「自分の性格形成に決定的な影響を及ぼしたものは何?」と聞かれたらあなたは何と答えるだろうか。ビートルズ? ガンダム? 私は即答するだろう。そのうちの一つは間違いなく『パタリロ!』だと。 未だにおばさんと聞けば「高円寺のおばさん」、博士と聞けば「シバイタロカ博士かフリッツ・フォン・マンテル博士どっち?」と臆面もなく考える。オカルトを愛したのも、BL に興味を持ったのも、電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも(違)、みんな『パタリロ!』のせいである。 恐るべしパタリロの呪縛! 刷り込まれた大量のギャグよフォーエバー! 魔夜峰央の代表作にして大傑作『パタリロ!』は、1978年11月20日、白泉社の少女漫画『花とゆめ』で連載スタート。媒体を移しながら現在も連載中のスーパーギャグ漫画だ。 導入に使われるマンネリの枕詞は “常春の国、マリネラ”。そこを舞台に、国王パタリロ・ド・マリネール8世が巻き起こすシュールでクールなドタバタ劇。美少年軍団の精鋭、タマネギ部隊や、英国諜報機関 MI6 のバンコラン少佐、その情人にして元プロの殺し屋、マライヒを中心に、物語は基本一話完結で進んでいく。 彼らとの出会いは小学6年生。友達からコミックスを借りたのがきっかけだった。忘れもしない第1巻。「墓に咲くバラ」に涙を流して笑い、子供心に唸りまくった。『まことちゃん』や『マカロニほうれん荘』でも涙は流さなかったのに! ファンタジーながら超絶ドライな登場人物、リズム感とキレ、ブラックな笑いに満ちたセリフ運び、ゴシック感と陰影あふれる絵柄、耽美で謎めいた美少年たち。一発で夢中になった。 魔夜峰央は何年か前のインタビューでこんなことを言っている。 「資料は調べません。ヒースロー空港や新宿歌舞伎町といった描写もナレーションひとつで済ませます。説明は手間暇のムダ」 きっとこういう感性にシンパシーを抱いたのだろう。物語にはさまざまな仕掛けがあり、意味もなく固有名詞が散りばめられていた。読んでどれだけ私が妄想を逞しくしたか、どれだけ想像力を振り絞って読み解こうとしたか。ギャグに説明はなかったし、でもギャグはそれでよかった。説明なんてダサい。 アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』など知らないのにワクワクした。よく登場した萩尾望都の作品も遡って読んだ。薔薇や鬱の漢字が書けるようになった。「イヨマンテの夜」は母に聞いて昭和25年のヒット曲と知った。必殺ギャグ「誰が殺したクックロビン」はマザー・グース の童謡由来だった。アスタロトやベールゼブブ等の悪魔学、『牡丹灯籠』などの日本の幽霊や妖怪。お稚児さん制度、陰間茶屋 etc. ―― 全て『パタリロ!』に教わった。 1982年4月8日からフジテレビ系列でテレビアニメがスタートした。このアニメの何がエポックメイキングだったかと言えば「クックロビン音頭」に音声が付いたことだ。ずっと漫画を読み、頭の中で勝手にリズムを刻みながら慣れ親しんできた渾身のギャグがアニメで楽しめるとあって、否が応でも期待は高まった。 でもね、やっぱり初めて見た時はちょっとガックリした。違う。私のクックロビンはこれじゃない…。いや、きっと漫画ファンなら誰しも同じ思いだったと思うのだ。私の妄想だと、フレーズはもっとゆっくりめで「誰が」と「殺した」の間にはワンクッション入り、最後はフラットだったから(笑)。 今となっては「あっそーれ!」まで含めて、アニメのあの曲でしか再生されないのだが。 もう一つ、バンコランとマライヒの BL シーン(割と濃厚め)が夕食時にお茶の間に流れたというのも画期的だったのではないだろうか。エンディングテーマ「美しさは罪〜♬」という耽美なバンコラン賛歌も大好きだったし、未だに口ずさんでしまう。アニメは21話から『パタリロ!』を『ぼくパタリロ!』と改題し、1983年5月まで続いた。 ちなみに、同年7月には『パタリロ! スターダスト計画』と題した映画が公開される。原作コミック初の長編ストーリーをアニメ映画化したもので、同時上映はシブがき隊の『ヘッドフォン・ララバイ』だった。 2018年に、魔夜峰央はデビュー45周年、『パタリロ!』は連載40周年を迎えている。コミックス刊行は100巻(少女漫画界では異例)を突破し、舞台や原画展の開催など記念行事が相次いだ。さらに2019年には舞台に続き、加藤諒主演で実写版映画の公開が控えている。 魔夜峰央は今後の目標を次のように言う。 「次の目標は200巻。あと40年待ってください」。 40年。何が起こってもおかしくない時間だ。パタリロの得意技、タイムワープや人間コンピューターが誰でも駆使できるようになるかもしれない! パタリロならではの妖かしと近未来とゴシックランドが現実として花開いているかもしれない! 楽しみに待っています。
2019.02.01
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