惜しくも100位内に入らなかった藤子不二雄原作作品の主題歌
1982年頃からしばらくの間、藤子スタジオで原稿整理などのアルバイトをしていたことがある。たかだかバイトの分際ではありながらも、藤子アニメは身内の感覚で見ていた。もちろんまだA先生とF先生に分かれる以前、お2人がデスクを並べて仕事をされていた頃の話である。
『オバケのQ太郎』ブームの頃に生まれ、親が買ってくれた『パーマン』や『怪物くん』のソノシートを聴いて育ち、小学生の時には『新オバケのQ太郎』、日本テレビ版『ドラえもん』や『ジャングル黒べえ』を見ていた生粋の藤子チルドレン。大人に近づきつつあった80年代でもコロコロコミックはまだ買い続けていたし、『ドラえもん』の劇場作品も初期の頃は公開される度に観に行っていたのだ。というわけで、今回の
『80年代アニメソング総選挙!ザ☆ベスト100』にノミネートされつつも、惜しくも100位内に入らなかった曲から、藤子不二雄原作作品の主題歌を拾い上げてみたい。
現在も続く長編ドラえもん映画の世界観構築に一役買った名曲
▶︎映画『ドラえもん のび太の恐竜』「ポケットの中に」大山のぶ代 / ヤング・フレッシュ(1980年)年代順ではまず、1980年に公開された映画『ドラえもん のび太の恐竜』の主題歌「ポケットの中に」。長編映画の記念すべき第1作で、同時上映は『モスラ対ゴジラ』の再上映版だった。ドラえもん役の大山のぶ代が歌い、コーラスはヤングフレッシュ。この名曲が現在も続く長編ドラえもん映画の世界観構築に一役買ったことは間違いない。本編音楽の菊池俊輔の作曲で、武田鉄矢の詞が出色である。翌年の長編映画第2作『ドラえもん のび太の宇宙開拓史』でもエンディングに使われている。
愛すべきキャラクターの愛すべき主題歌
▶︎『忍者ハットリくん』(テレビ朝日系)「忍者ハットリくん」堀絢子 / コロムビアゆりかご会(1981年)『ドラえもん』『怪物くん』に続いて1981年にスタートした『忍者ハットリくん』も音楽は菊池俊輔が担当。主題歌の「忍者ハットリくん」は伝統に基づいて藤子不二雄が作詞し、ハットリくん役の堀絢子が歌った。堀は1971年の『新オバケのQ太郎』で初代・曽我町子に次ぐ2代目のオバQ役を演じており、従来の藤子ファンも大歓迎だった。主題歌も役になりきってバッチリ歌ってくれた。過去の実写版ではお面のため無表情だったハットリくんが、アニメ版では愛すべきキャラクターになっており、主題歌も愛らしいものとなっている。
藤子アニメの歴代主題歌でも5本の指に入る傑作
▶︎『パーマン』(テレビ朝日系)「きてよパーマン」三輪勝恵 / コロムビアゆりかご会(1983年)1983年に始まった『パーマン』は2度目のアニメ化で初のカラー版。声優が同じ三輪勝恵というのも嬉しかった。旧作の主題歌「ぼくらのパーマン」は越部信義によるのんびりした佳曲であったが、新作の主題歌「きてよパーマン」はスピーディーかつメロディアスな傑作で、藤子アニメの歴代主題歌でも5本の指に入るのではないだろうか。シュガーの「ウェディング・ベル」をヒットさせた古田喜昭の作曲、ザ・ドリフターズの一連の音楽でお馴染みのたかしまあきひこのアレンジだった。
3代目オバQの夢のある主題歌
▶︎「オバケのQ太郎」(テレビ朝日系)「大人になんかならないよ」天地総子(1985年)3度目のアニメ化となった『オバケのQ太郎』は1985年スタート。3代目オバQ役の天地総子が歌った「大人になんかならないよ」は作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童という意外な布陣。15年ぶりにオバQが正ちゃんと再会し、現実社会の厳しさを作者自身が提起した問題作『劇画・オバQ』の負のイメージを払拭するような、夢のある主題歌となった。
藤子作品には珍しく主題歌は水木一郎
▶︎「プロゴルファー猿」(テレビ朝日系)「夢を勝ち取ろう」水木一郎(1988年)同じ年にスタートした『プロゴルファー猿』の主題歌「夢を勝ちとろう」は藤子作品には珍しく水木一郎が歌った。A先生の原作だけに、作家陣は『怪物くん』と同じ、A先生自らが作詞を手がけ、作曲:小林亜星、編曲:筒井広志。1982年に単発アニメが作られており、野沢雅子が猿を演じたことはあまり知られていないだろう。
守谷香が歌った初代オープニングテーマ
▶︎「キテレツ大百科」(フジテレビ系)「お嫁さんになってあげないゾ」守谷香(1988年)「コロ助ROCK」内田順子(1988年)『キテレツ大百科』は1974年に誕生した漫画だったが、アニメ化されたのは1987年と遅めであった。『ドラえもん』に近い作品世界で人気を博し、アニメもロングランとなる。主題歌は女子人気も高そうな、楽しく可愛らしい歌ばかり。みんな大好き「はじめてのチュウ」は1990年から使われたテーマソングであったため、今回のノミネートは守谷香が歌った初代オープニングテーマ「お嫁さんになってあげないゾ」と、内田順子が歌った2代目エンディングテーマの「コロ助ROCK」になる。いずれも森雪之丞の作詞で、「コロ助ROCK」は林哲司の作曲。氏の提供作品の幅広さが窺える。
藤子不二雄Ⓐ 自らの作詞
▶︎「笑ゥせぇるすまん」(TBS系)「孤独の歌」梅沢富美男(1989年)唯一の大人向け作品『笑ゥせぇるすまん』は1989年10月スタートなのでギリギリのノミネートだった。当初はTBS系で放送されていた大人向けバラエティ番組『ギミア・ぶれいく』内での10分枠のコーナーだった。原作の「黒ィせぇるすまん」から改題されたのはもう忘却の彼方であろうか。よくモノマネされた主役の大平透の声とともに印象深いのが、梅沢富美男が歌った「孤独の唄」であった。藤子不二雄Ⓐ 自らの作詞、伊藤薫の作曲。番組ではスペシャル版など特別な時しか使われなかったが、インパクト抜群の主題歌である。
80年代はアニメの視聴者層の年代も上がってゆく中、60〜70年代と変わらず子供たちに夢を与え続けた藤子アニメは貴重な存在だった。主題歌もキャラクターの名前やきちんと歌い謳い込まれたストレートなものが主流で、一緒に歌えるものばかり。アニメーション音楽の原点が感じられる。人は誰もが大人になってゆくが、ほんの少しでもいいから、どこかに少年少女の心を持ったままでありたいと思わせてくれる歌たちなのだ。
80年代アニメソング総選挙!ザ☆ベスト100
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2024.04.28