いわゆる名画ではないが、個人的に “愛着のある” 映画というものがある。それは自分の “アティテュード” を決めてしまうものだ。ザ・フーが製作し、モッズ・リヴァイバルの火付け役となった『さらば青春の光』は、僕にとって初めて出会った “愛着のある” 映画だ。 主人公・ジミーは冴えないメールボーイでモッズだ。モッズとは、スーツやフレッドペリーを着て、タイトなリーヴァイスのジーンズを履き、軍用パーカーを上から羽織り、イタリア製のスクーターに乗るバイカー集団のことだ。彼らは、ソウルミュージックやジャズで夜な夜な踊る。ジミーはそのスタイルを自分のアイデンティティとしている。 しかし、彼の頭にはいつもモヤモヤしたもので満たされている。彼はそれを取り払おうとするかのように、ザ・フーの「マイ・ジェネレーション」をパーティで流して暴れたり、テレビで放映されるザ・フーの映像に合わせてエアドラムを披露したりしている。「これは僕じゃないか」と中学生の僕は、完全にジミーに自分自身を見出していた。 やりきれない感情は、映画のクライマックス、モッズと対立するバイカー集団・ロッカーズとの海沿いの保養地・ブライトンでの暴動として爆発する。作中の「ウィー・アー・モッズ!」の掛け声。僕も彼らと同じように叫んだ。そして、ブライトンの暴動後ジミーの生活は、よりひどいものとなっていく。彼女にはフラれる、アイデンティティであるスクーターは車に轢かれる。そして、彼は最後の「決断」へ……。 14歳の鬱屈した青年にとって、この映画の与えた衝撃は計り知れなかった。ジーンズを履いたまま風呂に入り、タイトにもした。横須賀に行き、ジミーと同じモッズコートを買った。しかし、時が悪かった。ちょうど『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の大ヒットを受け、モッズコートは主演の織田裕二演じる青島が愛着するものとして広まってしまっていたのだ。 そして僕は同級生からの無理解な「それ、青島コートじゃん」という言葉に耐え、ますます「ウィー・アー・モッズ!」と心の中で叫んでいたのだ。
2017.01.12
VIDEO
YouTube / normanby4
Information