カセットテープにフォーカスしたイベント「CASSETTE WEEK JAPAN 2025」
近年におけるカルチャーシーンを席巻しているのは、止まらぬレトロブームの熱気である。ファッションやキャラクターをはじめ、1970〜1980年代のレトロブームはいまだ継続中。さらに近年では、1990〜2000年代までもが “平成レトロ" としてもてはやされている。 “懐かしくも新しい” ムードに惹きつけられる若者が多くいる証拠だ。その流れは音楽シーンにも及び、レコードに次いでカセットテープも再び脚光を浴びている。それは新品・中古品問わず店頭で見られるようになったり、新しくカセットテープの専門店が開店したりしているほどだ。
そんなカセットテープにフォーカスしたイベント『CASSETTE WEEK JAPAN 2025』が10月13日から開催され、各所で様々な盛り上がりを見せる予定だ。“CASSETTE WEEK” とは、音楽媒体としてのカセットテープの価値をさらに伝えていくことを目的とした、イギリス発の世界同時開催される年次イベント。日本では公式にスタートしてから今年で10年が経ち、それを記念して今回は音源販売のみならず、マーケットの開催とcinema staffとw.o.d.による記念ツーマンライブも開かれる。

不完全さに宿る価値と、実物そのものが持つアート性
レコードもカセットテープも、かつては主流メディアとして役割を果たしていたもの。人気があるから使うのではなく、音楽を聴く手段のひとつとして当たり前に生活の中に存在していた。もし “今、CDが人気” という使われ方をしたら違和感を覚える人も多いだろう。それと同じように、カセットテープがリアルタイム世代だった人たちにとっては、昨今の人気再燃ブームが不思議に映るのも無理はない。では、筆者(2001年生まれ)のような後追い世代はなぜ魅力を感じるのか—— その理由を、不完全さに宿る価値と、実物そのものが持つアート性という2つの観点から考えてみる。
まずは、不完全さに宿る価値という観点から。今や、SpotifyやApple Musicといったサブスクリプションサービスを開けば、ほぼすべての音楽がワンタップで再生できる。しかも、一音一音がクリアに聴こえるくらいの高音質で臨場感のある重低音の音楽を、誰でも容易に聴くことができる。だからなのか、その完璧さに反動してカセットテープの持つ “粗さ” に心を惹かれるのかもしれない。テープ特有の “サーッ” というヒスノイズやテープの歪みによる若干の音の揺れなど、再生の度に変化する質感はアナログならでは。データとして存在しているデジタルにはない不完全で生っぽい方が、逆にリアルさを感じ魅力的に映る。使い捨てカメラの『写ルンです』や初期のデジカメに再び脚光が当たっているのも、似た現象なのかもしれない。
そして、実物そのものが持つアート性という観点からは、ずばり “モノとしての魅力” が挙げられる。それは、手のひらサイズに広がるポップなパッケージ、色味豊かなカセット本体、デザイン性あるラベルといった “映え” の要素。カセットテープが主流メディアだったころに様々なアーティストがリリースしていたカセットは、白や黒の本体にタイトルと曲目が書かれているだけといった無機質なカセットテープが多かったが、現在あいみょんやVaundyなどが発売する新譜のデザインはとてもカラフルでおしゃれだ。
また、録音用の空のカセットテープに多く見られる半透明なテープも人気が高く、2000年代前後に流行していたスケルトンデザインの再評価とも相まって、フォルムそのものに美しさを感じる人も多い。その人気の証拠として、実物を見ながら曲を再生できるよう、カセットテープが透けて見えるデッキがBEAMS RECORDSや東芝のAurexなどから発売されている。今は聴くだけではなく、媒体を見て聴くことも音楽を楽しむことの1つに含まれているのだろう。

アートピースとしての役割を十分に果たすことができるメディア
さらに、レコードの大判ジャケットが持つアート性とは異なり、カセットは小ささゆえの “かわいさ” がある。過剰に場所を取らないという点では、シンプルな暮らしを求める人が多い若い世代にとって手に取りやすい。実際、音楽よりも先にデザインやフォルムに惹かれてカセットを手に取る若い世代も少なくない。
推しアーティストの作品をスマホで何度も聴いて、なかでも気に入ったものをカセットで部屋に飾る。あるいは、中古ショップで偶然見つけたカセットをジャケ買いしてインテリアとして愛用する。温かみのある音を再生できるだけでなく、アートピースとしての役割を十分に果たすことができるメディアなのだ。
カセットテープは懐古的なものではなく、若い世代にとっては “新しい音楽の楽しみ方” の選択肢を与えてくれる存在だ。デジタルでは得られない粗さや不完全さ、そして手に取ることで実感できるモノとしての魅力があるからこそ “エモい” という感想が生まれるのだろう。これから開催される『CASSETTE WEEK JAPAN』は、世代を超えてカセットの価値を共有し再確認できる絶好の機会である。この高まる熱気を一過性のもので消費するのではなく、恒久的なメディアとして受け継いでいきたい。
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2025.10.13