全身で鬼塚の不器用さもやんちゃさも滲ませていた反町隆史主演「GTO」 26年ぶりに、あの、破天荒なグレイトティーチャーが戻ってくる――。反町隆史主演の連続ドラマ『GTO』の続編的作品が4月1日、カンテレ・フジテレビ開局65周年特別ドラマ『GTOリバイバル』として放送されるという。
『GTO』は何度かリメイクされているが、やはり1998年の夏に放送された反町版が至高。今や実力派俳優として押しも押されぬ存在感を放つ反町だが、『GTO』の頃は、正直、演技がむちゃくちゃ上手なわけではなかった。なのに、すさまじく爽快。テクニックとは別の熱量とヒーローのオーラがあり、全身で鬼塚の不器用さもやんちゃさも滲ませていた。そして1998年という閉塞的な時代に風穴を空けていた。
今となっては不適切にもほどがある内容 『GTO』のザックリ簡単なあらすじは “元暴走族の高校教師鬼塚が、破天荒な行動で生徒や学校の問題に体当たりでぶつかっていく” である。ただ、単なる “元不良が熱血教師になるパターン" の学園ドラマではない。そもそも鬼塚が教師になりたいと思った動機は “女子高生とつき合うことができるかも” という下心だ。しかもそのやり方は、替え玉受験である。ドラマとて今なら完全アウトである。
生徒との向き合い方も、体当たりというよりも破壊と無茶。水樹ナナコ(希良梨)が両親の不仲に悩んでいたことを相談されれば、ハンマーでナナコの家の壁を破壊する。小栗旬が演じた吉川のぼるがキーマンとなった3話では、いじめ問題に切り込んでいるが、いじめた側ではなく、イジメを受けた側、のぼるをビルの屋上から逆さ吊りにしている。いじめっ子に自分がしていることの残酷さを見せつけ、わからせるためとはいえ、ヤバすぎる!
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世紀末感、厭世感をとてもよく表していた「GTO」 しかし、鬼塚がむちゃくちゃな手段で解決していく姿は、当時の若者にズバリ刺さった。というのも、このドラマが放送された1998年は、日本は経済・世相ともにどん底。90年代初頭のバブル崩壊で、生じた様々な問題が十分処理されないまま時が過ぎ、あちこちに影響が出ていたのだ。それまで年間2万人台で推移していた自殺者が、この年から突如として3万人台に跳ね上がっている。若者たちも大人を信頼できなくなり、学校でもいじめ問題が増加していた頃である。
当時、若手俳優で、この世紀末感、厭世感をとてもよく表していたのが、生徒役の窪塚洋介と中村愛美。『GTO』でも窪塚は、IQが高く、ことあるごとに大人を見下す天才・菊池役を演じ、中村は、親がPTAの会長であることをことあるごとに利用する相沢みやびを演じていた。両者の持つどこか手に負えないムードは相性が良く、野島伸司の1999年のドラマ「リップスティック」でも2人揃って出演。精神的に早熟なゆえ、世の中に絶望感を覚える役を演じ、ドラマに深みを与えていた。
彼らが演じたのは、従来の学園ドラマにある道徳的指導など、問題解決の付け焼刃にもならないくらい切羽詰まっていた時代の若者の憂鬱。そんな中、困ったら、ルールなんぞ気にせずヘリクツ上等、破壊上等、一番手っ取り早い方法で助けてくれる鬼塚こそ、当時一番求めていた大人像だったのかもしれない。
メロディーに押し込まれた「POISON」の意味 そんな『GTO』の主題歌は反町隆史の『POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜』。今でも愛される1曲だ。
「♪言いたい事も言えない世の中じゃ」のあとに「POISON…」と慌てて付け足したように、反町が出るか出ないかギリギリの低音で早口で歌うのがいい!この突如入る「POISON」にはどんな意味があるのだろう。別にメロディーの流れ的には、「POISON…」が無くても成り立つ。しかしあるとないとではパンチが大きく違う!
言いたいことを言えない世の中は毒のように苦しい空気が流れる。それに侵されないようにしたい、という念押しの「POISON」なのか。それとも、『GTO』の鬼塚のように、時にはルールを度外視して戦え的な “毒を以て毒を制す” の「POISON」なのか。いや、ストレートに面と向かって毒を吐け(言いたいことを言え)の「POISON」なのか。考えれば考えるほど、「POISON」の意味は深く思える。このナイスな作詞、なんと反町隆史ご本人。グレイトな仕事である!
「そっとしておいてほしい」令和に「変わらない鬼塚」がどこまで通用するか 余談ではあるが、2023年に解散したガールグループBiSHの楽曲「I have no idea.」(2021年)は、この『POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜』と、歌詞が呼応する感じで面白い。「I have no idea.」は「♪いいたいことがない」「♪毛頭目立つつもりはないですそっとしておいて」と歌っている。平成が “自分を守るため戦う” としたら、令和のキーワードは “自分を守るため逃げる、表立って戦わない” かもしれない。
SNSの登場で、1998年とは、人との向き合い方、人間関係の価値観が大きく変わっている現代。4月1日の『GTOリバイバル』にて鬼塚が赴任するのは、私立相徳学院高校。対峙するのは、フォロワーが200万人近くいる暴露系インフルエンサー “裁ノカ笑” だ。
“時代は変わっても、俺は変わらない” というキャッチコピーがついているが、昔とは違った暗闇が広がる高校で、グレイトティーチャー鬼塚の “変わらない” 強引なやり方が通じるのか。どうSNS世代のユウウツをクラッシュしていくのか、楽しみである。
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2024.03.12