昼の番組なのに、リーゼントにレイバン・ウェイファーラーそして革ジャン。見るからにハードボイルドな雰囲気。ロカビリーバンドの人なのか?
このイカす男は、一体何者?
1986年の春、TV をつけると陣内孝則が『笑っていいとも』に出演していた。倉本聰脚本の『ライスカレー』というドラマの番宣だった。
番組が進行していく中で高校の同級生だった女性の公開ラブレターとも思える書面をタモリが読み上げる。
「ステージでの貴方は輝いていました。私の青春です」といった内容だった。
「あっ! やっぱりこの男、唄うたいだった」と喜びもつかの間、彼が “TH eROCKERS” の陣内だと、その時ようやく気付いた。
初めて彼を知ったのは映画『爆裂都市』のサウンドトラック、バトルロッカーズの「セルナンバー8」。当時の陣内は『魔界転生』みたいなメイクで切れ味抜群のスタイル。実際、ファッション的にはマイケル・ジャクソンより先を行ってたんじゃないか?
僕は斬新過ぎてついていけないまま、ザ・モッズやザ・ルースターズに夢中、ザ・ロッカーズの名前は知っていても、物心ついた頃にはバンドは解散してしまっていたし、陣内孝則が何をしているのかなんて興味がなかった。
それが突然、全国放送のTV に彼の姿が日々映し出されるようになる。ズビグニェフ・ツィブルスキ? 灰とダイヤモンド? そういう甘く危険な香りを放ちながら…
『ライスカレー』ではメインキャストを張り、女に弱いお調子者の青年を演じる。TV ドラマでの彼の演技は好評を博し、映画にも次々と出演する事となる。
その後も陣内孝則の快進撃は止まらない――
資生堂 GEAR のCM キャラクターとして登場。このCM で使用されていた曲が「火の玉KISS」。作詞はサンハウスの柴山俊之、作曲はムーンライダースの白井良明。見事に86年という時代の表層を捉える傑作だ。僕はCM で彼が掛けているメガネがフランス製のアラン・ミクリだと知り、親を丸め込んで同じ黒フレームを手に入れるほど陣内孝則にハマっていった。
ちなみに、この資生堂 GEAR は画期的な男性用化粧品で、黒マスクパックやネイル、さらにはあぶらとり紙までラインナップされていた。ちょっと年上のお兄様方はギリシアの男性さながらに着飾り、化粧してディスコに出掛け、ボディコンのお姉様方と戯れたに違いない。
近現代の日本男子がここまで着飾ったのは、たぶん、このときが初めてのことではないか? そういう時代の最先端を陣内は飄々と駆け抜けていった。
今はもうすっかり無かった事になっているが、当時VHS で発売された『DRY JIN -風-』という陣内の “jin” に掛けたビデオ作品があり、これも実にキザな作品で好きだった。
80年代半ば、歌よりも演技やキャラクター性で時代を体現した陣内だが、今こそその歌唱やスタイルに注目してもよい頃じゃないだろうか。
2018.06.03
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