1975年 11月21日

全曲が荒井由実と筒美京平!郷ひろみ 20歳の輝きを切り取った作品「HIROMIC WORLD」

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スリー・ストーリーズ by Re:minder
郷ひろみ ① 全曲が荒井由実と筒美京平!20歳の輝きを切り取った作品

1970年代前半を代表するトップアイドル・郷ひろみ


郷ひろみのデビュー曲は1972年8月にリリースされた「男の子女の子」(作詞:岩谷時子、作曲:筒美京平)である。このヒットが印象的なために忘れられがちだが、郷ひろみは歌手デビューする前に俳優としてデビューしている。同年1月にNHKの大河ドラマ『新・平家物語』で平経盛を演じたのが、本当の芸能界デビューだった。

さて、「男の子女の子」に続きヒットを連発した郷ひろみは、西城秀樹、野口五郎とともに “新御三家” と呼ばれるようになり、1970年代前半を代表するトップアイドルとして活躍する。けれど、西城秀樹や野口五郎に比べると、郷ひろみは最初から歌も芝居もするアイドルというイメージが強かった。

当時の歌謡曲の売り方は、テレビの歌番組で新曲をプロモーションするのが一般的で、そのために人気歌手はかなりのハイペースでシングルをリリースする傾向があった。郷ひろみもデビューの1972年には「男の子女の子」を初めとする3曲、1973年には「裸のビーナス」など4曲、1974年には初のチャート1位シングル曲となった「よろしく哀愁」など4曲を発表している。そして翌1975年にはジャニーズ事務所を離れてバーニングプロダクションに移籍するが、シングルをリリースするペース変わらず、「花のように鳥のように」など4曲を発表している。

シングルや洋楽カバーなどで構成された初期のオリジナルアルバム


初期の郷ひろみはアルバムのリリースも多く、1972年11月にリリースされたファーストアルバム『男の子女の子』を手始めに、ジャニーズ事務所時代に4枚のスタジオアルバムと1枚のライブアルバムを発表している。年平均2枚のアルバムリリースは今の感覚では多い気もするが、郷ひろみの場合はファン向けのグッズ的意味合いもあったのかもしれない。

アルバム『男の子女の子』はデビューシングルの「男の子女の子」を軸に、オリジナル曲と洋楽ポップスのカバー曲で構成されており、他のアルバムもそれぞれのタイミングで発表されるシングルを軸にまとめられている。それでも、アルバムごとにそれぞれテーマを持たせたり、シングル曲を違うテイクで収録したりと、アルバムを作品として成立させようとする意図が見られるようになっていくのは興味深い。

作詞がユーミン、作曲は筒美京平の全曲書き下ろし


そして本題。今回紹介する『HIROMIC WORLD』は1975年11月に発表された6枚目のアルバムだ。先に触れたように、これまでのアルバムではシングル曲との連動がお約束になっていたが、このアルバムは初めてシングル曲が収録されず、すべてがこのアルバムのために書かれたオリジナル曲で構成されている。しかも、全曲が作詞:荒井由実(現:松任谷由実)、作曲:筒美京平の書き下ろしという完全なコンセプトアルバムになっているのだ。

筒美京平はこの時代最大のヒットメーカーであり、デビュー曲「男の子女の子」をはじめ、郷ひろみにも多くの楽曲を提供しているから納得できるが、この時点での荒井由実は「あの日にかえりたい」でチャート1位を獲得(1975年12月)するなど注目はされていたが、まだデビュー2年目の新人、しかも女性のシンガーソングライターに男性アイドルのアルバムの歌詞をすべて委ねるというのは、大冒険といっていいだろう。

この大胆な企画の背景には、郷ひろみのシンガーとしてのクオリティーアップを目論む狙いがあったのだろう。そして、この時点で荒井由実の作家としての力量を見抜いたスタッフはまさに慧眼というしかない。



20歳のタイミングでしか作れなかったアルバム「HIROMIC WORLD」


『HIROMIC WORLD』には全11曲が収められているが、「男の子女の子」のような、いわゆるティーンエイジ・アイドルソングは収録されていない。このアルバムは様々な角度から、20歳という、子供から大人になろうとしている年代の男の子のかっこよさやかわいらしさを描いている。その意味で、これは実際に郷ひろみが20歳になったタイミングでしか作れなかった作品といえるだろう。

普通、アルバムの1曲目は目玉となる華やかな曲が置かれるのだが、『HIROMIC WORLD』の1曲目の「午后のイメージ」は、軽快だけどどこか大人っぽさを感じさせるミディアム・ポップナンバー。歌詞に原宿が出てくるが、1975年当時の原宿は、1980年代以降のような若者が集う街ではなかった。感度の高いマニア向けの店がポツリポツリと生まれてはいたけれど、全体としては落ち着いた住宅街だった。

続く「20才を過ぎたら」は成人を迎えた男の子が10代の恋の経験を振り返り、「恋のハイウェイ」ではハーレー・ダビッドソンの後ろに元カレから奪った恋人を乗せてハイウエイを疾走する。この他にも、ファンク風の「宇宙のかなたへ」や、恋人の強面の父親をテーマにした「君のおやじ」など、バラエティあふれる曲が並んでいる中、特に印象的なのが「ウイスキー・ボンボン」だ。

男性のかわいさと魅力を引き出したユーミンの歌詞


「ウイスキー・ボンボン」は年上の女性に誘惑されて部屋に行ったけれど、彼女についていけずに帰ってしまう男の子の歌。セクシーな大人の女性に惹かれはするけれど、まだ子供な自分は彼女とはつり合わないと思う。だから彼女に勧められたジントニックを飲まずにウイスキー・ボンボンをつまんで部屋を出る。

この描写がなんとも気が利いていて、これだけで彼がお酒を飲める歳ではあるけれど大人の恋のゲームにはまだ早い、という微妙な年代だということが伝わってくる。さすがユーミン。しかし、この年代の男性のかわいさと魅力を引き出すことができるのは、女性の視点だからこそなのかもしれない。そして、この女性からの視線をもあっけらかんと受け入れ歌い切ってしまうところも郷ひろみの凄さなのだろう。

もはやアイドルソングとはいえない「青ひげの男」


「青ひげの男」も不思議な曲だ。描かれるのは、ファウスト伝説を思わせる青ひげの男と取引をした主人公。間近に迫った “約束の日=死” を前にした思いでいる。もちろんそれは、人の心の奥にある衝動のひとつではあるけれど、それをゴシックロマンのようなドラマチックな世界観で描いた曲は、もはやアイドルソングとはいえないだろう。

「雨にひとり」も「青ひげの男」と違う意味で、郷ひろみのシンガーとしての幅を広げる可能性を持った曲だ。曲調としてはしっとりとしたバラードで、『HIROMIC WORLD』では20歳の郷ひろみが歌うからこその瑞々しさがあるのだけれど、この曲を五木ひろしや前川清が歌ったら本格的ムード歌謡として成立するのではないかとも感じる。そういった意味でこれは、郷ひろみが歌い続けることで成熟していく可能性を持った曲といえるだろう。

これらの曲だけでなく、『HIROMIC WORLD』の歌詞はこの時代のアイドル歌謡を大きく超えた世界観を持っている。その世界観が、筒美京平によるマイルドでポップなメロディ、そして洋楽ポップスの感覚を積極的に取り入れたアレンジによって、それまでの郷ひろみファンにも大きな違和感を覚えさせず、大人になろうとしている微妙な時期の輝きを切り取って表現することに成功している。まさに郷ひろみにとってひとつのターニングポイントと呼ぶにふさわしいアルバムだ。

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2026.01.26
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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