今なぜヴァン・ヘイレンなのか? 2026年1月26日、もしエディ・ヴァン・ヘイレンが存命であれば71歳の誕生日を迎える。ロックギターの革命児がこの世を去って、早いもので5年余り経過したが、その影響力はリアルタイムでエディを知る世代に留まらない。例えば現在、日本のガールズメタルシーンで大躍進するバンド “HAGANE” のギタリスト・Sakuraは、エディ直系のアンプ『EVH5150』を愛用し、満面の笑みでタッピングを披露する。彼女のようなZ世代のプレイヤーがギターを弾く喜びを体現している事実は、エディのスピリットが時代を超えて継承されている何よりの証だ。
だが、ヴァン・ヘイレンのリバイバルは、ギタリストのコミュニティだけに留まるべきではない。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」がそうだったように、今やTikTokをはじめとする短尺動画プラットフォームが、現代の若年層にレジェンドたちを届ける重要な媒介になっている。現時点で彼らがバイラルしているとは言い難いが、その秘めたポテンシャルは間違いなく大きい。そこで、今なぜヴァン・ヘイレンなのか。2026年の視点から、その必然性を見ていこう。
イントロのつかみが明確なデイヴ・リー・ロス在籍時の楽曲 TikTokにおけるバズる鉄則のひとつは、冒頭数秒での視覚的インパクトと真似したくなるフックだ。エディのプレイは、このプラットフォームのために存在するかのような要素に満ちている。エディの代名詞であるタッピング奏法 ≒ ライトハンド奏法を象徴するギターインスト曲「暗闇の爆撃」(Eruption)を思い浮かべてほしい。高速で右手と左手の指がギターの指板を駆け巡る映像は、スマホの画面でも至高の視覚的マジックとして機能する。ギターの知識がなくても、あの超絶技巧が15秒に凝縮されれば、スクロールの手が思わず止まるはずだ。
VIDEO また、「ミーン・ストリート」のイントロで炸裂する、スラップとタッピングを組み合わせた打楽器的アプローチはどうだろうか。何が起きているのか判別不能なほどクールな導入部は、視聴者の二度見を誘発し、ループ再生に導く強力なきっかけとなる。リフ自体も口ずさめるほどに覚えやすく、とりわけ、ボーカルにデイヴ・リー・ロスが在籍していた当時の楽曲は、イントロのつかみが極めて明確だ。
そして、あまりにも有名な「ジャンプ」のシンセフレーズや、「パナマ」や「踊り明かそう」(Dance The Night Away)などでの爽快なコードワーク、一方で「叶わぬ賭け」(Ain't Talkin' 'bout Love)、「悪魔のハイウェイ」(Runnin' with the Devil)、「アンチェインド」などでの緊張感に満ちた響き。これらは動画のBGMとして使用された瞬間に、画面全体の温度に劇的な変化をもたらすに違いない。
VIDEO さらには、エディのビジュアルイメージも重要だ。超絶技巧を駆使しながらも、常に楽しそうな笑顔で弾くエディのスタイルは、今のクリエイターたちが求めるポジティブなエネルギーそのものだ。
アレックス・ヴァン・ヘイレンの独特なドラミング ヴァン・ヘイレンの音楽が持つもうひとつの強みは、ハードロックでありながらダンスミュージックのように機能する点だ。これは、アレックス・ヴァン・ヘイレンの独特なドラミングによるところが大きい。彼の叩き出すビートは直線的なリズムではなく、常にスウィングし、跳ねている。
「エブリバディ」(Everybody Wants Some‼)のワイルドなジャングルビートや、「ホット・フォー・ティーチャー」の高速シャッフルなどは、現代のダンスチャレンジやストリート系のファッション動画の背景などに驚くほどフィットしそうである。
さらに、デイヴ・リー・ロスの野性味溢れるシャウトや、ベースのマイケル・アンソニーによる突き抜けたハイトーンコーラスは、動画のオチや展開の切り替わりなどを演出する、音素材としての宝庫といえよう。
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DIY精神に溢れたギター、フランケンシュタインのデザイン 音楽性だけでなく、アイコンとしての強さも見逃せない。エディが自らテープを貼って作り上げたギター、フランケンシュタインのデザインだ。エディ自身が生前に『EVH』としてブランド化させたように、赤、白、黒の幾何学的なストライプ模様は、もはや楽器の枠を超えたひとつのデザインブランドと言っても過言ではない。
そのDIY精神に溢れた意匠は、カスタマイズやリメイクを好む現代のストリートカルチャーやファッション感覚とも親和性が高い。ストリートブランドがよりデザインに焦点を当ててオマージュし、アパレルで展開する未来が想像できる。自分で組み上げ、塗り替えるというエディの豊かな独創性は、自分らしさを表現したい今の若い世代の感性にも共鳴するはずだ。
エディ・ヴァン・ヘイレンが追求した “ブラウン・サウンド” そして、ヴァン・ヘイレンのリバイバルを信じたい本質的な理由は、過剰にデジタイズされた現代の音楽への反動にある。昨今の音楽制作は、ピッチもリズムも完璧に補正された隙のない音が主流だ。その一方で、我々の耳は不完全で生々しく、血の通った音を本能的に求めはじめている。エディが追求したそんな “ブラウン・サウンド” の本質は、単なる歪んだギターの音ではない。真空管の熱気が伝わってくるような温かみ、ピッキングの強弱で表情を変える繊細さ。そして、人間がその場で爆音を鳴らしているという確かな実在感だ。
この人間味の濃さは、他のメンバーが生み出すサウンドや歌声にも共通している。AI生成音楽が台頭し、均一化されたサウンドが溢れる現代において、ヴァン・ヘイレンの楽曲から溢れ出すオーガニックな音像の衝撃は、逆に新鮮でエモーショナルな体験として若者の耳に届くだろう。
2026年1月26日、エディ・ヴァン・ヘイレンの肉体はこの世を去った。しかし、彼が発明したサウンドとスタイルは、今この瞬間もスマホ画面の向こう側で、新たな表現者たちに発見されるのを待っている。ヴァン・ヘイレンのリバイバルへの期待は、単なるノスタルジーではない。エディのポジティブな精神が、現代のクリエイターの手によって全く新しい形でアップデートされ、再び世界を熱狂させることへのワクワクするような期待感だ。そんな熱い瞬間が迫っていると信じたい。
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2026.01.25