっかり髪の薄い年齢となった自分は、しみじみと思ったりする。
2020.12.29