僕がオフコースに出会ったのは、ヒット曲の「愛を止めないで」が、ザ・ベストテンにランキング入りしてからだ。
キャンディーズやピンク・レディーなどキラキラしたアイドルの下敷きで勉強していた小学生の僕は、5年生~6年生にかけてサザンオールスターズやツイストなどのロックに目覚め、その頃はまだ、愛とか恋とか別れなんて全然わからなかったけれど、いよいよオフコースという大人の歌の世界に足を踏み入れたのだ。
80年代前半は、少年の非行、校内暴力がクローズアップされ始めた時代でもあり、当時真面目少年だった中学生の僕は、音楽に身を寄せることで日々の安らぎを求めていたのかもしれない。世間でもおおよそこのタイミングでオフコースの名前が世に知れ渡ったと記憶している。
そしてここからオフコースは立て続けにヒットを飛ばし、破竹の勢いでニューミュージック界を席巻してゆくのだ。
そんな中でも異色の楽曲がこの「生まれ来る子供たちのために」だと思う。何故なら「愛を止めないで」はもちろん「さよなら」「Yes・No」という色恋沙汰(失礼)に挟まれて、この社会風刺というか、未来を憂い、嘆き、それでも向かってゆくというストレートなメッセージが込められた曲を、わざわざアルバムからシングルカットしてまでリリースしたのだから。
小田和正さんの作詞作曲である。
本人は――「ちょっと売れているときじゃないと、こういうメッセージ色の強い歌は流されちゃうから…」
と控えめだが、彼の根幹にある思いは後にセルフカバー「言葉にできない」(2001年)や「たしかなこと」(2005年)と、命を繋ぎ未来へ進むことを詞に込め、今も脈々と歌い続けている。
この「生まれ来る子供たちのために」は、まだ記憶に新しい日本を襲った東日本大震災や、2001年に起こったアメリカ同時多発テロ事件(※注1)に紐づける人が多い。僕はあまりこういうのが好きじゃなくって、けれど、確かにそんな気持ちにさせる曲であることは否めない。
アメリカ政府は、2機の旅客機を激突させワールドトレーディングセンターを爆破したこのテロ事件をきっかけにアフガニスタン侵攻を決め、その2年後、イラク戦争へと向かってゆく。血を血で洗う武力行使でその感情を露わにしたのだ。
そして震災に関しては言うまでもないだろう。未来に向けて僕らは何を残せるだろう、何を伝えられるだろうということを、あの夜みんな自問自答したはずだ。
僕自身も、まだ肌寒かった夜に決行された計画停電(※注2)で、いつもは街の灯かりの眩しさで見えなかった、そんな物悲しい星空を眺めながら考えていた。
多くの過ちを僕もしたように
愛するこの国も戻れない
もう戻れない
この憂い嘆く歌詞に小田さんの強い気持ちが隠されている。そして、
真白な帆をあげて
旅立つ船に乗り
力の続く限り
ふたりでも漕いでゆく
その力を与え給え
勇気を与え給え
と歌っている。
これを初めて聴くという方、久しぶりに聴くという方… 僕らは未来を担う子供たちに、いったい何ができるのだろう。
インフラ整備はもちろん、ネット環境が普及した今、僕らはひとりではない。近くの人から遠くネット上の付き合いだけの人だって、きっと心を一つに出来る。そんな時代だ。
ひとりでもできる、ふたりならできる。
自分さえよければという独りよがりで生きてゆくことはできるけど、ふたりならもっと何かできるはずだし、もっと大勢が一つになることで、成し遂げられる大きなことがあるんじゃないかな? と僕は思っている。
僕らが何かを捉え、掴み、そして色のある世界を未来に残せるのだとしたら、こんな素敵なことってないんじゃないかな。
おまけに…
オフコースと出会って3年。中学生最後の年になって、僕はひとりの同級生に恋をした。それはクラスで隣の席になったとっても明るい子。
その子は「三年生を送る会」(予餞会)で、このオフコースの楽曲をバンドで演奏した。僕はカメラマンとして卒業アルバムに載せるため、何枚も何枚も、写真を撮った。そして最後の集合写真を撮るときに、こっそり望遠にしたカメラのファインダーには、彼女だけが映っていた。
その写真はいまも宝物である。
僕にとってオフコースの思い出とは、初恋と綯い交ぜになった未来のキャンバスなのだ。
※注1:
アメリカ同時多発テロ事件は2001年9月11日、アメリカ合衆国内で同時に多発した4つのテロ事件の総称である。この日会社帰りで家に着きTVをつけた瞬間、旅客機がビルに直撃するところで、僕は最初何かのドラマだと思っていた。
※注2:
計画停電の正式名称は輪番停電と言い、震災当時3月14日より東京都の一部地域を含め茨城県、静岡県、山梨県、千葉県、群馬県、埼玉県の各都市で、時間帯をずらして電力供給不足に備えた。我が家も夜の停電を2回経験。久しぶりにラジオの声が沁みた。
歌詞引用:
生まれ来る子供たちのために / オフコース
2018.03.05
Spotify
YouTube / D.C.J 0088
Information