「舞いあがれ!」VS「本日も晴天なり」、朝ドラの肝はおばあちゃん
現在放送中のNHK朝ドラ『舞いあがれ!』でヒロインの祖母を演じている高畑淳子が大評判だ。当初は「高畑淳子が島暮らしのおばあちゃん?」と意外に思った私も、今やその出番を心待ちにするほど、“祥子ばんば” に魅了されてしまった一人である。ヒロインの成長に合わせて、“祥子ばんば” も歳を重ねていることがちょっとした動作や仕草から伝わり、「高畑淳子うまいなぁ」と唸ってしまった。
2023年のおばあちゃんも魅力的だが、1981年のおばあちゃんも負けていない。BSプレミアムで、毎朝7時15分から再放送している朝ドラ『本日も晴天なり』でも、おばあちゃん2人がドラマのいいアクセントになっている。
『本日も晴天なり』は1981年に放送されていた朝ドラ。NHKのアナウンサーをふり出しに、ルポライター、そして作家へと、自分の道を探し求めて戦前・戦後を生き抜くヒロイン(原日出子)を描いている。途中、ヒロインが夫(鹿賀丈史)の実家がある島根の松江で暮らすのだが、夫の祖母を演じているのが原泉だ。
名家のおばあちゃん原泉に対し、庶民のおばあちゃん菅井きん
原泉と聞いてわからない人も、角川映画の横溝正史ものや、伊丹十三作品などで妖婆を演じていた女優といえば、ピンとくるのでは。あまりの迫力に、原日出子相当いびられるな…… と思ったら、そんな心配は無用だった。たしかにおっかないのだが、松江の名家を守りながらも若い孫夫婦に理解を示し、ヒロインに適切な助言もする、一本筋の通った素敵なおばあちゃんなのだ。
70〜80年代のドラマで、名家のおばあちゃんといえば原泉。これに対して、庶民代表のおばあちゃんが菅井きんではないだろうか。『本日も晴天なり』にも、ヒロインの実家の使用人役で登場している。自らを「おキン婆や」と呼ぶ立派な老婆なのだが、菅井きん、このときまだ54歳。思い起こすと1967年生まれの私が物心ついたときには、菅井きんは老婆を演じていた。ずっと老け役だったせいか、2000年代になってもその印象は変わらなかったように思う。
姑役で活躍した初井言榮、かわいいおばあちゃん代表は原ひさ子
80年代のおばあちゃん女優に思いを馳せていて、思い出した女優さんが他にもいる。原泉の次にこわいおばあちゃんとして印象に残っているのが、初井言榮だ。1977年から84年まで制作されていた昼ドラ、ライオン奥様劇場の嫁姑シリーズは忘れられない。健気な嫁・市毛良枝に対して、ちょっと意地悪でアタリの強い姑・初井言榮。だが、計算してびっくり。初井が1929年生まれということは、嫁姑シリーズ初期はまだ40代後半だったのだ。
かわいいおばあちゃん役で活躍した原ひさ子も忘れ難い。ちっちゃくて、ニコニコ優しそうな笑顔に愛らしい声。こんなおばあちゃんが横断歩道を渡ろうとしていたら、その前にそっと跪き、おんぶせずにはいられない。1978年に放送された学園ドラマ『ゆうひが丘の総理大臣』の身寄りのない老婆と生徒・山川くん(清水昭博)との交流ストーリーは、あのドラマ屈指の回だと思う。『ドラえもん』に登場する、のび太のおばあちゃんを実写化するとしたら、この人しかいないだろうとも思っていた。
バラエティーでも大活躍、火事で亡くなったおばあちゃん女優、浦辺粂子
最後は、ユーモラスなおばあちゃんとして人気を博した浦辺粂子に触れたい。溝口健二、成瀬巳喜男、市川崑、小津安二郎など数々の巨匠の作品に出演し、晩年はドラマだけでなくバラエティー番組でも大活躍。1984年には、「わたし歌手になりましたよ」という曲でレコードデビューまでしている。「浦辺粂子ですよーー」という片岡鶴太郎のモノマネを覚えている人も多いだろう。ちょっととぼけていて、ユーモアあふれるおばあちゃんといえば、浦辺粂子の独壇場だった。だから、ガスコンロの火が服に引火したのが原因という亡くなり方は、ほんとうにショッキングだった。
このコラムを書くにあたり、当時のおばあちゃん女優たちの実年齢を初めて知った。若い頃からおばあちゃん役で奮闘していたんだね。80年代、おばあちゃんといえば、ひっつめ髪に茶色の和服、割烹着のイメージだったものね。みなさん、実際にお会いすると、若々しかったんだろうなぁ。高畑淳子、老け役で頑張っていると思ったが、実年齢は68歳。おばあちゃん役としては、まさに今が旬だったのだ。
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2023.01.30